超カンタン! 板金部品の設計見積もりをしてみようぜぃ甚さんの「バンバン板金設計でキャリアアップ」(4)(1/3 ページ)

今回は、甚さんと一緒に板金部品の設計見積もりをしてみよう! 材料費、加工費、ロット倍率、プレスの型費など1つ1つ計算する。一見難しそうだが、やってみると結構簡単。

» 2012年09月12日 11時00分 公開

当連載の登場人物

甚

根川 甚八(ねがわ じんぱち)

根川製作所 代表取締役社長。団塊世代の大田区系オヤジ技術屋。通称、甚さん

良

国木田良太(くにきだ りょうた)

ADO製作所 PC事業部 設計2課 勤務。80年代生まれのイマドキな若者。機構設計者。通称、良君


*編集部注:本記事はフィクションです。実在の人物団体などとは一切関係ありません。


良

甚さん! 前回で学んだ三角リブの役割は理解できました。板金全体が、何となく格好良くなりますね。


甚

おお、そうかい。あんがとよ。そんじゃー、良君、コストをはじけ!


良び

こっ、コッ……こけこっこぉ! コストって何ですか? お値段ですか? ぼっ、僕が計算するんですか?


甚

べらんめぇ! あんなぁ……。「コスト(Cost)」を和訳すると「値段」なのか? 逆に、「値段」を英訳してみろ! 「プライス(Price)」だろがぁ、あん? オメェは確か……。


良

えぇ、そうですとも。どーせ、「図面読めない、書けない院卒」「技術者の主要4科目であるQCDPaは、Qしか寄与していないCAE技術者」ですから。はいそうですよっ! フーンッ!


甚

オメェなぁ。街の蕎麦(そば)屋、寿司(すし)屋、ラーメン屋、八百屋、クリーニング屋、それに大工やペンキ屋……、全員がコスト、つまり原価はじけねぇで、生きていけると思ってるんかぁ? あん?


良

「なんも言えねぇ〜!」


甚

オメェ! それは北島が金メダルを取ったときの感激のせりふだろぁ〜! ふざけんなっ! 北島はなぁ〜、江戸下町のシーローだぜぃ! 言葉を慎めいっ!


 良君、どうやら完敗のようです。

【Qの話】設計審査で「ド素人」を見抜くツボ

 筆者は、世間一般の外部会計監査と同じような、外部設計審査を担っています。キチンと設計審査を実施している企業の技術者は、「QCDPa」をキチンと審査しています。

  • Q:Quality、品質
  • C:Cost、コスト
  • D:Delivery、期日
  • Pa:Patent、特許

近年、「D」は「開発スピード」と訳すようになった。訳せなかった企業が今、衰退している。



 「QCDPa」とは、「技術者の主要4科目」です。「Pa」を除けば、「技術者の主要3科目」です。これは、筆者がコンサルテーションで活用している用語です。

 安全率は、Qの中で“当たり前”な項目です。なので、どこの企業でも、設計審査において必ず質問されます。ところが「率」であるが故に、ごまかしやすいのです。そのとき、安全率の「分母、分子」について質問しない設計審査員や上司は、かなりの「ド素人」と言っていいでしょう。

 「設計審査の超定番『安全率』をごまかすな!」で、何度も復習しましょう。

良

おかげさまで、「安全率」については完璧にマスターしました。安全率のような学術的な分野は、得意中の得意です。テスト? いつでもOKですよ。なんか、一気にプロの設計者になれた気分ですなー。そう、僕は院卒! しかも首席で卒業っ!


甚

あんなぁ〜っ! 「院卒。しかも首席で卒業」は止めとけって前回もゆっただろー! もしかして、オレサマを怒らせるために、わざとかい? オメェ最近、性格悪くなったぞ。「頑張れ、日本!」はどこいった? また、オールクリア(全消去)かぁ?


良

……。


【Cの話】あなたはコスト見積もりができますか?

