中小企業が、目立って集まって、国を動かす!中小企業経営者・技術者たちの熱い夏(3/3 ページ)

» 2012年09月21日 11時00分 公開
[小林由美,@IT MONOist]
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 この経済不況を打破するには、「まずは町工場が、自分たちで盛り上がる。自分たちで火を点ける。自分たちで市場を作っていく、かきまわす。それにはどうしたらいいか」と緑川氏は、ずっと考え続けてきたという。それが、「ふとした思い付き」から思わぬ形で実現することになった。

 「金属製の小さなコマを作るのであれば、町工場の人たちにとっても、それほど大きな負担にはならないだろう。さらに、それを皆が持ち寄って一カ所に集結して日本一を決めたら面白いだろう」と、ふと思い付いて、Facebookで何げなくつぶやいた。さらに、その投稿を見た製造業仲間たちから「やろうやろう!」と声が掛かって、本当に実現してしまった。「それは町工場の中にたまっている“マグマのようなエネルギー”じゃないかなと。それがコマ大戦を通じて、地表に出てきた」と緑川氏は述べた。

 実際、コマ大戦に参加する企業たちも、自社技術をアピールする機会づくりはもちろん、下請け仕事の多い従業員のモチベーションアップ、自社製品開発のきっかけなど、さまざまなメリットを挙げている。

 2月の大会で優勝した由紀精密は、同社が製作したコマの美しさと強さがテレビや新聞・雑誌の注目を集めた。その影響を受け、同社のミニチュアコマ「SEIMITSU COMA」も、自社内の生産が追い付かないほどに、大幅に売り上げを伸ばした。「これは、『市場を作った』と言ってもいいんじゃないかと思っています」と緑川氏。

 コマ大戦の運営は、現在も試行錯誤とのことで、イベント規模が大きくなるにつれて、関わる人たちも増え、さまざまな問題が発生することが大いに考えられる。そこからさまざまなことを謙虚に学んでいき、進化させていきたいと緑川氏は言う。

 やがては日本を飛び出して、アジア大会、ヨーロッパ大会、そして世界大会へ。そんな野望(?)も緑川氏は語った。

 この他に心技隊は、「チーム無駄遣い10%」という、「日本にいるできるだけたくさんの人が、自分のサイフのひもを少しだけでいいから緩めれば、日本の経済が元気に回るはず」というユニークな呼びかけもしている。ちなみに、東日本大震災以前は、「3%」だった。その実際の効果の話は置いておくとしても(!?)、心技隊では、このような楽しく、ちょっとシャレの効いた活動を提案して、日本各地の中小企業の経営者、技術者たちコミュニティーを盛り上げている。

教育がモノづくりを支える

 ミナロでは、社内で子どもたちを対象にした木工加工体験のイベントを開催したり、緑川氏が工業高校で臨時講師を務めたりなど、若年層の教育にかかわる活動にも積極的に取り組んできた。

 「子どもたちが将来、自分が一生やり続ける仕事を選ぼうというときに、町工場を選ぶかと言ったら、ほとんど選ばないと思いますね」(緑川氏)。最近の製造業がらみのニュースや情報は、暗くてネガティブな性質であることが多い。そんな中、町工場を存続させるには、子どもたちに、できるだけ小さいころから、その現場を多く見せていくべきだと同氏は言う。

 世の中の多くの子どもが、町工場の仕事のことをよく知らない。その面白さを体験して知ってもらうことで、将来の仕事の選択肢の1つに入れてもらえるきっかけづくりに取り組む。「その中で1人でも、『面白かった』と言ってくれて、『大きくなったら、町工場やりたいな』って思ってくれる子どもがいれば最高かな。もしくはそこから『次期ミナロ社長』とか出てきてくれれば、もっとうれしいんですけど」(緑川氏)。

緑川氏(左)と、関ものづくり研究所 関伸一氏(右)の対談セッションより:「子どもたちがモノづくりに興味を持つ、そのカギを握っているのは、親御さん」(関氏)、「大人が子どもにちゃんとモノを言えない風潮は、よくない」(緑川氏)

