M2Mとクラウドのコンビネーションで実現する――地球に優しい“攻めの農業”ICTで農業を救えるか!?(3/4 ページ)

» 2013年06月04日 09時30分 公開
[八木沢篤,MONOist]

4つの技術が未来の農業を変える

 ご存じの通り、ここ最近、ICTで農業を活性化させようという取り組みは幾つも行われてきた。しかし、「現実的には、普及に課題がある」とルートレック・ネットワークスの佐々木氏は指摘する。

 今回のシステム開発に大きく携わってきた同社は、これまでもICTによる農業の利活用に対する取り組みを行ってきた。その経験から、乗り越えなければならない課題が見えてきたという。その点について、佐々木氏は次のように説明した。


ルートレック・ネットワークス 代表取締役社長 佐々木伸一氏 ルートレック・ネットワークス 代表取締役社長 佐々木伸一氏。「既存の農家を守りつつ、地域社会を活性化させていくこと。さらに、農業・農村の所得を20〜30%アップさせることを目指し、議論を重ねてきた。また、アナログ(農業)とデジタル(ICT)をどのように融合していくかという点は、本システムを実現する上で非常に重要なポイントとなった」(佐々木氏)

 「まず、植物工場のような大規模システムは、初期投資や運用コストも高く、中小規模の農家が多い日本の農業には向かない。また、センサー技術を活用した“見える化”は実現されても、それらデータを管理・栽培技術にまで活用し切れておらず、結局『“経験と勘”で実施した方が早い』という声もある。その他にも、PC、特にキーボード利用に対する抵抗感。ICTの利活用により生産量が増加した場合の販売先の確保(新しいビジネスモデルの確立)などが問題として挙げられる」(佐々木氏)。

 こうした農業におけるICTの利活用の課題を踏まえ、今回、新たな農業ビジネス・農業スタイルとしてメリットのある養液土耕栽培を、ICTを活用したプラットフォームとして実現し、普及させることを目指して産学が連携。明治大学(黒川農場)の「作る技術」、ルートレック・ネットワークスの「つなぐ技術」、セカンドファクトリーの「見せる技術」、マイクロソフトの「クラウド/ソフトウェア技術」により、一連のシステムを実現した。

M2Mとクラウドのコンビネーションが生きる! 養液土耕システム「ZeRo.agri」

 本システムの中枢となる部分の共同研究を、M2M関連の製品・技術などを有するルートレック・ネットワークスと黒川農場が進め、養液土耕栽培をスモールスタートできる養液土耕システム「ZeRo.agri(ゼロ・アグリ)」を開発した。

養液土耕システム「ZeRo.agri(ゼロ・アグリ)」 養液土耕システム「ZeRo.agri」の概要
温室の入り口に設置された「無線内蔵データコントローラ」と「灌水施肥システム」 温室の入り口に設置された「無線内蔵データコントローラ」と「灌水施肥システム」。上部の白色のボックスが無線内蔵データコントローラで、オレンジ色のミキサー(下のバケツにある肥料と水を混合して培養液を作る装置)および黒色の配管、青色の電磁弁(入力側)などで構成されるのが灌水施肥システムだ

 温室に設置した「土壌センサー」「日射センサー」「カメラ」などからのデータ(1回で取得する環境情報のデータ量は約500バイト)を10分間に1回、Wi-Fi経由で「無線内蔵データコントローラ」に送り、3G回線でWindows Azure上の「ZeRo.クラウド」にアップロード。クラウド上のアプリケーション(独自アルゴリズム)で分析・解析した結果を踏まえ、培養液をどの程度供給するかの指標(灌水施肥テーブル)を更新し、それを基に、培養液を温室内に供給するための「灌水施肥システム」を制御する。

 「試験場(温室)の広さが5a(単位:アール、5a=500m2)あるが、この装置1台でその10倍の50aまで賄える。無線内蔵データコントローラと灌水施肥システムの仕組み自体は120万円程度で導入できる。クラウドの利用料は月額で1万円。この程度の初期投資・運用コストであれば十分にペイできるのではないか」(佐々木氏)。

 無線内蔵データコントローラは、センサー情報の取得、クラウドとのやりとり、灌水施肥システムの制御を担うもので、ルートレック・ネットワークスが開発を担当した。ボックスの内部には、制御用のオリジナルのマイコンボードと通信装置がセットされている。一方、灌水施肥システム自体は、イスラエルのネタフィム社製の既製品を活用。青色の電磁弁は、奥側が水だけを与える場合に使用するもので、手前側がバケツに入った原液を100分の1に薄めた肥料を与える場合に使用するものだ。この2つの電磁弁の組み合わせにより、土壌に与える濃度(培養液の濃さ)を調整できる。

無線内蔵データコントローラ(1)無線内蔵データコントローラ(2) 無線内蔵データコントローラ

灌水施肥システム(1)灌水施肥システム(2) 灌水施肥システム。左側にある青色の装置が電磁弁で、中央にあるオレンジ色の装置がミキサーである

 「このシステムでは、負荷の掛かるデータ処理を全てクラウド側で行っているので、制御装置は16ビットマイコン(Microchip Technology製)で十分に対応できる。これがまさに、“M2Mとクラウドのコンビネーションの最大の強み”といえる。クラウドの登場で、自前のサーバが不要となり、制御装置も廉価なマイコンで実現できるようになった。この結果、トータルコストが劇的に安くなった。これは非常に大きなポイントだ」と佐々木氏は語る。

センサー(1)センサー(2) (左)土壌センサー/(右)温度・湿度センサー

センサー(3)センサー(4) (左)カメラ/(右)日射センサー

概要(1)概要(2) 温室の入り口付近に張り出されていたシステムの概要を紹介したパネル

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