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» 2013年06月19日 10時00分 公開

MONOistミーティングレポート(1):メイカーズと町工場を熱意と3Dでつなげ (2/2)

[加藤まどみ,MONOist]
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新たに取り組みたいのは公共性の高い分野

 まずディスカッションは、「次に何に取り組みたいか?」というデザイナー2人のアイデアから始まった。根津氏が次に取り組んでみたいのが「公共性の高い物」。例えば医療や福祉といった分野だという。とはいっても「治療や介護をする」というよりは、「患者に楽しさを伝える」ような物である。


根津氏

 「『落語でがんが治った』というように、メンタルで病気の状態を変えていく話を聞くことがある。そういうところなら自分でも取り組めるかなと。恐らく自分には期待されていないであろう分野に取り組んでみたい」(根津氏)という。

 小島氏が述べたのは「今ある物を置き換えるという考えではなく、今困っている場所がないか観察しながら、それを解決するような物を形として作っていきたい」ということだ。そうしたことがきっかけで始まるユカイ工学のプロジェクトについては、少人数で進めていく。デザイン(意匠)については小島氏が一人で行うことが多いという。例えばチームラボハンガーだとデザインから設計まで、学研のパタパタ電波時計の場合はデザインまでを担当して、設計や工場とのやりとりは別の人が担当したという具合だ。

 根津氏の電気バイクzecOO開発における中核メンバーは5人。部品を作ってもらっている人などを合わせても10人ほどだという。「昨年(2012年)、トヨタ自動車との取り組みで展示会に発表した電気自動車も、開発に関わっている人数は少なかった。プロジェクトにおいては企業の規模や関わる人数は関係なく、それに携わっている人の本気度だけが大事だと思う」(根津氏)。

小島氏

 さらに小島氏は、「もっと町工場と仲良くしたい」と言う。なぜなら町工場側のモチベーションも高い方が、より良い物が作れると考えているからだ。根津氏も同様の意見で、「作る側との間に温度差が生じてしまうと、そこから仕事の話が途切れてしまうこともある」と述べた。

 zecOOは全ての部品をメイドインジャパンにこだわっていたが、モータやサスペンションなどは結局イギリス製になってしまった。日本企業に相談したところ話が進まなかったが、イギリスの熱心な企業が日本まで足を運んでくれて、大いに乗り気で取り組んでくれたからだという。なおその背景には「工場の経営も安定して余裕があり、だからこそ日本に足を運べて、熱意を共有できたという、良い循環が起きている」(山下氏)こともあるだろう。町工場側の余裕も必要であるようだ。

 モノづくりを受注する立場の山下氏も、依頼者の熱意を知ることは大切だと指摘した。モノづくりの最終工程を担う町工場に届く情報は、発案者や設計者のやりたいことがぼやけて見えるという。自分たちが作った部品が、一体何に使われているのか分からない。このように“一部分しか作らない”モノづくりでは、加工側のモチベーションはあまり高まらない。

 「自社ブランドを立ち上げたのも、会社全体のモチベーションを高めたかったから」(山下氏)。自社製品なら、自分たちが製品の全てを理解して、モノづくりに取り組める。

 パン氏は、「自社の役割として、『どうすれば誰にでも簡単に、樹脂成形や切削加工の製品を簡単に手に入れられるか』を追求している。モノづくりの情熱の出発点はやはり、最初のアイデアの段階にある。そのアイデアをいかに早く形にするかという部分で、モノづくりに貢献したい」(パン氏)という。

3次元データの課題

 メイカーズがモノを作る上で欠かせない3次元データにまつわる話も出た。3次元データを扱っていて「良い」と感じるところは、「町工場とのやりとりが早い」(小島氏)ことだ。しかし町工場に依頼する際、「電子メールではなく、Faxで設計図を送ってくれ」と言われてしまうケースもあって、この場合は3次元データが使えない。

