SPICEの過渡解析(その1):キャパシタンス素子の場合SPICEの仕組みとその活用設計(4)(3/3 ページ)

» 2013年08月09日 12時00分 公開
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解析事例

 以上の説明を踏まえて、電源V1(1V)からR0(1Ω)を介してキャパシタC1(1F)を充電する図5(A)の回路を0.1s刻みで解析し、キャパシタC1の充電電圧の時間変化の様子を求めてみます。

 GCは、GC=C/Δt=1/0.1=10ですから解析回路は図5(B)のようになります(ノートンの定理で説明したように、V1とR0の電源構成はI1、G0の構成に置き換えます)。


図5 図5 キャパシタ充電回路の変換(クリックで拡大)

 この回路例の場合、節点電圧Vn+1は図5(B)から、

式(8)

で求めることができます。

 この等価回路を計算してみると、表1のようになり、真値との比較を図6に示します。

表1 表1 図5(A)の後退法による計算結果(クリックで拡大)
図6 図6 結果のグラフ表示(クリックで拡大)

 一方、前進法で解く場合は式(9)のように式を立てることができます。


式(9)

表2 表2 図5(A)の前進法による計算結果(クリックで拡大)

 計算結果を表2に示すとともに、図6に追記しますが、前述したように、

  • 後退法⇒曲線の内側
  • 前進法⇒曲線の外側

を通っています。



 次回は、インダクタンス素子と、以前にお約束した理想電源の組み込みについて説明します。

 陰解法の説明では触れませんでしたが、高次陰解法は現時点の値以外に過去の複数のデータを用いて予測します。

 しかし、計算開始時には過去のデータはありません。どうしても計算開始時には低次予測にならざるを得ないのです。従って、精度を確保するには刻み時間を小さくする必要があります。その様子を調べるために図5(A)の回路をいくつかのバージョンのSPICEで解き、その結果を表Aに示します。

 節点電圧V(2)がキャパシタC1の電圧です。

 ユーザー指定の刻み時間としては20msを指定しましたが、SPICE-Aと同Bは初期刻み時間を自動で指定値の100分の1まで短縮し、その後2倍の率で伸長しながら指定値に達しています。SPICE-Cはユーザー指定値を参考にした別の可変ステップを採用しているようです。

表A 表A SPICEの刻み時間の比較(クリックで拡大)

注:SPICEの刻み時間の可変の様子は一定ではなく、計算サイクルごとの解析量の変化幅も考慮した可変ステップとなっています。つまり、パルス応答時など急峻な変化を伴う場合には刻み時間が自動で短くなる現象が顕著に見られます。


執筆者プロフィール

加藤 博二(かとう ひろじ)

1951年生まれ。1972年に松下電器産業(現パナソニック)に入社し、電子部品の市場品質担当を経た後、電源装置の開発・設計業務を担当。1979年からSPICEを独力で習得し、後日その経験を生かして、SPICE、有限要素法、熱流体解析ツールなどの数値解析ツールを活用した電源装置の設計手法の開発・導入に従事した。現在は、CAEコンサルタントSifoenのプロジェクト代表として、NPO法人「CAE懇話会」の解析塾のSPICEコースを担当するとともに、Webサイト「Sifoen」において、在職中の経験を基に、電子部品の構造とその使用方法、SPICE用モデルのモデリング手法、電源装置の設計手法、熱設計入門、有限要素法のキーポイントなどを、“分かって設計する”シリーズとして公開している。



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