 さて今回注目の「C(コスト)」についてですが、上記のようにキチンと設計審査を実施している企業は、零細企業から大企業まで、事業規模にかかわらず、ほぼ全ての技術者は、コスト見積もりができます。

 一方、その真逆の「設計審査を実施していない企業」の技術者は、ほぼ100%、コストが見積もれません。おまけに、上司は設計審査も検図もできません。良君と、彼の会社の課長と同じですね。

 技術者にとっての設計審査とは、最強のOJT(オンザ・ジョブ・トレーニング)の場だったのです。

 設計審査についても、復習しておきましょう。「甚さんの設計分析大特訓」で「設計審査とは何か」を復習してください。

良

うゎ〜っ! なつかしいなぁ。これも、僕は完全マスターしましたよ。会社の仲間は設計書を書かない、……いや、書けないのですが、僕は書いています! これも自己研さんですよ。いつかは転職しますから。


【良君の会社の悪しき現状】

  • 設計審査がいまだにない
  • 設計書がない設計部
  • 審査ができない上司の存在
  • 検図ができない上司の存在

 良君には、社内の設計改革にチャレンジしてほしいものです。でも、転職も考えた方がよいかもしれません。大手電機メーカーから液晶パネルがなくなり、携帯電話がなくなり……という時代です。改革している間に、会社の存続が危うくなるかもしれません。

甚

そんじゃ、良君! 英語同様に、まずは、コスト関連の単語を覚えろ。単語を知らねぇと、なんもできねぇシ。


 コストや価格に関する簡易辞書を作っておきました。技術者必携です。

甚さんの「コスト/価格関連の簡易辞書」

  1. 原価:利益を含まない仕入れ値のこと。「もっとまけてくださいよ!」「お客さん、これ以上まけたら原価割れです。勘弁してください!」……この会話からも推定できるように、仕入れ値よりまけたら大赤字となる
  2. コスト1.と同じ
  3. 定価:前もって定められた値のこと。例えば、「タバコの定価=原価+店舗の利益+店舗の経費+客側が付ける値のこと。税金…………」となる。売る側が決める意味合いが強い
  4. 売値:「うりね」と呼ぶ。売価(ばいか)やストリートプライスとも言う。実際に売り渡す値のこと。例えば、「定価の3割引き」といえば、7割の部分が売値となる
  5. 価格3.、および4.を意味するが、3.の「前もって定められた値」の意味合いが強い。ただし、メーカー側が決める意味合いが強い
  6. オープン価格:オープンプライスともいう。メーカー側が価格を定めていない。家電品の多くに導入されている。小売店が決める売値が店頭やインターネット上で表示される
  7. 値段5.と同じ
  8. プライス5.と同じ
  9. ストリートプライス4.と同じ
  10. 言い値:「いいね」と呼ぶ。売る側の言うままの値。値切交渉しないままの値。反対語は、「付け値」という
  11. 付け値:「つけね」と呼ぶ。買い手が物品に付ける値。客側がつける値のこと。反対語は「言い値」という
  12. 指値:「さしね」と呼ぶ。買うもしくは、売る場合の希望値段を指定して注文する方法。主に株式で使われる用語である
  13. 原価見積もり:原価計算ともいう。例えばメーカーの場合、現物や図面に基づく原価を算出すること。サービス業などで「見積もり無料」という場合があるが、この場合は、現場や現物から判断して「原価」をはじき、定価を算出することを意味する。原価は1.を参照
  14. 設計見積もり13.の場合、図面や現場や現物の存在が特徴的であるが、図面も現物もない設計段階で、およそ幾らであるかの原価を算出すること。原価は1.を参照

1.から14.の単語は、設計業務の中で何度も出てくる単語です。一般常識としても大いに役に立ちます。今すぐに、暗記しておきましょう。


*「ついてきなぁ! 加工部品設計の『儲かる見積り力』大作戦」(日刊工業新聞社刊)より。



 これらの単語を知らないまま、「低コスト化会議」を開催してしまい、チンプンカンプンになっている企業人が多くいます。日本人技術者の弱点かもしれません。品質だけでは、世界で勝負できない時代です。

 また、QCDPaの「D」は、「開発スピード」と訳す時代に変ぼうしています。この「C」と「D」の変ぼうを捉えていない日本の大企業が今、大量リストラなどで大きく揺れ動いていると、筆者は分析しています。

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