騒いで終わりじゃもったいない。3Dプリンタブームの今後3次元って、面白っ! 〜操さんの3次元CAD考〜(23)(1/2 ページ)

2012年秋ごろから、世の中は「3Dプリンタ狂騒曲」的な盛り上がりを見せたが、そろそろ落ち着いてきたころ。しかし革命って、本当に起こるの? それは3Dプリンタが起こすことではなく、人が起こすことかもしれない。つまり、大事なことは……。

» 2013年05月07日 11時20分 公開
[水野操 テクノロジーコラムニスト/3D-GAN,MONOist]

 まだまだ寒暖の差も激しい今日この頃ですが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。このゴールデンウイークの間に、何か「Make」された方はいらっしゃいますか?

 2012年10月あたりから広がりを見せた「3Dプリンタブーム」ですが、「一過性のブームに終わるか」と私は思っていました。クリス・アンダーソン氏の書籍「Makers」が発売されてから、はや半年。さすがに雑誌などの特集は少なくなってきましたが、テレビ番組では今もなお紹介され続けている状況です。

 この間で、商業媒体や個人ブログなど、さまざまな立場の方によって、さまざまな3Dプリンタ関連の記事が書かれました。

 あえて乱暴に分けるなら、その1つは3Dプリンタがもたらす未来的なこと(よいことも、悪いことも)を述べている記事です。こちらの記事は、現状をよく知る人たちからすれば、「かなり飛躍したこと」(つまり“革命的”なお話)を書いていることも少なくなかったので、私自身、少しの違和感を覚えました。

 もう1つのタイプの記事は、もともと3Dプリンタを使用している人たちが、現状をしっかりと伝えようとするタイプの記事です。

 この2種類の記事が相互に掛け合うような形で情報が発信され、その周囲に多くの人たちが集まり、まるで「3Dプリンタ狂騒曲」状態になっていたと思います。何を隠そう、私自身もその片棒を担いでいたのかも。

 で、これから3Dプリンタブームは、一体、どこへ向かうのでしょうか? それは私には分かりませんが、これまでほど集中的に報道される機会は減ってくるでしょう。

 ブーム以前から、3Dプリンタを使っていた人たちは、引き続き使い続けるでしょう。ひょっとしたら、このブームを機会に、一時的に面白がるだけではなくて、自分の仕事や業務の一環として使い続ける人もいるかもしれません。しかし数はそれほど多くはないでしょう。

 そして、残りの多くの人たちは、そのまま3Dプリンタのことを忘れさってしまうかもしれません。もともと、3Dプリンタを使うようなことと接点がなかったわけですから。

 しかし、それではもったいないと思うのです。3Dプリンタは随分以前から存在していたにもかかわらず、ここまで集中的に、かつ(基本的には)好意的にメディアに取り上げられ、世の中で話題になったことは、そもそもありませんでした。そして、これをきっかけに「モノを作る」ということに、少しでも多くの人の興味が向くきっかけになったことも確かでした。テレビ番組の中での伝え方がどうであれ、これは紛れもなくプラスです。

 このような動きを自分から作っていこうと思っても思うようにはできません。まぎれもなく“モテ期”なのです。このモテ期を生かせずに、ただ単に祭りが終わるかのようにブームが終えんを迎えるというのはもったいないのです。

 ではどうすれば良いのでしょうか? それは、「本当に、革命を起こすこと」なのかもしれません。

本当に革命を起こすのは?

 私は、あるメディアのインタビューをお受けしたときに、「革命が起きるとすれば、それはツールが起こすのではなくて、人が起こすと思う」と申し上げました。つまり、今一番必要なのは、「革命を起こせそうな人を生み出すこと」だと思ったのです。

 また、もし3Dプリンタが革命を起こすなら、既存の製造業の中ではないかもしれません。というのも、そもそも製造業では、1990年台から3Dプリンタ(a.k.a、光造形、RP)を使用してきたのですから、既に革命が起きていてもおかしくないと思うのです。

 革命と呼べる変化をどう捉えるかにもよります。「以前は24カ月かかっていた新車開発が、12カ月に短縮」「1人1台以上、PCやスマホを持つ時代」「電子書籍サービスの登場」「場所を問わないコミュニケーションの日常化」などが実現しています。

 かつて私が中学生のころに「スペース・コロニー2081」(ジェラード・K・オニール著、1981年)という本に出合い、宇宙への思いや未来のテクノロジーへの夢をかきたてられました。そして今、この本に書かれていたことが実現してしています(当然、そのままではないこともありますが)。それを「革命」と言わずして、何を「革命」と言うのか。

 ……おっと、少々脱線してしまいましたが、つまり、今日の製造業の人たちは、3Dプリンタを含む既存ツールで起こせる変化は、既に起こし切っているのではないかと私は考えたのです。今後、3Dプリンタがものすごく進化して、材料が選び放題になって、射出成形並のスピードとコストが実現したとしても、あくまで今日の延長線上での変化になりそうです。

 もし3Dプリンタが革命を起こすなら、それは今の製造業に関わっている人たちではなく、業界の外の人たち、あるいは次世代以降の若い人たちの中からではないかと思います。

 つまり、革命を起こすのは、モノづくりのプロではなくて、アマチュアなのではないかということです。

革命は、アマチュアから

 先日、プラネタリウム「MEGASTAR」の開発で著名な大平貴之さんとお話をする機会がありました。話の中で、私が興味深いと思ったのは、MEGASTARを生み出すことができたのは、「プロのプラネタリウムメーカーではなかった」、つまり「個人の趣味でプラネタリウムを作るアマチュアだった」ことが、とても大きな要因だということです。

 スクリーンに星が1万個も投影できれば、人が肉眼で見られる6等星くらいまで十分カバーできます。ところが大平さんは「100万個投影したら、どうなるか」という個人的な思いからMEGASTARの開発をスタートさせました。それは、プロからは出ない発想だろうというのです。

 ……えー、回り道をしましたが……。つまり、安価な3次元CADが普及してきて、大掛かりな組織を必要とせずに、安価で簡単にモノを生み出せる時代になったということは、これまで日陰にあった才能を陽の下に送り出すことに貢献するかもしれないと言いたいのです。

 このような「何かを生み出す」作業の小型化や個人化はこの分野に限った話ではありません。例えばKindle Direct Publishingもそうですね。「書籍としての品質は、どうなのか」など、結構話題になっています。そこから生み出されてくるコンテンツが玉石混交状態ということは間違いがないでしょう。一方で、組織に頼らず、組織の制限に左右されることなく、タイムリーに書籍を世に出していける、ということは、まぎれもないメリットでしょう。そういった動きが、モノづくりの世界にも生まれてきているのではないでしょうか。

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