3次元データを直接保護してくれる法律ってないのね?3次元って、面白っ! 〜操さんの3次元CAD考〜(24)(2/2 ページ)

» 2013年06月27日 11時00分 公開
[水野操 テクノロジーコラムニスト/3D-GAN,MONOist]
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特許権

 デザインではなくて、いわゆる「発明に属するもの」を保護するのが特許権です。ちなみに製造方法などの手法もカバーされるため、CAMデータは、実は特許の保護対象となるのだそうです。なお、著作物は特許権での保護の対象外となります。

 特許権も非常に強力な権利です。意匠権と同様に“絶対的”独占排他権を有しているため、内容にかかわらず、「先に認められた方が、全ての権利を有している」ということになります。

 ただし、そのためにはやはり、出願と審査が必要です。そして権利の維持のために年金を払い続けなければなりません。請求項目の分だけお金も増えます。

 また独占排他権があるが故に、巨額の賠償金やライセンスフィーを目当てに権利を買いあさる「パテント・トロール」といった悪名高い商売も成り立ちます。

 出願された特許は、しばらくすると特許公報に公開されます。それを見たライバル企業が、特許をかいくぐるような手を打つことも可能になります。それを嫌がって、あえて特許を申請しないという事例もあります。

 ちなみに3次元データの扱いですが、CADデータは発明や考案ではないため、特許では保護されないんだそうです……。

実用新案

 そういえば、実用新案というものがありますね。こちらは「物品の形状、構造又は組合せに係る考案」が対象になるのだそうで、方法や著作はそこから除外されます。実用新案も、出願とともに権利維持に年金が必要というところは、意匠権や特許権と同じです。

 ただし特許庁の審査がないため、権利の有効性が疑問視されやすく、権利行使時に問題が起きることも多いらしいです。つまり「権利はあっても、使うのがすごく大変」ということですね。

著作権

 著作権ってどうなんでしょうね。私も、こういうところで文章を書いていますし、気になるところではあります。ちなみに、著作物とは「思想または感情を創作的に表現したものであって、文学、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」なんだそうです。

 実際には、この文言以上に広く解釈されている気もしますが。技術的な思想については、特許権のほうでカバーされるのだそうです。

 ちなみに3次元データ(CADデータ)は著作物とは考えられないため、著作権法でもカバーされないらしいです……。

 さきほどの特許権や意匠権とは異なり、著作物は、制作された時点で、自動的に著作権が発生することになります。出願も手続きもいらなければ、権利維持にお金もいりません。

 しかも著作権は権利を持つ人の死後50年も継続するという、大変息の長いものです。

 そういうわけで、比較的扱いやすい権利といえますが、特許権や意匠権のように絶対的独占排他権があるものではありません。つまり、「たまたま似ていた」というものを排除することができないのです。

 日本語で著作権と言うと、ちょっと難しく聞こえますが、英語で言うと「COPYRIGHT」、つまり「複製する権利」です。なので、偶然にも同じに出来上がってしまったものに対しては、効力が発生しません。

 もし、著作権法を用いて相手を訴えようにも、相手が「確かに複製した」という事実を証明する必要がありますが、それは結構難しいことだと思います。

 逆に言えば、訴えれば、仕返しされる可能性もあるわけです。例えば「機動戦士ガンダム」とか「鉄腕アトム」とか、超有名作品であれば、「全く見たことがない」という主張をすることは難しくなるかもしれません。一方、マイナーな作品であれば、「そんなもん見たことないし!」で片付けられてしまう可能性もあります。

 そうそう、この権利を行使するためには、公開されている必要があります。公開していないものは、誰もコピーしようがありませんしね。秘密にしていたはずのものがコピーされていたら、それはそれで、「不正競争防止法」の範ちゅうになりそうです。

 と、ここまで書きながら、「3次元データを保護する法的な根拠って、本当にないんだなぁ」と思いました。まあ、3次元CADデータは中間生成物ですから、保護されるべきは、あくまで最終製品やそこに使用されている独自性である、というのもうなずける話ではあります。

不正競争防止法

 とはいえ、それでも本当に、関連する法律はないのか!?

