「じゃがりこ」の油を使用!? カーボンニュートラルなエネルギー、バイオディーゼル燃料の現在地小寺信良のEnergy Future(24)(3/4 ページ)

» 2013年06月25日 09時30分 公開
[小寺信良,MONOist]

B100とB5の法的立ち位置

 こうして作られたBDFは、篠崎運輸倉庫のトラックやフォークリフトなどで実際の燃料として使用されている。ただ、運用の方法は2つある。1つは、100%BDFだけを使用する方法。これを「B100」という。もう1つは、軽油に5%未満のBDFを混ぜた、「B5」という燃料を作る方法だ。

 B100での運用は、一般的にはエンジントラブルなどの問題が出るという報告も多いが、同社ではほぼ1年間運用して、一度も問題は出ていないという。これは自社精製したBDFの品質が高いこともあるだろうが、車両に対するメンテナンスの違いをきちんと把握して実施しているところが大きい。

 ただ車両の数からすれば、B5で運用しているものの方が多い。なぜならば、現在手配できる廃油の量では、全てB100で運用するには足りないからだ。ここではB100とB5のそれぞれのメリット、デメリットについて整理してみたい。

 まず両燃料の法的立ち位置から知っておくべきだろう。軽油に5%のBDFを混合して作るB5は、「揮発油等の品質の確保等に関する法律(品確法)」で正式に認められた燃料である。従って、B5は一般向けに販売も可能で、リース車両などでも使用できる。ただしB5製造者は、品確法に基づく厳格な品質検査が義務付けられており、これをクリアしないと製造できなくなる。

敷地内にあるBDFと経由の混合設備 篠崎運輸倉庫敷地内にあるBDFと経由の混合設備(クリックで拡大)

 一方B100の利用は、国土交通省が定める「高濃度バイオディーゼル燃料等の使用による車両不具合等防止のためのガイドライン」の順守が求められるが、B100使用車として車検を通し、自己責任で使用するのが原則となる。多くの場合、B100の利用に起因する故障はメーカーの保証が受けられなくなることが多いため、リース車両などへの使用は禁じているケースが多い。

B5は使いやすいが利用メリットが薄い

 これから考えれば、B5のメリットは明らかだ。通常の燃料と全く同等に扱うこともできるし、これを使用しても車両にとって問題はない。仮に問題が出ても、メーカー保証が受けられる。

 一方デメリットとしては、人件費や製造機器などへの投資をしてBDFを作り、B5燃料を作っても、トータルで言えば燃料費は軽油100%と大して変わらなくなることだ。これには税法の優遇措置がないことも大きい。軽油引取税は、95%の軽油分にだけ掛かるのではなく、B5燃料全体に掛かる。普通の燃料と変わらないなら、税金も普通の燃料と同じ分だけ掛かるというわけである。

 一方B100は、手間は掛かるが利用するメリットは大きい。まず排気ガスがほぼ無臭となり、エンジンを吹かしても黒煙が全く出ない。パーム油を原料にすれば無臭だが、原料によっては若干天ぷら油のような匂いがする程度だという。

エンジン稼働中のB100専用トラック。排ガスは無色無臭 エンジン稼働中のB100専用トラック。排ガスは無色無臭(クリックで拡大)

 燃費は、原理的には触媒が含まれているので落ちるといわれているが、実際に運送用のトラックではそれほどスピードを出すこともなく、山道などを頻繁に通らなければ、燃費はほとんど軽油100%の場合と変わらないという。

 一方デメリットとしては、メンテナンスのポイントや手間が一般のディーゼル車両とは異なってくるところがある。BDFはその組成の性質から、タンクやパイプ、エンジン内の汚れを落としてしまうので、フィルターや噴射ノズルが詰まりやすくなる。新車ならばあまり問題はないが、過去軽油で利用してきた車両をB100に切り替えると、エンジンやタンク内部の洗浄が十分でなかった場合に問題が起こりやすい。篠崎運輸倉庫のB100の車両には、独自にフィルターが増設されていた。

B100専用トラックに増設された燃料フィルター B100専用トラックに増設された燃料フィルター(クリックで拡大)

 またB100では、エンジンオイルがBDFによって希釈されるため、汚れや油圧のチェックを頻繁に行う必要がある。さらに排気ガス浄化装置も頻繁に動作するため、そちらのメンテナンスも必要になる。今後はB100使用車に対するメンテナンスの手順なども、共有されるべきだろう。

 燃料そのものの特性としては、BDFは通常の軽油よりも凝固点が高いため、寒冷地には向かない。さらに原料の種類によって凝固点が変わることも、注意が必要だ。

 例えば菜種油を原料とすれば凝固点は-12度程度となるが、パーム油を使用したBDFは、何も処理しなければ凝固点が13度ぐらいなので、冬場には使えないことになる。このため凝固点を下げるための製法や、別の原料由来のBDFとの混合といった研究が進められており、幾つかの方法が確立されている。

BDFの法的な問題

 次に法的な問題点もある。現在日本で使用が認められているBDFは、B100かB5しかない。例えばB100の車両で長距離を走行し、途中で給油が必要になったとしても、ガソリンスタンドで軽油をつぎ足して給油できない。

 なぜなら、B100の残量と軽油を混合することになるので、給油した段階で違法軽油となってしまうからだ。さらにB100の販売は許可されていないので、B100を扱うガソリンスタンドもない。従ってB100利用車の運行は、満タンで行って帰ってこられる距離に限られることになる。

 一方B5では、通常の軽油と同じ扱いであるという点からも、途中で軽油を足してもBDFの割合は減っていくだけという実質的な面からも、法的な問題はない。

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