メイカーズと町工場が組み「製品を作って売る」ということMONOistミーティングレポート(2)(2/3 ページ)

» 2013年07月26日 11時00分 公開
[加藤まどみ,MONOist]

ユーザーに提供する体験を企画書の代わりに

 高須氏が所属するチームラボはシステムインテグレートからデジタルアートまで幅広い事業を手掛ける。同社で最近好評の製品が「チームラボハンガー」である。これは服を掛けるハンガーとデジタルサイネージが連動したもので、都内のアパレルショップで実際に採用されているという。

 ハンガーを手に取ると、その服に関連する映像が店内のディスプレーに表示される。またどの服が何回手に取られたかといったデータの収集を行ったり、手に取ると画面に(男性の服だと)女性が現れて褒めてくれるバージョンもあり、売り上げ効果はなかなか大きいそうだ。

チームラボ カタリストDivの高須正和氏

 この企画の発端は、アパレルショップによる「何か面白いことができないか」というラフな依頼だった。高須氏らはネットショッピングのサイト構築の経験から、服は他の製品と違い、機能でなくイメージ画像が重要であると感じていたという。そこで企画では、「テンションの上がる写真をどのようにして見せるか」を出発点にしたそうだ。そこからハンガーを手に取ることをスイッチにするアイデアが生まれた。

 だがこの企画書を作って依頼主に見せたところボツになってしまったそうだ。しかし高須氏らはそのアイデアに自信があったため、「たまたまギャラリーが空くので何か展示しないか」と知人から誘われたとき、この企画を実際に形にして展示することにしたという。

 展示開始までの期間は3週間しかなかった。町工場に片っ端から電話をして、板金でハンガーのパーツを作ってもらい、中に基板を隠せるような作りにした。これを展示したところ、予想外に評判がよかったのだという。アート作品を展示する感覚だったものの、実際は服飾販売の関係者が多く見に来てくれて、製品化へとつながった。

チームラボハンガーの製品化について

 同社の専門分野も“ソフト寄り”であるため、量産化に関するノウハウはなかったので、ユカイ工学(前回登場)の協力を得て進めていくことになった。店舗ごとに異なるニーズに1製品で応えられるよう盛り込む機能を考えたり、原価や故障したときの交換オペレーション、バッテリー寿命の設計など、量産特有の検討をしながら進めていったという。この経験を踏まえて高須氏は、「今後は実体験できる製品を作り、企画書の代わりに使うくらいの方がよいのではないか」と述べた。

航空宇宙品質の精密コマ

由紀精密 開発部 生産技術開発室主査の上野雅弘氏

 町工場の立場から独自製品を流通させているのが、上野氏が所属する由紀精密だ。同社は1950年創立の切削加工を中心とする金属加工会社である。航空・宇宙・防衛品質規格である「JIS Q 9100」を取得しており技術力は折り紙付きだ。

 同社のオリジナル製品として有名なのが、精密コマだ。「全日本製造業コマ大戦」に出場したことで有名になり、同社の代名詞のようにもなっている精密コマは、もともと事業内容である切削加工の精度の高さをアピールするグッズとして企画された。展示会でそれを配布してみたところ、来場者に非常に好評で、やがて商品化まで至った。ただし販売は自社ではなく外部に委託している。「作っている人や生産設備、検査の工程まで、飛行機用部品と同じということが購入者に喜ばれる理由」だと上野氏は述べた。

 また現在取り組んでいるのが、独立時計師の浅岡肇氏との機械式時計の共同開発だ。

浅岡肇氏との機械式時計の共同開発

 浅岡氏による日本の町工場の技術を使いながら時計を作りたいという提案からプロジェクトがスタートした。2013年6月11日にジュネーブの精密部品の展示会で展示し、2014年には完成品として販売する予定だという。

まず3Dプリンタを使いたいという人も多く出現

オートデスク 技術営業本部 シニアマネージャー 塩澤豊氏

 ソフトウェアベンダーの立場から登壇したのがオートデスクの塩澤氏だ。同社はAutoCADに代表される設計などのソフトウェアを提供する企業である。フリーで通常より操作が簡単であることもあり、書籍「MAKERS 21世紀の産業革命が始まる」の中で取り上げられている無償3次元CAD「Autodesk 123D Design」も提供する。

 塩澤氏は個人が制作した作品の設計データや製作手順をまとめてアップできるWebサイト「Instructables」を紹介。英語だが身近な家具から電化製品の部品まであらゆるものの作り方が載っている。気に入った作品があれば、誰でも設計データをダウンロードし、材料と加工装置を調達することで作品を作れる。

ユーザーのアイデア

 これらの個人がアイデアを形にしていく動機には、ツール先行型とアイデア先行型があるが、最近は3Dプリンタが大きな話題になっているために「使ってみたい」というツール先行型が増えている。そういった人には上記のInstructablesやオートデスクによるFacebookなどの情報発信、また同社がFabCafeと協力して実施するイベントや123D関連書籍が参考になるという。

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