幻のスポーツカー「トミーカイラZZ」はなぜEVとして復活を遂げたのか電気自動車(2/2 ページ)

» 2013年05月07日 05時00分 公開
[三月兎,MONOist]
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1つの出会いがトミタ夢工場との接点に

 先述した通り、グリーンロードモータースのEVプラットフォームは、どんなボディデザインでも自由に選べる。にもかかわらず、小間氏がトミーカイラZZにこだわったのは、1つの出会いがあったからだ。

 もともと、トミーカイラZZは、公道を走れるレーシングカーとして1997年に発売された。その当時は、イギリスで生産し、日本に逆輸入するという形で販売していた。発売当初は、生産地である欧州の認証基準をクリアしていれば国内でも走行させられたが、運輸省令による保安基準改正により、輸入車も国内の認証基準に適合させる必要が出てきた。このため、発売中止を余儀なくされたという歴史がある。当時のトミーカイラZZは、400台以上の受注残がありながら、市場には206台しか出回らず“幻のスポーツカー”となった。

 小間氏が、グリーンロードモータースの立ち上げ時に技術者を募集したところ、初めて応募したのがトミーカイラZZを販売していたトミタ夢工場の元技術者だったという。その技術者からトミーカイラZZの話を聞き、トミタ夢工場は京都に生まれた初のスポーツカーメーカーであること、大手の流用品を使いながら組み合わせてモノづくりをしていたことを知った。

 トミタ夢工場は、まさに今でいうオープンソースの概念でモノづくりをしている先進的な企業だった。そこにグリーンロードモータースが考えているコンセプトとの共通点を見いだした小間氏は、ぜひ当時のオーナーと会いたいと思い、トミタ夢工場の創業者である冨田義一氏にコンタクトを取った。

 ちょうど、トミーカイラZZの権利が冨田氏の下へ戻ってきたところも幸いした。小間氏は冨田氏と意気投合し、同氏をグリーンロードモータースの役員に迎え、トミーカイラZZの後継となるEVスポーツカーをともに開発することになったという。

 トミーカイラZZがスポーツカーであったというのも、ポイントとなった。大量生産が基本となる大手自動車メーカーでは、最低でも数万台規模の販売台数がなければ採算が取れない。比較的価格が高く、販売台数も少ないスポーツカーの開発に対して、大手自動車メーカーが消極的なのはこのためだ。しかし、EVベンチャーであるグリーンロードモータースは、モーターはモーターの企業、二次電池は二次電池の企業に開発を任せる、水平分業型のビジネスモデルを採用しており、開発費を低く抑えている。このため、少量生産でも利益を出せるのだ。

 希少性も付加価値となるスポーツカーは、ベンチャーであるグリーンロードモータースにとって参入しやすい市場だったというわけだ。

 4月2日に初公開した際の反響は、前述の通り。小間氏も、「国内外から予想以上の問い合わせが来ている」という(関連記事:日本のテスラになるか、京都発のEVベンチャーが「トミーカイラZZ」を公開)。

 グリーンロードモータースの水平分業型ビジネスモデルには、デザイン事務所との提携も含まれている。大量生産して販売すると、車両の性能もデザインもコモディティ化する傾向がある。グリーンロードモータースは、「それとは逆に、一部のユーザーのためだけに尖った商品を提供できる」(小間氏)という。例えば、今回発表したトミーカイラZZの外装デザインのコストは1000万円程度しか掛かっていない。一般的な製品デザインのコストと比較すると破格の安値だという。将来的には、いろいろな外装デザインをモノコックフレームに載せて、少量多品種で販売する方針であり、実際にそういう引き合いも既にある。

一目惚れした顧客を二度惚れさせる

「トミーカイラZZ」の運転席に搭乗するテストドライバーの白石氏 「トミーカイラZZ」の運転席に搭乗するテストドライバーの白石氏。現在、F1ドライバーの座に最も近いと言われている(クリックで拡大)

 車体性能の面では、EVの最大の特徴である加速感が非常に良好だという。時速100kmに達するまでにわずか3.9秒。大衆車では10秒前後、Porscheを代表するスポーツカー「911カレラ」でも4秒後半だ。それよりも加速に掛かる時間が短い。テストドライバーの白石氏も、加速性能のレスポンスの良さに太鼓判を押す。

 トミーカイラZZはスポーツカーであるため、低速で走るよりも中高速で走る方がバランス良くなるように作られている。白石選手に、運転時のドライビングフィールを尋ねると、「自分の手足のように思うままに操る楽しさがある」という答えが返ってきた。

 外形寸法や出力の大きい車両に乗ると、ドライバーは、恐怖心や車両に対する“乗せられている感”を抱くという。車両重量が1000kg以下の軽自動車、1500kgのスポーツカーに対して、トミーカイラZZは850kgと軽い。その上、モーターのレスポンスが良いので、ドライバーが車両を操っている感覚を味わえる。運転席から、4輪のタイヤまでの位置が近いので、路面からのフィーリングがリアルに腰に伝わるそうだ。それが、「自分の手足のように」という感想になるらしい。

 白石氏は、「このクルマを見て一目惚れ(ぼれ)した人に買ってほしい」と話す。その上で、「単に乗りやすいクルマになってしまったらつまらないので、『おっ、こいつは面白いな』と思わせるような濃いキャラクター性を持つ味付けを施して、購入者に二度惚れさせたい。カーマニアに愛される車にしたい」とも語っていた。

初年度販売台数は99台から上乗せせず

ショーウインドウ越しに「トミーカイラZZ」に目を留める人も多い ショーウインドウ越しに「トミーカイラZZ」に目を留める人も多い(クリックで拡大)

 グランフロント大阪のオープン初日。店内を行き交う人々が、トミーカイラZZに目を留める。「電気自動車なんです」とパンフレットを渡されると、そのことに驚く人が多い。EV=エコカーのイメージが強い中で、スタイリッシュな車両が発売されることを喜ぶ声がいくつもあったという。

 小間社長は、初年度の発売台数を99台と発表している。これは生産キャパシティーを最大限に活用するのではなく、きめ細やかなアフターサービスに注力できるよう余力を残しておきたいという思いがあるからだ。

 「正式予約がスタートしたらすぐに99台を超えそうな勢いですが?」と水を向けたものの、「99台で予約は打ち切らせていただきます」(小間氏)とのこと。4月中に予約した顧客には、2013年秋ごろに納車される予定だという。

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