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» 2012年08月31日 12時12分 公開

雑談S&OP 松原先生との対話:部門も言語も超える共通語が、日本にも必要な時代になったんです (3/3)

[原田美穂,@IT MONOist]
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製造業におけるサプライチェーン管理の重要性を身をもって知った

編集部 この半年くらいで、欧米だけでなく日本のITベンダーからもS&OPプロセスをキーワードとした製品開発の話を聞くようになりました。

松原 タイの洪水、大震災の件でサプライチェーン寸断に近い事態が発生しました。あのようなサプライチェーン上の課題を解決するための1つの手法がS&OPですからね。だからこそ、そうではない製品であってもこの用語で販売しに行くようなリスクがあるんですよ。

編集部 その中でも特にロジスティクス系の方々が中心となってこの話題をしている印象があります。

松原 MRPをベースにしているものですから、そもそも、工場、とくに需給を管理している部門が中心となります。S&OPは、事業計画や財務評価も含むコンセプトで、ロジスティクスに閉じたものではないけれどもサプライチェーン管理の延長線上にあることは間違いではありません。

 ある国内メーカーの方が、サプライチェーン・マネジメントが日本に紹介されて10年以上がたったにもかかわらず、サプライチェーン管理者の企業における地位が一向に向上しない、というんですね。こんなにも企業の体力に影響を与える領域であるにもかかわらず、地位が低い、と。その方は、サプライチェーン管理者の地位を引き上げる可能性があるのが、S&OPプロセスではないかと考えて、2008年に当時のサプライチェーン協議会日本支部の中にS&OPのワーキング・チームを立ち上げました。私も、アドバイザーとして協力しました。

 S&OPプロセスそのものは、バリューチェーン・プロセスの全体をカバーし、オペレーショナルなものというよりは、より上位の戦術レベルに位置付けられるものです。だから、S&OPが日本企業に普及することによってサプライチェーン管理者の地位が向上するのではないかというのです。

業績予想の質と現場把握能力が問われていることを意識しなければならない

松原 このプロセスは、先に述べたように、財務部門の人にとっても重要なものになるはずなんです。日本の株式市場では企業が売上高や営業利益、経常利益、そして当期利益といった「業績予想」を開示するという慣行があるでしょう? あれは日本独自のモノです。

 現在は、(市場の変化や製品サイクルの短期間などを要因に)業績予想が立てにくくなっている状況がある。東京証券取引所のルールでは一定の変動があった場合には、速やかに業績予想の修正情報を開示しなくてはなりません。古くからのスタイルであれば、本当に「えんぴつなめなめ」の世界で数字をすくって開示しているのがおおかたです。この業績予想開示というのは、企業にとっては非常に大きなリスク要因なのです。売上高や利益の下方修正を発表した場合には株価が大きく下落します。さらに、予想と実際が乖離すれば目も当てられないですよね。後出しで「想像していたよりも赤字が膨らんじゃいました」なんていう情報を小出しにしているようでは、株主からもそっぽを向かれかねない。

 これは僕の持論なんだけれども、財務情報とモノの流れをS&OPプロセスでリンクさせていくことで、確度の高い業績予想につなげられると考えています。

 連載記事でも言及があるように、現在、東証では情報開示のルールを緩和しつつありますが、この慣習は兜町の古くからのもの。いまだに多くの企業が従っているところです。

 日本以外の国では、こんなことを企業側は行いません。アナリストが分析する。だからとてもシンプルなんです。ところが、東証での業績予想開示は「確定情報ではない」というアナウンスのもとに開示されたとしても、世の中には「コミットメント」として受け止められてしまうんです。予想と結果がズレてしまえば当然、さらに株価が下がってしまう。為替も市場も変化が激しい昨今で、これは企業にとって非常に厳しい課題です。

 実のところ、米国ではいままでは製造や生産について、企業トップは大きな関心を持っていないというのが現実でした。しかし、S&OPプロセスは経営トップの関与なくしては実現しえないものだというのがS&OPの提唱者リング氏の考えです。だからこそ、S&OPでは、供給側の総称として「O」を使っているんですよ。Manufacturing(製造)やProduction(生産)ではなく、Operationだ、とね。

あなたたちが初めてこの問題に当たるわけではない

松原 例えば、中国やASEAN、それから金融危機やIMF介入を経験した後の韓国企業は、トップダウンで比較的現場の抵抗が少なく、すんなりと新しい仕組みを導入できた。それ以前の歴史があまり長くないからです。韓国もIMFショック以降はかなりドラスティックな変革を受け入れる素地ができたといえます。需給バランスのフレームワーク、あるいは機能部署や国を跨る共通語としてS&OPが受け入れられやすかったのでしょう。一方の日本は、良くいわれるように、成功体験という現場の歴史が足かせとなっている。

 けれども、オリバー・ワイト社の創設者である故オリバー・ワイト氏は「あなたたちが初めてこの問題に当たるわけではない」と語っていました。企業がぶつかる困難の多くは、既にだれかが乗り越えている問題なんです。そこには必ず先人が生み出した知恵がある。だからこそ、S&OPプロセスのような、提唱から20年を経て、グローバル企業で磨かれてきた実践的なコンセプトに耳を傾けてほしいと思うのです。もちろん、体系的にものを見られる人が必要ではありますが。

 記事で紹介した通り、日本抜きで、オペレーションの高度化が進んでしまう可能性があるんですね。しかし、そうはいっても日本企業も自身が海外進出したり、あるいは海外への足掛かりとして現地企業を買収するケースも少なくありません。こうした企業では、場合によっては買収した先の企業が、実はS&OPのユーザーであったりベストプラクティス企業だった、なんてこともあるのです。

 S&OPプロセスを推奨するのは、こうした海外展開の際に言語の壁を越えた共通語としての可能性も考えてのことです。言語が違っても、S&OPダッシュボードを共有できれば、それでグローバル全体での現状や、今後のシナリオ、目的や方針を共有できるはずなんです。

編集部 ありがとうございました。

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