 それが、不正競争防止法です。ただし、不正競争防止法は、「法文上で規定された不正競争行為を防止する」ということであって、「何かを保護する」権利ではありません。で、その不正競争行為で、われわれに関係がありそうなのが、「商品形態模倣行為」になります。しかし、3次元データがあろうがなかろうが、模倣行為は可能です。

 3次元データという話なら、その中に表現されている「技術上の秘密」が対象になります。設計業務のやりとりの中で、設計に使用している3次元データへのアクセスは制限されているということは珍しくありません。それは要するに、「秘密事項」を伏せているわけで、生の3次元データが漏えいすれば、そこから技術上のさまざまな情報が漏れだす可能性がありますよね。

 この技術上の秘密の条件として、「秘密管理」「有用性」「非公知性」の3つが同時に満たされている必要があります。実は、この3つを長期間に渡り維持し続けるのは、コストも労力も掛かります。情報は常に適切なアクセス制御(システム的にも、人的にも)がされていなければなりません。また、「その情報が秘密である」ということが、法律的に、常に認識されていなければなりません。

 技術上の秘密の条件がちゃんと満たされた状態を継続するのは、中原弁理士によれば、「結構お金の掛かること」だそうです。

 つまり、どこかに穴が開けば、技術上の秘密とはいえなくなってしまうのですね……。

海外展開に伴う対応

 日本市場だけではなく海外も視野に入れて活動しているMakersな方々もいると思います。

 例えば、私の友人でもあるTSDESIGNの角南健夫氏は、アウトドアブランド「MONORAL」(モノラル)を立ち上げた際、最初から海外展開のことを視野に入れていました。

 角南氏は、海外でのMONORALの模造品や商標出願などの問題に頭を悩ましていました。海外展開を視野に入れると、モノづくりよりも知財管理にコストが掛かってしまうため、ビジネスがある程度の規模まで成長しなければ、事業が回らなくなってしまう恐れもあるということをFacebookの投稿で書かれていました。

 この投稿を見た私は、角南さんとFacebookのチャットで話をしましたが、「知的財産と言う権利を理解することの難しさ」についても痛感していらっしゃるようでした。知財の考え方が一般的な感覚とはかけ離れているあまり、特許にしても意匠にしても、「何が権利になるのか」を判断する基準を理解するのに時間がかかったそうです。一般人の「これって、特許取れそう」というような直感も、ほとんど当たっていないということもおっしゃっていました。

 海外は視野に入れていなかった製品についても、注意が必要かもしれません。今の時代、製品の情報は容易に海外を超えます。例えば、私がニコラデザインで手掛けたカーボンファイバー製のアタッシュケース「G3」は、海外で宣伝もしていなかったし、英語の製品紹介も用意しなかったのに、海外のWebサイトで紹介され、少なからずオーダーもありました。それはつまり、海外で権利侵害される可能性があるということだといえます。

結局、3次元データそのものは、守ってもらえないけれど

 つまるところ、「3次元データそのものがどんなに大事であっても、直接守ってくれる法律はなさそう」なので、「自分が守ろうとしている対象」に応じて適切な権利を使うことが重要そうだという話でした。

 あと、もう1つ出てきた話があります。権利の話をすると、どうしても「いかに自分の権利が不当に侵害されないか」という視点にばかり目がいきがちですが、自分が攻撃されることについては無頓着な人が多いようです。

 特許や意匠といった絶対的独占排他権を持つ権利はともかく、著作権のように相対的な権利は、そもそも行使が難しく、行使できても反撃される可能性があります。それを考えると、特許権や意匠権を取ることで、自分側の非を減らすことができるので、それなりにコストは掛かるものの、十分意味のあることだといえそうです。

 大事なのは、常に冷静に「どの選択肢が自分にとってベストか」ということを考えることなのでしょう。

 本当はこれ以外にもいろいろな話題(例えばキャラクターの版権がらみの話とか)がありますが、まだ私の頭の中で未消化なので、別の回で。

 記事前半でも書きましたが、具体的なビジネス案件の場合は、弁理士さんに相談してくださるのが一番です。ここで書いたのは、あくまで私の解釈です。実際、中原弁理士から言われたのが、「一般的な質問だと、一般的な答えしかできません。後は、個別の具体的な案件でご相談ください」とのことでした。

 ということで、今回はこれにて!

 


Profile

水野 操(みずの みさお)

1967年生まれ。ニコラデザイン・アンド・テクノロジー代表取締役。マルチ・ディメンション合同会社社長。3D-GAN理事。外資系大手PLMベンダーやコンサルティングファームにて3次元CADやCAE、エンタープライズPDMの導入に携わったほか、プロダクトマーケティングやビジネスデベロップメントに従事。2004年11月にニコラデザイン・アンド・テクノロジーを起業し、オリジナルブランドの製品を展開しているほか、マーケティングやIT導入のコンサルティングを行っている。著書に『絵ときでわかる3次元CADの本』(日刊工業新聞社刊)などがある。



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