「SiC」と「GaN」、勝ち残る企業はどこか?(前編)知財で学ぶエレクトロニクス(1)(1/5 ページ)

品質やコストと並んで、設計開発者が関心を持たなければならないのが、「特許」だ。製品設計の前段階から、自らの新たな視点に基づく特許出願を心掛けることが重要だが、まずは技術者が自ら特許について調べるためのヒントが必要だろう。本連載では、特定分野を毎回選び出し、その分野に関する特許の企業別、国別の状況を解説しながら、特許を活用する手法を紹介する。

» 2012年08月06日 09時45分 公開
[菅田正夫,知財コンサルタント&アナリスト]

 電子部品や機器の設計開発者が取り組まねばならないことは、少なくありません。まずは、実現したい仕様を前にして、コストや量産性、品質の詰めをしていかなければなりません。

 もう1つ忘れてはならないことが「特許」です。製品化に必要な特許が手元にそろっていない場合には、これから設計開発を始める製品を販売できない可能性さえあります。重要な特許の取得は、たとえ直近の製品化につながらなくても将来のビジネス上の取引や交渉の武器となり、自社の利益に大きな貢献をします。

 このように、技術を製品という形にする場合、特許は非常に重要な役割を果たしています。ですから、知的財産(知財)部門の協力を仰ぐことはもちろんのこと、技術者自らが関連特許について調べ、「製品設計の前段階から、自らの新たな視点に基づく特許出願を心掛ける」ことが必要です。これこそが現在の日本企業の製品開発を背負う設計者の方々に求められている「発想の転換」です。

 そこで、当連載では毎回特定分野を選び出し、その分野に関する特許の企業別、国別の状況を解説するとともに、技術者が自ら特許について調べるためのヒントを紹介していきます。第1回は「次世代パワー半導体」を取り上げます。第2回はこちら

次世代パワー半導体とは

 省エネルギーを実現する次世代パワー半導体として、バンドギャップが大きな*1)半導体、すなわちSiC(炭化ケイ素、シリコンカーバイド)、GaN(窒化ガリウム)、さらにはGa2O3(酸化ガリウム)が注目されています。次世代パワー半導体でも、Si半導体と同様にウエハー供給と、それを利用したデバイス製造とが、分業化されています。そこで、第1回ではウエハー企業に、その後はデバイス企業に、それぞれ注目します。

*1) Siよりもバンドギャップが大きく、絶縁破壊電圧が大きな半導体を利用すれば、素子を薄くできるほか、ドープ濃度を高くすることができる。これにより、オン抵抗を低減でき、損失の小さなパワー素子を製造できる。

各企業は何に取り組んでいるのか

 次世代パワー半導体は、Si半導体と同様に、現時点では2つの工程に分業化されています。SiC単結晶の形成やSiC単結晶のウエハー供給、さらには、SiCウエハー上にエピタキシャル層(エピ層)までを形成して提供するウエハー供給を担当する工程が1つ。もう1つは、SiCウエハー上へのエピタキシャル層の形成(あるいはエピタキシャル層付きSiCウエハーを利用)から始める半導体チップの作り込みやパッケージ化からなるデバイス供給です。

 そこで、今回は、SiCやGaNなどのパワー半導体用ウエハー供給に注目します。次回は、ダイオードやMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、IPD(Intelligent Power Device)といったパワー半導体デバイス供給について紹介します。SiCとGaNそれぞれについて、主に知財の観点から技術開発動向をおさえた後、次回、国別の特許出願件数とその動向について解説します。

米国企業が先行、それを追う日本企業

 SiCウエハーを供給する企業は、主に米国企業と日本企業が占めています。米国企業としては、米II-VI(ツーシックス)や米Cree(クリー)、米Dow Corning(ダウコーニング)があり、日系企業としては新日本製鉄、昭和電工、HOYA、ドイツSiCrystal(2010年にロームが買収)、東レ・ダウコーニング(東レとDow Corningとの合弁会社)、エコトロン、エア・ウォーター、粉体原料からの一貫生産をねらうブリヂストン、住友金属工業などが主要企業です。この他、中国企業としてTanKeBlue Semiconductorが目立ちます。

 それでは、企業別にSiCウエハー供給事業開発の現状を探ってみましょう。

SiCウエハー事業開発動向

 インターネットで公開されている情報で確認できた範囲から、表1にSiCウエハーに取り組む企業の状況をまとめました。各社の手掛けるSiCウエハーの種類、企業の拠点とする国や地域、そしてウエハー製造のどのプロセスまでを担当しているかが読み取れるはずです。

表1 SiCウエハーに取り組む企業の開発動向 表中の記号の意味は以下の通り。○:該当を確認済み、―:非該当を確認済み、記号なし:確認できていない。クリックで拡大

 表1で取り上げた各企業の動向を知財の観点から追ってみましょう。最も重要なのは、Creeと新日本製鉄の動向です。

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