開発中止の危機を乗り越えヒット商品に、「EyeSight」成功の原動力とは富士重工業 EyeSight 開発担当者インタビュー(2/3 ページ)

» 2012年08月07日 11時46分 公開
[朴尚洙@IT MONOist]

発売直前に発覚した問題

MONOist 1997年春のプロジェクト立ち上げから約2年半を経た1999年9月、ステレオカメラを使用する運転支援システム「ADA(Active Driving Assist)」を、「ランカスター」(現在の「アウトバック」)向けに発売しました。

樋渡氏 実は、ADAの発売時期は1999年5月から9月に延期になっています。その原因は、評価試験の中でも重点を置いていた逆光対応の不備でした。逆光にも、光の加減でいろいろなバリエーションがありますが、そのときまでは全てに対応できているつもりでした。しかし、1〜2月に行った評価試験で、太陽の位置が低いときの逆光によりCCDセンサーが飽和してしまうという問題が発覚したのです。

「ADA」のステレオカメラ「EyeSight」のステレオカメラ 左の写真は「ADA」のステレオカメラ。右の写真は、現行の「EyeSight」のステレオカメラである。(クリックで拡大) 出典:富士重工業

 自動車の安全システムを開発する上では、周辺環境に対してその機能を動作させるか否かは、はっきりと白黒つけておかなければなりません。もしグレーゾーンがあったら、事故につながる可能性もあります。

 そこで、この逆光によるCCDセンサーの飽和の問題を解決するために、発売時期を延期したのです。

MONOist ついに発売したADAですが、売れ行きはどうでしたか。

樋渡氏 初代ADAの出荷台数は数百台が良いところで、売れ行きは芳しくありませんでした。革シート付きとはいえ80万円という価格設定を考えると、仕方がないかもしれません。

 当時から現在に至るまでも、当社の車両の特徴はAWD(四輪駆動)の走行性能です。このため、当時の販売サイドで、運転支援システムであるADAを売るための方法を確立していなかったのもあるでしょう。

MONOist その後ADAは、2001年に2代目、2003年に3代目と進化します。

樋渡氏 初代のADAは、「車線逸脱警報」、「車間距離警報」、「車間距離制御クルーズコントロール」、「カーブ警報/シフトダウン制御」という4つの機能に対応していました。2代目では、ステレオカメラから得た障害物情報や、路面の滑りやすさ情報を用いてVDC(横滑り防止装置)のパラメータを変更する「VDCのプレビュー制御」を追加しました。当社の車両の特徴がAWDである以上、走行制御システムと連携させる必要があると考えたからです。

 3代目は、ステレオカメラに加えて、降雪や霧などの悪天候に対応するためのミリ波レーダーを搭載して、8つの機能に対応しました。2個のセンサーを使うセンサーフュージョンも、他社に先駆けた取り組みだったと思います。

 しかしながら3代目に至っても、ADAの装着率は数%以下と、売れ行きは良くありませんでした。売れ行きが悪いこともあって、サプライヤもステレオカメラの製造からの撤退を要望し始めました。

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