信頼性テストを劇的に短縮するSN比の活用とは?タグチメソッドのデータを解析しよう(3)(3/4 ページ)

» 2013年06月24日 07時30分 公開

問題対策は、モグラたたき(負の連鎖)になりやすい

 SN比とは、製品が市場で使われる際に変動する程度を表します。ですからズバリ信頼性の指標といえます。ということは、SN比を算出すれば信頼性テストをしなくてもいいのです。その方法を説明しましょう。

 従来製品の不具合問題を改良する案が2つある場合を考えます。どちらの対策案を採用すべきかを決めるためには、テストで効果を確認することになります。有効性を確認するには、従来品を入れた3つの総合比較をする必要があります。

 このような場合、今までであれば数カ月から半年、場合によっては1年以上の期間をかけて、信頼性テストや寿命テストを行うことがありました。設計内容が確定した後の最終確認なら、この方法でも良いでしょう。しかし、まだ検討中の対策案の比較に、これほどの期間を費やすのは非効率です。商品開発には限られた時間しか許されませんから、実にもったいない話です。

 通常は、もっと短期間のテストで、採用する案を確定してしまう場合が多いでしょう。その際、気をつけなければいけないのは、従来製品で問題が発生した条件だけで効果確認を行うことです。

 よく犯す過ちは、電流値やギャップ調整値などの調整値を問題が出にくい方向にシフトして対策するやり方です。このようにすると、確かに対象の問題には対策できるのですが、今まで問題がなかった別の条件によって新たな問題が発生することがよくあります。副作用といわれるものです。

 副作用が出るということは、従来製品の実力に余裕がないことを示しています。いろいろな使用条件をぎりぎりカバーしているために、どこかで問題が発生したからといってパラメータを再調整すると、別の部分で不具合が発生するという負の連鎖に入ってしまうのです。これが俗にいう「モグラたたき状態」です。

SN比の活用で信頼性テストを短縮する

 地上に顔を出すモグラだけをたたいても、らちがあきません。地中のモグラを退治する根本からの対策が必要です。評価テストも、根本的対策が打たれているかどうかを判定できなければなりません。単に何回かのテストを行って問題がなかったからといっても、安心できるものではありません。

 信頼性テストの代わりの試験は、根本的な性質が改善されているかを評価する必要があります。市場でのさまざまな状況を想定する必要があります。そのため、多方面の意地悪条件を活用したロバスト性評価テストを、以下のように行います。

表3-2 ロバスト性評価テスト 表3-2 ロバスト性評価テスト(クリックで拡大)

 従来製品と、3つの対策案を並べて、表のような4組のデータを取ります。温度特性は、温度が標準条件から、例えば20度ずれた場合の出力値であり、電圧特性とは、電源電圧などが標準条件から20%ずれた場合の製品出力値などを示します。

 つまり意地悪な使用条件でのテスト結果が、標準的な条件での出力値(標準値)と、どれだけ乖離(かいり)するかを測定するのです。意地悪条件の影響度を比較するテストです。温度や電圧の変動の影響でテスト結果が影響を受けたり、汚れの影響を受けて出力値が大きく変動する場合は、信頼性が低いと見なすことになります。

 この表のようなデータを入手するのに、長時間のテストは必要ありません。温度を変えたり、電圧を変えたり、摩耗に相当した寸法に加工した部品に付け替えたり、汚れを付けたりして、その都度出力値を測定すればいいのですから、従来に比べたら10分の1か100分の1に期間短縮できるでしょう。

 意地悪条件におけるテスト結果のばらつきの大小は、そのまま信頼性の高低に対応します。なぜなら、いろいろな意地悪条件の影響を受けにくい製品は、市場におけるさまざまな使い方や環境条件の影響も受けにくいはずであり、すなわち高信頼性であり長寿命だと考えられますから。つまり、この意地悪条件を活用した評価テストが信頼性テストの代用になるのです。意地悪条件により、信頼性テストの大幅な時間短縮が可能なのです。

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