ビルをぶら下げる? 水に浮く建物? 世界最先端、地震で揺れない技術の世界未来を変える“尖り”技術(1/2 ページ)

「免震技術」と「耐震技術」の違いをご存じだろうか。「やじろべえ免震」と呼ばれる免震システムの開発を進める清水建設の中村豊氏に、最新の免震技術について話を聞いた。

» 2013年08月22日 10時00分 公開
[MONOist]
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 東日本大震災以降、地震に対する日本人の意識は根本的に変わったといっていい。日本に住む限り、地震を免れることはほぼないのだ。そこで住宅やビルの耐震化が急速に進んでいるわけだが、さらに建物のみならず建物の中も守る免震技術への関心も高まっている。その一つが塔頂免震だ。「やじろべえ免震」とも呼ばれ、中心の支柱から建物全体をつり下げ、やじろべえのように振動に対して建物がバランスをとることで振動を吸収するシステムである。この塔頂免震技術の開発コンソーシアムに参画した清水建設株式会社 技術研究所上席研究員の中村豊氏に最新の免震技術について話を聞いた。

ゆっくりと建物を動かす免震技術

 一般人には「免震技術」と「耐震技術」の区別もつかないだろう。中村氏によれば、それは全然別の技術ということだった。

 「法律によって、日本の建物は全て耐震構造が義務付けられています。地震が起きても壊れない、倒壊しない建物にしなさいということですね。だから日本では住宅もオフィスも耐震構造ですが、建物は壊れなくても室内の被害は起こります。建物自体も壁が壊れるなど傷みは生じます。しかし、例えばオフィスビルであれば『地震があっても室内の被害を最小限に止め、事業を中断なく進めたい』というニーズがあり、免震技術が開発されました」

 1980年代に研究が始まり、1983年に初めての免震建物が建ち、95年の阪神・淡路大震災を機に普及した。最近では一般のマンションなどでも免震構造を採用したものが増えている。現在、普及している免震構造は建物と地面の間に免震装置を設置し、免震装置の上に建物を載せる形式のものである。

 「免震装置は建物の固有周期を長くして、あえてゆっくりと揺れるようにする働きをします。地震の周期の短い激しい揺れに対して、建物の固有周期を長くすることで揺れを小さくすることができます。一般的に免震の周期が長ければ長いほど免震効果が高いことになります」

 地震の周期の短い揺れが建物に伝わりにくくなるように、免震装置が建物の周期を変えて、ゆっくりと長いものへと変更させている。そうすることで建物の揺れを小さくし、建物内部への被害を最小限に食い止めるわけだ。

 「免震装置として広く使われているのは積層ゴムです」

 積層ゴムは鋼板とゴムシートを交互に積み重ねて作られている。基礎の上に積層ゴムを敷いて建物を載せる、あるいは低層階の柱の上に積層ゴムを置いてから建物を載せる方法が免震構造の基本形式となっている。

逆転の発想!塔頂免震

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 積層ゴムの上に建物を載せるのが免震の基本である。その発想を完全に逆転させ、通常であれば建物の下にある免震装置を屋上へ持って行き、そこから建物をぶら下げたのが塔頂免震だ。

 「建物の中心となる“コア”から建物をつり下げる構造です。地上から建っているのは鉄筋コンクリート造のコアシャフトだけで、そこから居室部分がつり下げられています」

 建造物をワイヤーなどでつり下げる技術自体は、つり橋や大空間施設の屋根などでも使われている既存の技術である。しかし、免震装置を屋上に上げることは、思いがけない困難を伴った。

 「つり下げられている居室部分が、地震の際、『やじろべえの腕』のように一体となって動くことが求められます。当然、従来のように単純に水平に設置した積層ゴムではこのような動きを可能にすることができません」

 また、免震装置が載るコアシャフトの頂部は、地震の際に単純な水平方向の揺れに加えて弧を描いて揺れるため、この揺れが免震装置を通して伝わらないようにする必要があった。

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 「そこで積層ゴムを二段にし、傾斜をつけることで問題を解決しました」

 積層ゴムをすり鉢状に傾けて上下(逆向きに)2段配置することで、「やじろべえ」の動きを可能にすると同時に、コアシャフトの揺れを絶縁するわけだ。さらに積層ゴム設置の傾斜角度を変えることで、「やじろべえ」の揺れの周期を自由に変更することができる。従来の積層ゴムを単純に水平に設置する免震構造では、周期を変更するためには積層ゴムの硬さや大きさなどを変える必要があった。塔頂免震構造は、積層ゴム自体の仕様を変えることなく、傾斜角度を調整することによって容易に周期を変更できる。

 「一般的な住宅から20階ぐらいの建築物まで利用可能だろうと考えられます」

 塔頂免震構造には、建築デザイン上のメリットもある。通常の建物の場合、柱で建物の重さを支えなければならないため、その強度を確保するために柱は太くする必要がある。塔頂免震構造の場合、つり下げられている居室部分の支柱(ロッド)は、通常の柱とは全く逆で引っ張る力に耐えられればよいため、鋼棒を使って柱を非常に細くできる。

 「まるで柱がないかのような、透明感のあるデザインができます。居室部分の下部は支える柱の占有スペースがなくなるため、利用できる空間が広くなります」

 横から見た塔頂免震構造は、木のような形をしている。コアの周囲には柱がないため、オープンな空間ができる。イベントスペースや広場などに使ったり、線路や保存建築物など既存の建築物の上に建物を作ることができる。

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