第7回 銅の限界前田真一の最新実装技術あれこれ塾(3/3 ページ)

» 2012年12月14日 09時00分 公開
[前田真一実装技術/MONOist]
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 TSV(Through Silicon Via)を使ったMCM技術はシリコンフォトニクスによる光素子とCMOS論理ICの統合を安価に実現し、光時代を拓く可能性が高いことはすでに紹介しました(第5回 光と銅)。

 しかし、TSVは銅による高速信号伝送にとっても有効な技術なのです。シリコン基板は誘電率や誘電正接をFR4よりも小さくし、非常に平坦な銅配線を実現することが可能となります。シリコン自体の誘電率は3.5〜4.5と大きいのですが、酸化シリコンとなると誘電率は1.6と小さくなります。基板材料としての可能性があるのです。

 これらの損失を低減させるための対策は大きな効果はありますが、損失は本質的なもので、なくすことはできません。信号の周波数が高くなれば、損失は大きくなります。

 そこで、回路的に損失で失われる周波数の高い成分だけ大きくして損失で失われる分を補正してやる手法はPCI Expressを始め多くのシリアル伝送規格で標準的に使われています(図10)。

図10 Thunderboltケーブル 図10 Thunderboltケーブル(クリックで拡大)(出典:Ifixitl http://www.ifixit.com/blog/blog/2011/06/29/what-makes-the-thunderbolt-cable-lightning-fast/)

 Apple社が出荷したThunderboltのケーブルでは、コネクタ内部に周波数に応じて信号のレベルを変化させるイコライザICが内蔵されています(図11)。この工夫によって10Gbpsの高速データ転送が銅線でも可能になったのです。

図11 Backchannel 図11 Backchannel(クリックで拡大)

 減衰は配線の長さによって変化しますので、あらかじめ配線の長さが分かっている場合は良いのですが、配線の長さが判らない場合にはすべての周波数の信号振幅を揃えることは困難です。

 PCI ExpressのGen3では、はじめにテストパターンを伝送し、レシーバが受け取った信号をフィードバックすることにより、ドライバ側の周波数による出力特性を変化させ、レシーバ側で全ての周波数にわたって最適な信号レベルのデータが受け取れるようにしました。

 このような回路的な工夫は、LSIの集積度の向上に従い、非常に複雑な回路でもコストアップ無しにICに組み込むことができます。

 このままでは、コストアップなしに銅での伝送速度はまだまだ上げられそうですが、これ以上信号が大きくなり損失が大きくなると、新しい問題が発生します。損失を補うような大きなレベルで信号を送るためには、ドライバICの電源電圧を高くする必要があります。電力は電圧と電流の積なので、電圧が高くなると信号の電力が増大します。

 これは、ICの消費電力を向上させると同時に信号からの電磁放射ノイズを増大させます。また、電力の増大は同時スイッチングノイズ(SSOノイズ、SSN)の増大、発熱の増大、モバイル機器の電池駆動時間の短縮など、多くの問題を引き起こします。

 これらの対策には多くの費用が掛かり、光の方がコスト的に有利になる可能性があります。これが、光と電気の境目です。

 しかし、電気側は、この問題を解決するために、これまで使われてきたLVDSドライバ回路に変わる超低電流駆動ドライバ回路を開発しています。

 詳細は分かりませんが、『Energy Efficient Scalable I/O』(ESSI)と呼ばれるドライバ回路はLVDSドライバ回路の1/10以下の電力でデータを転送できるとのことです(※2)

(※2)PC Watch 【Research@Intel 2010レポート】

 このような回路技術や新しい材料、製造技術が実用化されれば、また、光の時代は先送りされるかもしれません。


筆者紹介

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前田 真一(マエダ シンイチ)

KEI Systems、日本サーキット。日米で、高速システムの開発/解析コンサルティングを手掛ける。

近著:「現場の即戦力シリーズ 見てわかる高速回路のノイズ解析」(技術評論社)


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