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» 2013年03月14日 16時15分 公開

飛行機を作るには何が必要? なぜクラウドなのかモノづくり最前線レポート(35)(4/4 ページ)

[畑陽一郎,MONOist]
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ネットワーク遅延対策技術

 2番目のネットワーク遅延対策技術では、画面データ転送に従来のTCP(Transmission Control Protocol)を使わず、新たに開発したプロトコルを採用した(図4)。大量のデータを転送した場合、遠距離間の通信ではパケットロスが起こりやすくなり、データの再送処理が頻発する。つまり、通信速度が下がってしまう。新プロトコルではこれを防ぐことで、TCPよりも約6倍高速化できた。シンクライアント技術を国内−海外という組み合わせで使う際に最大の効果を発揮する技術だ。

図4 ネットワーク遅延対策技術の効果 光速の制限があるため、大陸間など遠隔地と信号をやりとりすると、どうしても往復で最大100ms程度の遅延が生じる。これは防ぐことができない。ただし、遅延によるパケットロスは改善できる。従来のTCPでは送信したパケットがネットワークの混雑などのために失われ、再送処理が起こり、さらに遅延が大きくなる。このため、最大通信速度が急速に低下していく(青線)。新プロトコルではパケットロスの影響が出にくいため、遅延が生じにくくなり、通信距離が伸びても最大通信速度がほとんど低下しない(赤線)。出典:富士通

GPU仮想化技術

 GPU仮想化技術はなぜ必要なのだろうか。RVECでは、クラウド内のコンピュータ上で仮想マシンを実行し、仮想マシン内で動作する3次元CADの画面出力を、遠方のノートPCに飛ばしている。

 従来のシステムでは、3次元CADの描画を高速化するために描画を専門に受け持つGPUを利用していた。しかし、GPUの仮想化に対応できていないため、シンクライアント技術との親和性が十分に高くなかった*4)

*4) サーバ上で仮想マシンを実行する構成を採ると、複数の3次元CADをサーバ上で瞬時に切り替えて実行したり、1台のサーバに複数のノートPCを接続したりして、異なる3次元CADの画面を送信するといった仕組みを作りやすくなる。

図5 GPU仮想化技術 ハードウェアとしては1つしか存在しないGPUを、複数の仮想マシンから共有して利用できる技術である。GPU共有機構は、それぞれの仮想マシンからのGPUへのアクセスをとりまとめて、矛盾がないようGPUに指示を出す仕組みだ。出典:富士通

 そこで、富士通は、4つ程度までの仮想マシンからGPUを共有できる仮想化技術を開発した(図5)。GPUのようなハードウェアを複数の仮想マシンで共用する場合、特定の瞬間ではGPUと仮想マシンが一対一に接続されている。一般の仮想化では、必要に応じてハードウェアとの接続を時分割で切り替えることで実現する。富士通の方式は、そうではない。複数の仮想マシンからGPUへ送られるコマンドをとりまとめて1つのコマンドに変形し、GPUで処理した後、戻ってきた処理結果を仮想マシンごとに切り分ける。「ハードウェアとの接続を時分割で切り替える方式ではハイパーバイザに手を入れる必要がある。これが難しいため、より上位のレイヤーで処理した」(富士通)。

 このような複数の仮想マシンからの描画命令を並列にGPUに伝える「GPU共有機構」を設けたことが特徴だ。次に、画面更新判定や静止画圧縮処理をサーバのCPUやGPUへ負荷に応じて割り当てる機構を組み込んだ。

ITが助けるモノづくり

 開発・設計・製造における作業の効率化やリードタイムの短縮は、航空機に限らず広範囲なモノづくりに役立つ。CADデータを社内外で共有する取り組みは、CADデータの軽量化技術などを適用することで一般に広がっている。

 クラウド+シンクライアントというシステム構成は、CADデータの軽量化よりも初期投資コストが高くなるだろう。しかし、セキュリティの確保や安価なノートPCが利用できることなど、クラウド+シンクライアントのメリットは大きい。開発・設計部門では直接、CADデータをリアルタイムで遅延なく操作できるというメリットも生きる。


【訂正】記事の掲載当初、複数箇所で誤りがございました。お詫びして訂正いたします。上記記事はすでに訂正済みです。誤りの内容は2点あります。まず、三菱重工業は、専用線を利用したシステム構成を採っております。次に、同社は富士通が開発したRVECの機能のうち一部を採用しており、仮想マシン上でのCAD運用や、GPU仮想化を利用しておりません。修正箇所と修正内容を以下に示します。

・第2ページ、図2、キャプション「専用線を使わない運用である」を削除。
・第3ページ、第1段落「……富士通によれば、低品質なネットワーク環境でも、シンクライアント接続時の操作応答を改善できる3つの技術を採用したからだという」を「……富士通によれば、遠隔地からネットワークを介した際にも、3次元CADの操作性を損なわない画像データ高速化シンクライアント技術「RVEC(Remote Virtual Environment Computing、レベック)」を採用したからだという。以下に紹介するように、領域ごとの画面更新やCAD画像の効率的な圧縮が可能になったため、動画や高精細な画像を扱う際のデータ転送量を従来の約10分の1に削減できるという。富士通によると、一層のレスポンスの向上を目指して、低品質なネットワーク環境でも、シンクライアント接続時の操作応答を改善できる3つの技術を開発し、まず社内で利用し、今後、顧客への適用を図るという」に修正。
・第3ページ、第2段落「……仮想化技術だ。この3つを総称してRVEC(Remote Virtual Environment Computing、レベック)と呼ぶ。それぞれ……」のうち、RVECの呼称を説明した1文を削除。第2段落末の「高速化可能だとした」を「高速化可能だという」に修正。
・第4ページ、第2段落「……だろうか。三菱重工業が採用したシステムでは、クラウド内のサーバ上で仮想マシンを実行し……」を「……だろうか。RVECでは、クラウド内のコンピュータ上で仮想マシンを実行し……」に修正。


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