パン氏

 またパン氏は、「3次元データには全ての情報がある」のが良いところだという。2次元図面は、まず人間が読んで理解する必要がある。2次元図面を見て立体が目に浮かぶような職人もいるが、人の感覚よって曲面の捉え方にばらつきが出る。そういう点で「3次元データで表現する形状にはウソがない」とパン氏は言う。とはいっても、「データが欠けていたりすると、きちんとやりとりしていたつもりでも、仕上がりが自分が思っていたのと違ってしまうこともある」(根津氏)。そういった情報のやりとりの行き違いが出て、「こだわりたいところ」と「そうでもないところ」の区別が、依頼者と製作者の間でうまく共有できないこともある。やはりそこは上手なコミュニケーションで補っていかなければいけないということになる。

 ちなみに根津氏にとっての3次元ツールは、「他の人を巻き込めるようなデザインへと固めていく、“自分だけの庭”のようなもの」だという。「3次元(CADやCG)でデザインした物は冷たいという意見があるが、自分はそう思っていない。あくまで作り込みができているかの問題」(根津氏)。

山下氏

 デザイナーが思い通りの形を表現するために3次元は欠かせないが、3次元CADが浸透する一方で、紙の図面も増えていると山下氏は言う。3次元データの情報をそしゃくするため、データの全てをふかんして見るにはPCの画面は小さい。そこで結局、紙にデータを印刷することになる。送られてきた3次元データは、そのままCAMに読み込んで使えるわけではない。

 またパン氏が述べたのが、「3次元データは公差の指定に不向きである」ことだ。パン氏は「3次元CADが作られたとき、とにかく形状を立体的にデジタルデータで表すことが先行していたから」だと見ているという。

 「3次元データに直接幾何公差が入っていることがあるが、これは(製作側が)見落とすことがあって厄介だ」と山下氏も述べている。

もうかっていますか?

 最後に自社の収益に関する質問に対しては、プロトラブズの本社は上場している一方で、日本の顧客も増えており、順調とのことだ。

 根津氏は赤字ではないが、自分自身が投資して取り組むzecOO開発などで「お金がどんどん流れていく」といった状態だそうである。「クライアントは自分が自費でやっているzecOOのような仕事に魅力を感じて投資をしていただいている面があると思っている」とのことだ。

 ユカイ工学は「自分たちが好きなことをやっていてお金に頓着しないので、もうかっていない……。これからもうかるよう頑張ります!」とのこと。

 山下氏は「自分のレース活動に、会社のお金を使わない」のがルールだという。経営はここのところ不調だったそうだが、一方で、追い込まれるからこそ「何かをしよう」という発想も出てくるものだという。会社の中でやるべきことも明確になるそうだ。社内の新人技術者育成において、従来は10年かけていた5軸加工マシンの操作の習得を、たった3年間でハイレベルな加工をこなせる域まで到達させることを目指している。

 また外部のデザイナーからの依頼で、「こういう物を作りたいんだ」と明確に伝えられると、加工担当者もがぜんやる気が出て、良い物ができる。「それぞれが単独でやるのではなく、『みんながつながること』によるシナジーが、今後絶対必要だと思っている」(山下氏)。

これから、どうする?

 最後に根津氏は「今回はすごいメンバーが集まった。この会場に来てくれている人の中にも同じような人がいると思っている。ここで日本を盛り上げていくくらいの気持ちで行きたい」と述べた。

 一方、登壇者の中では若手の小島氏は「今回は尊敬する人たちの中で出させてもらったが、皆さんも意外と悩みは共通だということが分かった」と述べたように、個人で起業するメイカーズたちは同じようなやりがいや課題を抱えるようだ。

 パン氏は「われわれはスピード勝負の今の時代にあったビジネスモデルを提供する。デザイナーの人たちの持つ創造性で、新しい物を世の中に出していく支援をしたいと思う」と言う。

 町工場の人たちにとっても、山下氏が「こういった場に出られてワクワク感を得られた。こんなことが定期的にできたら日本はまだまだすごい物が作れるのでは」と述べており、関係者の声が直に聞けたことは、モチベーションを上げるのに有効だったようだ。

 今回のような場は、起業する人、製造する人などメイカーズに関わる人にとって重要な情報交換の場となりそうだ。(次回に続く)

Profile

加藤まどみ(かとう まどみ)

技術系ライター。出版社で製造業全般の取材・編集に携わったのちフリーとして活動。製造系CAD、CAE、CGツールの活用を中心に執筆する。



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