「SiC」と「GaN」、勝ち残る企業はどこか?(前編)知財で学ぶエレクトロニクス(1)(5/5 ページ)

» 2012年08月06日 09時45分 公開
[菅田正夫,知財コンサルタント&アナリスト]
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Creeと組んだ三菱化学

 三菱化学は1971年に販売を開始したGaAs(ガリウムヒ素)ウエハーに続き、LED用GaNウエハー向けに開発を進めてきました。そして、「MOCVD装置によるLED製造用GaN系エピタキシャルウエハーの量産技術」と「NTTアドバンステクノロジ(NTT-AT)の製造ノウハウ」を融合させ、電子デバイスへの利用が可能なGaN系エピタキシャルウエハーの量産体制確立を目指しています。既に、LED向けGaNウエハーについて、Creeのウエハー製法や製品に関する特許の独占実施権を獲得しています*20)

*20) 三菱化学とCreeのライセンス契約の発表資料(PDF)。三菱化学の有価証券報告書 第17期(平成22年4月1日-平成23年3月31日)のp.32には以下の記述(PDF)がある。「契約締結先:(アメリカ)クリー社、内容:窒化ガリウム基板特許の実施許諾、契約締結日:平成20年11月7日、有効期間:平成20年11月から特許消滅日まで、対価:一時金及びランニング・ロイヤルティー」。

 フランス国立技術研究機関(CNRS)発のベンチャー企業Lumilog(ルミログ)は、現在SAINT-GOBAINの傘下に入り、当初から電子デバイス用GaN基板*21)のユーザー開拓に進み、低価格化を狙っています。

*21) SAINT-GOBAINのGaN基板に関するWebページ

 東レ・ダウコーニングはGaN on Siへの取り組みも加え、広範囲のデバイスニーズをカバーできる体制を目指しています*22)

*22) 東レ・ダウコーニングによるGaN基板に関するWebページ

 日立電線は、サファイア基板とGaN成長層との間に、微細な網目構造(ナノネット)をもつTiN(窒化チタン)の薄膜を挟み込んで結晶を成長させています*23)。結晶成長時に、TiN膜の界面にミクロンオーダーの微小なボイド(空隙)が多数形成されるため、ダメージなく大面積のGaN結晶を簡単に剥離できる「ボイド形成剥離(VAS)法」を開発し、高品質なGaN基板の生産・販売を開始しています。VAS法とナノネットによる製造技術の確立で、面内均一の低転位密度を実現するLED用GaNエピタキシャルウエハーに参入しています。いずれはパワー半導体用への展開も考えられます。

*23) 日立電線による「大型高均一GaN基板の量産技術開発」に関する概要説明

 2007年に古河機械金属との業務提携*24)で強固な経営基盤を構築したパウデックは、高品位GaN結晶を安価なサファイア基板上に形成したGaNエピタキシャルウエハー供給を目指しており、パワー半導体の試作にも取り組んでいます。

*24) 古河機械金属とパウデックの資本・業務提携に関する発表資料(Internet Archive)。

次回は地域別の特許件数を分析

 次回は、特許情報に基づき、地域ごとに次世代パワー半導体ウエハーの事業開発をふかんしてみることにしましょう。特許の検索方法についても紹介します。

筆者紹介

菅田正夫(すがた まさお) 知財コンサルタント&アナリスト (元)キヤノン株式会社

メールアドレス:sugata.masao[a]tbz.t-com.ne.jp

1949年、神奈川県生まれ。1976年東京工業大学大学院理工学研究科化学工学専攻修了(工学修士)。

1976年キヤノン株式会社中央研究所入社。上流系技術開発(a-Si系薄膜、a-Si-TFT-LCD、薄膜材料〔例:インクジェット用〕など)に従事後、技術企画部門(海外の技術開発動向調査など)をへて、知的財産法務本部特許・技術動向分析室室長(部長職)など、技術開発戦略部門を歴任。技術開発成果については、国際学会/論文/特許出願〔日本、米国、欧州各国〕で公表。企業研究会セミナー、東京工業大学/大学院/社会人教育セミナー、東京理科大学大学院などにて講師を担当。2009年キヤノン株式会社を定年退職。

知的財産権のリサーチ・コンサルティングやセミナー業務に従事する傍ら、「特許情報までも活用した企業活動の調査・分析」に取り組む。

本連載に関連する寄稿:

2005年『BRI会報 正月号 視点』

2010年「企業活動における知財マネージメントの重要性−クローズドとオープンの観点から−」『赤門マネジメント・レビュー』9(6) 405-435


おことわり

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