中小企業連合で、日本を動かそう

 雇用や借金など企業経営にまつわる全ての決断において、中小企業経営者は自分自身の頭で考え、自分自身で責任を持って当たらなければならない。よって、交渉能力も常日頃から鍛えられている。緑川氏はそう考える。

 「そんな人たちが今、自分の会社以外の、――例えば、地域や国のことを考えていったら、もしくは交渉の場に出て国づくりをしていったら、僕は、この世の中が大分変わると思うんですね。中小企業の経営者たちは、政治に期待しない人が多いです。そうしたからといって、お金がもうかるわけでもない。政治に裏切られたからといって、くよくよしている場合でもない。だから『当てにしない』。ただし僕としては、『政府や政治に関われ』というより、そういう(議論や交渉の)場を自ら作って、もしくはそれに近い場に自らが飛び込んでいって、持っている発言力や行動力を発揮してもらいたいなと思っています」と緑川氏。

 「円高、(高い)法人税、関税(自由貿易協定の遅れ)、派遣禁止(過剰な雇用規制)、(厳しい)温室効果ガス(規制)、電力不足(電力供給の不安)、さらに洪水(東日本大震災やタイ洪水)を入れると『7重苦』。こういう状況で、どんどん大手企業が海外に行ってしまう。これはもう誰にも止められないと思います。ただ、残された中小企業のわれわれはどうするんだ。一緒に行ける人たちはいいですけど、……まあ一緒に行ったって必ず幸せになるかっていったら、そうでもない。残された人たちで、これから経済を支えていく。もしくは発展させていくためにはどうすればいいんだろう。これはもう、大手企業だって政府だって考えてくれないと思います。『そんなのは、中小企業で勝手にやれ』。……いや、そういうことすら言わないかもですね」(緑川氏)。

 政府が制定した「中小企業憲章」(2010年6月18日閣議決定)について緑川氏は取り上げた。そこには、「中小企業は、経済を牽(けん)引する力であり、社会の主役である」と明確に書かれている。しかし、肝心の「主役」たる中小企業の間であまり浸透しておらず、緑川氏すら最近までその存在を知らなかったほど。

世界経済は、成長の中心を欧米からアジアなどの新興国に移し、また、情報や金融が短時間のうちに動くという構造的な変化を激しくしている。一方で、我が国では少子高齢化が進む中、これからは、一人ひとりが、力を伸ばし発揮することが、かつてなく重要性を高め、国の死命を制することになる。したがって、起業、挑戦意欲、創意工夫の積み重ねが一層活発となるような社会への変革なくしては、この国の将来は危うい。変革の担い手としての中小企業への大いなる期待、そして、中小企業が果敢に挑戦できるような経済社会の実現に向けての決意を政府として宣言する。

――「中小企業憲章」より(原文ママ)

 緑川氏は、まず中小企業経営者がこの憲章の存在を認知し、内容を理解して、さらにそれを掲げて政府に働きかけていけばいいのではないかと考える。

 この憲章の存在を広げて、活用していくためにも、緑川氏は「中小企業の横連携」が大事だと述べた。そのためにも、今回のSWCNのイベントやコマ大戦のような取り組みを通じて、中小企業の横連携を築き上げる。「自分たちは何がしたいのか」「これからの日本をどうしたいのか」ということ皆で考える。やがて、その総意に近いものを、大手企業や政府にぶつけていく。

 過去にその成功例があると緑川氏。2000年から中小企業家同友会全国協議会らが実施した「金融アセスメント法」(地域と中小企業の金融環境を活性化させる法律案)制定を呼び掛ける運動だ。日本全国から100万人以上の署名を集めて政府の説得にあたり、法制定には至っていないものの、全国各地の地方自治体や金融機関を動かし、借金の際の連帯保証人制度廃止も実現した。

 中小企業も、そこまで本気で取り組めば、少しずつだが国を動かすことができる。緑川氏はそれを確信している。今後は、そんな「中小企業の逆襲」ともいうべき活動を目指していきたいということだ。

「ジーク・イナ!」――分かる人には分かるネタ。

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