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» 2013年01月30日 10時00分 公開

ファブ(Fab)とは何なのか:3Dプリンタだけのモノづくりは、電子レンジだけで料理するようなもの (2/3)

[高須正和/ウルトラテクノロジスト集団 チームラボ,MONOist]

田中 日本も昔はそうだったのでしょうね。それが社会の成熟につれて分業化し、各分野をそれぞれのプロフェッショナルが担当し、効率化が進んできた。でも、それが一段落というか、効率化で解決できない問題が発生してきて、それを解決するためにまた「カテゴリを超えて、持てる力を全部発揮する」ことが求められていると思うんです。チームラボはまさにそんな感じなのではないですか?

 僕自身「変わりたい」と思って、35歳で渡米してMITの講座でこの「(ほぼ)何でも作る方法」を受講したのです。


 「この週は切削加工」「この週はプログラミング」「この週は3次元CAD」という感じで、毎週さまざまなテーマの訓練をこなしながら作品製作します。それぞれの学生は得意分野と苦手分野があるので、皆で助け合いながら、モノづくりの訓練を半年間ずっとやったことで、スキルはもちろん得たけど、何より「何でも調べれば作れるものだ」という自信が付きました。マインドセットが変わった、というか。「Fab」には、コンピュータそのものを設計して「Hello World」をプログラミングする方法から始まり、最後の章では人間に反応して「Hello!」と手を振ってくれるロボットを、その姿形を含めて作る技術まで載っているわけですが、「やろう!」と思えばそれぞれの技術はWebで検索したり、情報を得ながら身に付けることはできるのです。技術と、それをクロスオーバーさせることで可能になるエピソード、その両方を語っているところが本書の魅力だと思います。

 「MAKERS」(著:クリス・アンダーソン)や「Made by Hand」(著:マーク・フラウエンフェルダー)、自分の書いた「FabLife」みたいに、本全体で1人の視点からストーリーを書いた本に比べると、テーマが多くて全体を把握しづらいかもしれませんが……、ファブの射程の広さを感じたい方には読んでいただきたいですね。米国東海岸の正統な“ハッカー魂”や“エンジニアマインド”があふれているとも思います。

「Fab」の実践:製造業のプロがデジタル機器で「味」を表現する

高須 田中先生は「Fab」がきっかけで実際に「(ほぼ)何でも作る方法」を受講され、その後FabLab鎌倉を開設されました(その経緯は田中先生の著書「FabLife」に書かれている)。まさにご自身で「Fab」の世界を実践されているわけですが、実際に本に出てくるような、別々の技術が出会うことにより始まるプロジェクトが行われているのですか?

田中 それはもう、毎日のように新しい事例が生まれています。FabLab鎌倉を作ったときの思いとして、「自分は電子回路とかソフトウェアといったデジタル技術を中心に取り組んできたので、他の分野のプロと出会って、コラボしてみたい」ということがありました。バンドを組むときや、ロールプレイングゲームのパーティーみたいに、できるだけ自分と違う人、あるいは自分から遠い人とやりたい、と。

 FabLab鎌倉には、大手メーカーに勤めていてもう退職された3次元CADのエンジニアや、木工の職人さん、革製品の職人さん、建築家さんらがやってきます。最初は「何か面白そう」という漠然とした期待からだと思いますが、手を動かして実際にやってみると、ますます面白くなって頻繁に来られるようになり、プロジェクトが始まります。

 例えば、革職人さんと僕で進めている、リュックを作るプロジェクトがあります。自分の持っているノートPCの寸法を入力すると、それにあった大きさのリュックの設計データを作ってくれるソフトを作っています。アイデアは一緒に出し、革のことを教えてもらいながら、実装は主に僕が担当しています。設計データを基に、レーザーカッターで革を切って、使う人が自分で縫うというシステムに仕上げたいのです。

まさに取材当日行われていた、革職人さんとのコラボ。

田中 「革を縫うために糸を通す穴をキレイに開けること」が、革職人さんにとっては腕の見せ所だそうなんですが、「レーザーカッターで穴を開けること」は、その領域に踏み込んでしまうことになります。でも、今一緒にやっている職人さんは、それも含めて面白がって取り組んでいるんです。「レーザーカッターで革が切断できる」と分かったときに、職人さんはたった数日で「Adobe Illustrator」の使い方を覚え、レーザーカッターに入れるデータを作ってこられたんです。こうやって、ちょっとずつお互いがカテゴリを越えて未知の領域に飛び込んでいくと、面白いんですよね。長年の経験が生きている部分もあるから、プロトタイプをすぐ作れるし、ふと見ると「切り口を実線から点線に変えることで、レーザーカッターなのに意図的に手触りの感触を出す」なんて不思議な折衷をやっている。

 これはその職人さんにしか分からないポイントかもしれませんが、その方が革のホツレとかが出て素材の「味」が表現できるらしいんですよ。職人さんがデジタル機器で素材の「味」を表現するというのは、工学の人は多分考えないと思う(少なくともぼくは考えたことがない)けど、面白いですね。工業ではなくて工芸の領域です。ツールが変わっても、「こだわり抜く」職人マインドは残って、「こだわるポイント」が変わるだけなので。

レーザーカッターで革を切断し、スリッパを作る(KULUSKAさんによるデザインプロダクト)

田中 FabLab鎌倉で行われているプロジェクトは、みんな本業とは少し違うので、「失敗する可能性もあるけど、挑戦的・実験的なものの方が面白い」という側面があります。プロの人はリトライが早いし、失敗にめげない。本当のプロフェッショナルというのは、「いつでもアマチュアに戻れること」なんじゃないかとあらためて思うんです。

 他にもファブの世界でプロが活躍する場所があります。FabLabでいろいろなものが作られますが、中には人気が集まって、商品化するものも出てきています。ただ「楽しんで1つの作品を作る」のと、「あるものを中量生産する」のとは別のスキルが必要になる。そういうときに手助けしてくれて、数百個単位の生産について相談に乗ってくれるのは他の工場なんです。FabLab鎌倉のまわりにも、そういう点で仲良くさせていただいている個人工場や町工場があります。

 全日本製造業コマ大戦とか発電会議みたいに、町工場の方々が自らの生産技術を生かして新しい製品を作る流れも素晴らしいと思うんですよね。日本版のMAKERSって、「既にある」町工場との連携をもっと考えた方がいいんじゃないかなと思うんです。クリス・アンダーソンにだまされるな?(笑) デール・ダハティが「Maker Conference Tokyo 2012」でいいことを言っていたと思うんですが、「工房と工場をつなぐ」だけで全体としてかなり変わるのではと。

デール・ダハティ氏:Makerたちの祭典「Maker Faire」の共同創設者。


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