ウェアラブルコンピュータがなぜ再び脚光を浴びているのか?本田雅一のエンベデッドコラム(21)(1/3 ページ)

誰もがスマートフォンを所有し、スマートフォンに情報が集まる時代。スマートフォンを“インフラ”として捉え、製品やコンセプトを見直してはどうだろうか。使い古されたはずのコンセプトが、再び輝きを放つかもしれない。

» 2013年03月29日 10時00分 公開
[本田雅一,MONOist]
本田雅一のエンベデッドコラム

 「モバイルファースト(Mobile First)」という言葉について、本コラムで触れたのは2011年7月のこと。筆者がこの言葉を初めて耳にしたのは2009年ごろだと記憶している(関連記事1)。

 その後、この言葉はさまざまな形で引用され、その意味(ニュアンス)も時の流れとともに少しずつ変容してきた。例えば、IBMがエンタープライズ向けのアプリケーションやサービスを、モバイルファーストで提供していくという戦略を発表したのは、今年(2013年)になってからだ(発表文)。

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 IBMが顧客に語りかけているのはごく当たり前の話で、簡単に説明すると、「スマートフォンやタブレット端末といったデバイスが、誰もが使える当たり前の道具として広まり、“モバイル革命”が巻き起こった。今度は、ソフトウェアもそれに合わせて変化すべきだ!」というもの。「だから、これからシステムのアップデートを行う場合は、“モバイルファースト”の新しいノウハウを持つ自分たち(当社)と一緒にやりましょうね」というのがIBMの狙いだ。

 2009年、筆者が初めてこの言葉を耳にしたころは、今ほどスマートフォンとその上で動作するアプリケーションプラットフォームへの意識は強くなかった。また、当時はタブレット端末の地位を押し上げたAppleの「iPad」が登場する前とあって、インターネットを使いこなす道具としては、まだPCが主流であった。

 モバイルファーストの考え方が登場し始めたこのころ、その意味を尋ねると、「インターネットにしろ、社内向けアプリケーションにしろ、Webのユーザーインタフェースをデザインする際は、PCではなく携帯型端末(主に、スマートフォン用のWebブラウザ)を意識すること」という答えが返ってきた。

 当時のWebデザインの多くはPCを前提に作られており、せいぜい、ちょっと気の利いたデザイナーが、モバイルブラウザ用にカスタマイズを行うといった程度でしかなく、機能の面でもサブセットになっていることが多かった。つまり、モバイルファーストの登場は、当時のWebデザインにおけるPC画面の優先順位が下がったことを意味していた。

使い古された“モバイルファースト”

 その後の“モバイルファースト”という言葉の使われ方を追い掛けてみると、Webデザインの話だったものが、Webを通じたサービス設計にまで広がっていく。そして、スマートフォン向けアプリケーションを前提にサービスを作っていくことを示すようになったり、そもそも事業計画を組み上げるときにスマートフォンをどう活用すべきなのか、あるいはハードウェア製品を企画する際にスマートフォンとどう連動させるのかを最初に考えるべきだ、といった考え方だったり……。とにかく、“モバイルファースト”という言葉は、スマートフォンとの組み合わせを前提に何かを語る際の“おまじない”のように使い古されてきた。

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 今では、ハードウェア製品やサービスなどがスマートフォンと連動するのは当たり前であり、差別化要素にならなくなってしまった。今から何かのハードウェア製品なり、サービスなりを設計する際、わざわざ「今回は、モバイルファーストでやりましょう!」などと公言したら、きっと何かのギャグだと思われるだろう。言い換えれば、それぐらい当たり前のこと、世の中のインフラに近づいてきた、ということだ。だから、今さらそんなことを標語にコンセプト作りをしても遅いのだ。

 そこで、これを1つの「潮目の変化」と捉えてはどうだろう。モバイルファーストなデザインは、ハードウェア、ソフトウェア、サービスといった全てにおいて当たり前。当たり前の基盤なのであれば、今後登場するであろうさまざまなハードウェア製品やサービスは、どれもモバイルファーストで作られていることになる。新たなルールが当たり前になり、前提条件が変化すれば、製品のデザインアプローチも変化する。

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