経営者の皆さん、ITっていうのは「壁を壊す道具」なんですモノづくりにおけるITをもう一度考える(1)(4/4 ページ)

» 2013年05月23日 09時00分 公開
[関伸一/関ものづくり研究所,MONOist]
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2次元と3次元の押し問答

 「誰がやるか決まってないんだ。だったら自分がやってもいいんだ」というフレーズを積極性の例として挙げたが、実際にこういう考え方ができる人材は少ない。周囲の人々からすると越権行為と言いたくなることもあるだろう。しかし、摩擦を認識しつつも、こういう人材を活用する懐の深さも経営者に必要な能力だ。

 コンピュータ周辺機器メーカーに勤務していたときのエピソードを紹介しよう。ちょうど設計現場は2次元CADから3次元CADへの移行期だった。当時まだ私は40代前半、血気盛んな製造課長だった。私は経営方針に沿い、CADを活用し「一人完結型セル生産」の構築を精力的に進めていた(関連記事:明るく楽しい職場からしか良い物は生まれない)。

 経営陣は設計開発部門へ3次元CADへの完全移行を指示していた。しかし、当時のPCのスペックによりCADの動作が遅く、大規模アセンブリを担当する開発チームは3次元CADに移行ができない。業を煮やした私は「来年度以降、3次元CADで設計したもの以外は製造部門では作らない!」と設計開発部門へ宣言した。

 そんな折にある開発チームリーダーが相談に来た。そのリーダーは「私が今度担当する新機種は、現行機種のマイナーチェンジです。現行機種は2次元設計で、共通部品が80%、400〜500点あります。ですから今回も2次元設計のままで行かせてほしい」と話した。

 私は「いや、3次元設計してくれなければ困る」と答えたが、もちろん2次元で設計した方がロスがないのも理解できる。しかしそれでは、私が推進する一人完結型セル生産は実現できない。

 そこで出した代案が「では、現行機種から流用する部品は全て製造側で2次元から3次元にコンバートするよ。そうすれば残りの20%を3次元で設計すれば済むよね? だったらできるでしょう?」チームリーダーは首を縦に振り、数カ月後、新機種は無事3次元設計を経てデジタルセル生産が開始されたのだ。

キーマンになろう

 この件は設計開発部門に大きな影響を与えた。リーダー間で「製造があそこまでやっちゃったぜ、自分たちも負けてはいられないな」という話になったのである。

 リーダーたちが協力し、膨大な2次元図面から数千点に及ぶ「今後流用する可能性があるもの」を選定し、3次元データに作り替え、ライブラリ化したのである。

 この問題はいわゆる「2次元データ遺産問題」で、3次元CADへの移行時に大きな壁となって立ちはだかる。2次元データを3次元にコンバートする仕事、もちろん設計・開発部門でやるべきことなのだろうが、そんなに工数は掛けられない。

 そこで私は「設計の仕事を取りにいっちゃえ」と行動に出たのである。この時のスローガンは「製造部門はアクティブであれ!」だった。

 もし、互いに意地を張って「2次元と3次元の押し問答」を続けていたら、新機種の開発期間が大幅に遅れただけではなく、設計開発部門と製造部門には大きな「壁」ができてしまったことだろう。私はキーマンとして「部門間の壁を壊す」機能を発揮できたのだと思う。

「意識の壁」を突き崩すには?

 さて、残された「意識の壁」へのアプローチだが、これが一番難しい。なぜなら直接アプローチすることができないからだ。「意識=マインド」に直接アプローチすると「マインドコントロール」という怪しい言葉になってしまう。

 しかし「意識の壁」を崩さないからにはセクショナリズムは解決できない。

 ではどうすればよいのか。

 それは経営者が自らアプローチできる「組織の壁」と「情報の壁」に対して根気よくアクションし、突き崩すことによって、社員自らが「意識の壁」を崩すしかないのだ。その具体例は次回以降に譲るとして、セクショナリズムがなくなった状態を図示しよう(図2)。

図2 図2:セクショナリズムがなくなった状態

 理想的には各部門の業務分掌が100%きっちり決まって、抜けがなくかつ重複もないという状態であるが、現実的ではない。

 私は部門にまたがって「どちらがやってもいい」という領域を容認すべきだと考えている。再度野球の守備の例になるが、外野への浅いフライをセカンドとセンターがともに追いかけ、交錯しながらもファインプレーでキャッチするというシーンを思い浮かべていただきたい。

 図2では便宜的に4つの部門で表しているが、中央の全ての部門が交わった部分から、その企業の「輝き」が生まれてくるのだと私は信じている。

次回に続く




筆者紹介

関伸一(せき・しんいち) 関ものづくり研究所 代表

 専門である機械工学および統計学を基盤として、品質向上を切り口に現場の改善を中心とした業務に携わる。ローランド ディー. ジー. では、改善業務の集大成として考案した「デジタル屋台生産システム」で、大型インクジェットプリンタなど大規模アセンブリの完全一人完結セル生産を実現し、品質/生産性/作業者のモチベーション向上など大きな効果を生んだ。ISO9001/14001マネジメントシステムにも精通し、経営に寄与するマネジメントシステムの構築に精力的に取り組み、その延長線上として労働安全衛生を含むリスクマネジメントシステムの構築も成し遂げている。

 現在、関ものづくり研究所 代表として現場改善のコンサルティングに従事する傍ら、各地の中小企業向けセミナー講師としても活躍。静岡大学工学部客員教授として教鞭をにぎる。



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