最も必要なのは“失敗の覚悟”、ガートナーが語る“イノベーションを生み出す技術”とは?製造マネジメント インタビュー(2/2 ページ)

» 2013年06月19日 09時00分 公開
[三島一孝,MONOist]
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どうやってイノベーションを起こすのか

MONOist ITにより製造業の効率化が進んでいるという話でしたが、どういう面でIT活用が進んだと見ていますか。またイノベーションを生み出すのに効果的なIT活用とはどういうものが考えられますか。

チャン氏 企業全体を見ると、基幹システムの高度化によりあらゆる企業でオペレーションの効率化が進んだといえる。また製造業に限れば、生産のオートメーション化が進んだことが大きいだろう。センサー技術の進化や、制御技術の進歩により、装置により自動生産できる領域が拡大した。

 興味深いデータがある。製造業のIT投資は年平均成長率(CAGR)が約3%程度の微増傾向だ。その中で、エンタープライズソフトウェアは6.5%の成長となり、また生産性向上につながるタブレットなどのスマートデバイスは5.5%成長。さらにSCM関連への投資は7%と大きな成長を遂げている。今後もこれらへの投資は引き続き堅調だと予想されている。

アイデアをよりリアルに共有する技術

 一方で、より新たなアイデア、新たな市場に向けた創造的な商品開発については、3次元(3D)プリンタ(関連記事:【2013年版】3次元プリンタの普及のための5ポイント)を中心とする「アディティブマニュファクチャリング(Additive Manufacturing、積層造形)」技術が、1つの切り口になると考えている。

 従来は試作を行うのに時間やコスト面で大きな負担があったが、3Dプリンタなどを利用すれば大幅に負担を軽減することができるだけでなく、同じ場所にいなくてもリアルな造形を共有できるようになる。例えば、日本と中国、欧州、米州などの各地拠点の担当者が、試作品に触れながら、テレビ会議などで議論することなどが可能となり、より新たな発想の商品を、現地のニーズに即した形で出しやすい環境を作ることができる。

 一方、コンピューティングパワーが高まったことにより、扱うことが可能なデータ量が大幅に増えたことは、製造業のさまざまな工程に影響を与えている。多くのデータ量をリアルタイムで処理できるようになった。そのためアナリティクス(分析)技術が進化し、需給の変化予測などを高い精度で行えるようになった。

 多くのビッグデータ関連技術が出そろってきたことで、これらの技術が手ごろなコストで実現できるようになっている。ビッグデータ技術を活用することで従来保有していながら活用されていなかったデータを分析できるようになる。それにより、イノベーションへの知見を得ることができる。

 その他、グローバル化が進む中での各種グローバルコラボレーションツールの活用やソーシャルメディア分析など、ITが企業のイノベーションをサポートできる領域は広い。これらを効果的に活用することで、イノベーション創出に近づくことはできるだろう。

必要なのは失敗を許す企業の姿勢

MONOist これらの技術活用以外で、イノベーションに必要な点についてどう考えますか。

チャン氏 最も大切なのは、イノベーションに取り組む企業風土を作ることだ。新たな革新的商品へのチャレンジは大部分が失敗に終わる。成功率は1割にも満たない程度だろう。それを認める企業風土を生み出せるかどうかが、非常に重要になってくる。その意味で重要なのはガバナンスであり、企業の経営層の考え方だろう。

 リソースは無限にあるわけではないので、どの方向性で開発を進めるのか、またどの技術を選択するのかの取捨選択が必要になる。それを経営陣が責任を持って判断し、その分野に限っては、失敗を容認することが必要だ。

 よく企業の経営層と会うと「イノベーションを生み出すにはどうすればいいか」と質問されることがあるが、イノベーションへの挑戦とは現在答えのないものに取り組むことだ。失敗する可能性が9割かもしれないが、その成功する1割が企業の今後10年間の将来を守ることになるかもしれない。イノベーションに取り組むということはそういう意味を持つことだと理解をし、その中でリスクを低減しながら、取り組んでいくことが重要だ。

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