アイドルストップシステムの普及がもたらすスターターの革新いまさら聞けない 電装部品入門(6)(2/3 ページ)

» 2013年04月10日 07時00分 公開

アイドルストップシステム搭載車両におけるスターター

 従来のスターターは、外出時に自宅もしくは駐車場で1回、用事が終わって次の目的地へ行くときに1回、さらに自宅へ帰る際に1回といったように、多くても1日10回程度作動させられればよいということを目安に耐久性を確保していました。

 これを10年続けたとすると使用回数は3万6500回となりますが、少し余裕を見て5万回ほどの使用回数に耐えられれば、スターターの一般的な寿命として必要十分なレベルではないかと思います。

 しかし、アイドルストップシステム搭載車両のスターターの場合、先述した使用回数に加えて、信号待ちの回数、渋滞による停止回数なども加味しなければなりません。

 軽く想像しただけで、数十万回もの使用回数に耐えられる必要が出てくるわけです。

 もちろんこれは自動車メーカーや電装部品サプライヤも認識しており、真っ先に開発要件として上がった項目であろうことは想像に難くありません。

 従来では考えられない程の使用回数に対応できる耐久性を確保するのはもちろんですが、アイドルストップシステム搭載車の生命線ともいえるスターターがあとどれくらい使えるのか、その寿命が近づいていることをユーザーが認識できるような仕組みも必要でしょう。

 スターターが寿命を迎えるということは、エンジンを始動できなくなることを意味します。仮に、信号待ちでアイドルストップしている状態からエンジンを再始動しようとしたときに、スターターが使用回数の限界を超えて故障してしまったら、完全に道路上で立ち往生してしまうことになります。

 ここで1つ考えられるのは、スターターが使用限度回数に近づいた時点で、ドライバーに警告灯などで知らせるという機能でしょうか。

 搭載しているスターターの使用限度回数は、使用部品の摩耗度などを考慮してある程度計算できます。あとは、スターターの累積使用回数を積算しておけばいいわけです。

 さらに、使用限度回数が近づいた状態では、アイドルストップシステムを停止させるという仕組みも必要になるでしょう。

 アイドルストップしなければ、スターターの使用回数は格段に減らせますので、道路上で立ち往生するような事態は回避できるはずです。

 しかしユーザーとして注意しなければいけないことがあります。

 それは車両の使用環境によって、スターターの使用限度回数を迎える時期が大きく異なるという点です。

 信号が少なくて渋滞もほぼない郊外と比べて、信号だらけで渋滞が当たり前という市街地は、スターターの使用回数が数十倍になります。

 自動車メーカーや電装部品サプライヤとしては相当な使用回数に耐えられる設計を行っているとはいえ、想定を大きく超える使用環境も十分に起こり得ます。

 つまり、使用環境によっては、車両を乗り換えるまでにスターターを交換する必要も出てくるわけです。

エンジン再始動時でも12Vの電圧を出力するDC-DCコンバータ

 アイドルストップシステム搭載車において、エンジン再始動時にスターターを用いることは、スターター自身のみならず、他の車載システムにも大きな影響を与えます。

 スターターが回転する際には大電流が必要になるということは既に説明しました。しかし、アイドルストップ中であっても、空調やナビゲーションなど、運転時に使用している電装部品は普通に動作しています。

 もちろんエンジンは停止していますので、発電機であるオルタネータは動作していません。アイドルストップ中の車両内の電力供給は鉛バッテリーのみで行われます。

 しかし、アイドルストップした状態からエンジンを再始動する際には、スターターに大電流を供給しなければなりません。そのために、アイドルストップ状態からエンジンを再始動するたびに、空調やナビゲーションが強制遮断されるようであれば……

アイドルストップシステムなんかいらない!!


となってしまいますよね。

 しかし何の対策も講じなければ、再始動ごとに鉛バッテリーからの電流はスターターに集中してしまい、先述したような電装部品の全停止が実際に起こってしまいます。

 そこでDC-DCコンバータという昇圧回路部品を組み込むことで、エンジン再始動時でも12Vの電圧を電装部品に出力できるようにしています。

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