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» 2012年10月12日 11時00分 公開

甚さんの「バンバン板金設計でキャリアアップ」(5):断面探索スキャン&絵辞書でしっかり板金設計! (3/3)

[國井良昌/國井技術士設計事務所(Active Design Office),MONOist]
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 これでは、日本企業の負けです。なぜなら、議事録の後、数週間かけて見積もり値が入手でき、そこからまた再検討の会議です。

 経済戦争といわれて久しい年月がたちますが、どうして日本企業はこのようにまどろっこしくなってしまったのでしょうか? 低コスト化のためのアイデアを抽出し、その場でおよそいくらかと算出しなければ、場の緊張感がそがれます。

今、求められている技術者像

今や、どこの工業国も「Q」に関しては、最高レベルの技術を提供できます。そこに、「C」「D」「Pa」を加味した商品開発のストラテジーが求められ、特に「C」の差別化が重要です。そこで、技術者の「見積もり力」をパワーアップする必要があるのです。



 現在、衰退している日本企業に共通しているキーワードは、「C(コスト、低コスト化)」です。円高とは無関係です。円高でなくても、衰退しているはずです。

良

ところで、甚さん! ついでにこの部品を購入してきました。ステンレス製の蝶番(ちょうばん)です。


甚

なんじゃこりゃーっ! ルール違反の設計じゃねぇかい、あん?


良び

そっ、そうなんですか? どこがルール違反なんですか?


甚

オメェ、重要な板金設計の「絵辞書」をいまだに理解していねぇのかい? それじゃ、エリカちゃんには追い付けねぇってもんよ。トコトン抜かれたなぁ。絵辞書をいますぐ出せい! これは命令だ!


良

甚さん、出しましたぁ(図5)。第1回2ページ目の図5のやつですね。いつも持ってますー。


第1回の図5 板金設計の50%が設計できる加工ルールの絵辞書(「ついてきなぁ!加工知識と設計見積り力で『即戦力』」「ついてきなぁ!加工部品設計で3次元CADのプロになる!」日刊工業新聞社刊より)
甚

オメェなぁ、確かにオイラは「出せ」とは言ったんだけどよぉ、「出して、肝心なところを調べて納得しろ!」って意味だったんだよなあ、あん? ったく……持ってるだけじゃダメだろう。よくそれで……あっ、やめとくわ。


良

やめちゃうんですか!? まあいいけど。分かりました。ここの「曲げ」の部分ですね。「W≧2t+R」の「W」がないです。しかも、「断面急変部」そのものです。明日、また出身校に行って学生たちに教えるので、「断面スキャン」を復習しました。これです!


甚

おぉ、上出来じゃねぇかい。また、あのせりふをいうところだったぜぃ。


良

「役立たずの院卒」でしょ? もう、そのせりふは言わせませんよ!


図1 良君が買ってきた蝶番の断面探索スキャン

 「甚さんの設計サバイバル大特訓」で紹介した「断面急変」の探索スキャンで、ほとんどの検図はまかなえます。設計審査で100点は取れませんが、合格点である70点は取れるでしょう。

甚

「W≧2t+R」の「W」をパッと見て、「別になくてもいいだろ?」と思うようなヤツは、今となってはなつかしワード、「3次元モデラー」だぁ! 設計者ではなく造形者だ。実はだなぁ……。


良

あっ、甚さん! それなら僕も得意ですので、説明させてください。板金加工で、「曲がりゃあいい」はダメですよね?


甚

良君、言うねぇ〜。


 図2の矢印の部分、つまり、「加工変形」の部分を見てください。 この部分は、ルール外の形状のために、無理やりに曲げられています。塑(そ)性変形どころか、破断(破壊)まで進行していると推定します。

 蝶番の役目を考えれば、ここからクラック(割れ)が入ることは想定できます。「もし重量物と締結していたら」と考えると、冷や汗が出ます……。

図2 蝶番に見る加工ルール(「ついてきなぁ! 加工部品設計で3次元CADのプロになる!」日刊工業新聞社刊より)

「塑性変形」と「破断」の単語が登場したので、次に示す図3で「目利き力」を復習しておきましょう。

図3 軟鉄の応力−ひずみ線図

 図3に示した「軟鉄の応力−ひずみ線図」は、「学問」と決め付けてはいけません。技術の職人なら知っているべき「常識」です。

 これを知らないということを料理人に例えれば、「米が炊けない」に相当します。炊飯は、米の特性を知り尽くし、微妙に火加減を調整する必要があります。「それなら、電気炊飯器を使えばよい」という人は、料理の実力はそこで頭打ち。電気炊飯器自身では、米の産地や銘柄は選択できません。

良

妙に、納得!


 「絵辞書」に記載されている形状ルールとは、以下です。

  1. 加工しやすいルールである
  2. 設計上の「断面急変」を回避する安全形状、安定形状を示唆
図4 加工ルールは設計側と加工側の社会ルール(共存ルール)

 このルールを知らない設計者とは、高速道路を平気で逆走してしまうようなものです。つまり、「知らなかった!」ではすまされません。筆者は、この設計者もどきを「3次元モデラー」と呼んできました。高価な3次元CADをキャンパス代わりの「お絵かき帳」のように扱い、“設計書なき”“設計思想なき”アドリブ設計を今も継続しています。それで隣国の企業と戦い、それで商品が売れ、それで火災事故や人身事故がなければよいですが……。

 次回の記事でまた、お会いしましょう!


関連キーワード

設計 | 「甚さん」シリーズ | 3次元CAD



Profile

國井 良昌(くにい よしまさ)

技術士(機械部門:機械設計/設計工学)。日本技術士会 機械部会、埼玉県技術士。横浜国立大学 大学院工学研究院 非常勤講師。首都大学東京 大学院理工学研究科 非常勤講師。

1978年、横浜国立大学 工学部 機械工学科卒業。日立および、富士ゼロックスの高速レーザプリンタの設計に従事。富士ゼロックスでは、設計プロセス改革や設計審査長も務めた。1999年より、國井技術士設計事務所として、設計コンサルタント、セミナー講師、大学非常勤講師としても活躍中。「ついてきなぁ!加工知識と設計見積り力で『即戦力』」(日刊工業新聞社)と「ついてきなぁ! 『設計書ワザ』で勝負する技術者となれ!」(日刊工業新聞社)をはじめとする多数の書籍を執筆。



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