ベタープレイス破綻で電気自動車の発展は遠のくのか和田憲一郎の電動化新時代!(2)(2/2 ページ)

» 2013年06月05日 12時30分 公開
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ビジネスモデルの破綻ではない?

 SAP出身のアガシ氏が、携帯電話と同様にEVバッテリーのプロバイダーを目指そうとした目の付けどころは良かったと思われる。しかし、現時点ではEVはまだ黎明(れいめい)期にあり、バッテリーそのものも著しい進化の途上にある。従って、バッテリーパックの形状や位置の固定化を要求されることは、自動車メーカーの思想と相いれなかったのではないか。このことは、バッテリー交換方式に対応したEVが、2011年に先行発売されたRenault(ルノー)の「Fluence(フルエンス)Z.E.」だけにとどまっていることにも表れている。


ルノーが2011年に発売したバッテリー交換方式EV「フルエンスZ.E」 ルノーが2011年に発売したバッテリー交換方式EV「フルエンスZ.E」 出典:ベタープレイス

 つまり、ベタープレイスの破綻は、そのビジネスモデルの破綻というよりも、携帯電話とは異なる、自動車が持つ特異性に起因しているのではないか。

T型フォードのヒットによる自動車メーカーの乱立/淘汰と同じ

 2012年から2013年にかけて、米国のリチウムイオン電池ベンチャーであるA123 Systemsの経営破綻(関連記事:グリーン・ニューディールは失敗? 米車載リチウムイオン電池ベンチャーが倒産)や、同じく米国のプラグインハイブリッド車(PHEV)ベンチャーであるFisker Automotive(フィスカーオートモーティブ)の身売り(関連記事:PHEVベンチャーのフィスカーが全社員の75%を解雇、破産準備へ)といったニュースが続いている。しかし、これらEVベンチャーの淘汰によって、EVそのものの発展も遠のいたのだろうか。

 かつてエジソン研究所に勤務していたヘンリー・フォードは、エジソンに勧められて独立し、Ford Motorを設立した。1908年に同社のT型フォードが大ヒットすると、瞬く間に米国には多数の自動車メーカーが乱立したが、そのほとんどは淘汰されていった。現在起こっているEVベンチャーの淘汰は、これと同じことのように映る。

 イノベーティブな商品の黎明期には、数多くの企業が参入して多様なアイデアを提案し、受け入れられなければ淘汰されていく。これは当然のように起こることだ。そこには、市場確立後の競争戦略論から分析される姿ではなく、企業による新しい製品やサービスへの試行錯誤と、ユーザーが新しいものの価値を見極めようとする際の葛藤がある。本物だけが生き残る世界であり、EVにおいてもどのようにすれば本流をつかんでいけるのか、企業は淘汰されないための眼力を試されているのではなかろうか。

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筆者紹介

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和田憲一郎(わだ けんいちろう)

1989年に三菱自動車に入社後、主に内装設計を担当。2005年に新世代電気自動車の開発担当者に任命され「i-MiEV」の開発に着手。2007年の開発プロジェクトの正式発足と同時に、MiEV商品開発プロジェクトのプロジェクトマネージャーに就任し、2009年に開発本部 MiEV技術部 担当部長、2010年にEVビジネス本部 上級エキスパートとなる。その後も三菱自動車のEVビジネスをけん引。電気自動車やプラグインハイブリッド車の普及をさらに進めるべく、2013年3月に同社を退社して、同年4月に車両の電動化に特化したエレクトリフィケーション コンサルティングを設立した。



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