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» 2013年08月23日 10時05分 公開

本田雅一のエンベデッドコラム(25):自社製品を“より良いモノ”にするための意識改革 (2/3)

[本田雅一,MONOist]

 製造業、モノづくりから少し離れてものごとを見てみると、知恵を絞るためのヒントを発見できるものだ。

創意工夫するということ

 先日、Gengo(ゲンゴ)というベンチャーを取材してきた。彼らが提供しているのはクラウド型の翻訳サービスである。“クラウド型の翻訳”というと、クラウドの安価な計算力を用い、先進的なソフトウェア技術で画期的な翻訳を……といった、何らかの機械翻訳サービスを想像するかもしれない。しかし、Gengoが提供しているのは、翻訳者が1つ1つを訳す“人力翻訳”だ。

 彼らはクラウドベースで、翻訳作業のワークフローシステムに、顧客の満足度評価や翻訳速度、翻訳ミスなどの情報を集計し、翻訳者としての質を評価するスコアリングシステムを組み込んでいる。スコアリングシステムの評価と発注者が望むクオリティにマッチした仕事を翻訳者に配分する仕掛けだ。地域を越え、世界中に広がる翻訳者のネットワークである。

 Gengoは、これらを一体化したシステムとし、シンプルかつ安価な3段階品質のメニューを設け、翻訳サービスを提供している。価格は文字・単語当たりの単価で3〜10円。ネットを通じたAPIでの利用か否か、そして翻訳者の品質により価格が異なる(Gengoの翻訳価格について)。

 Gengoが提供しているサービスは、専門性の高い分野や用途に応じて求められる品質を完璧に保証するものではない。いわば翻訳会社と機械翻訳の中間を狙ったものだ。利用者は品質を指定できるが、翻訳者の質までは見えない。つまり、米国市場向け広告コピーをインド人が考えてもうまくいかず、文学者が工学書を翻訳してもピンと来ない、といった問題は残るが、一方で、機械翻訳のような“ピンとこない”翻訳を、読み手側の意識の高さでカバーする必要もない中間的なソリューションだ。

 もし本当に高い実力を持つ翻訳者ならば、Gengoに登録するのではなく、自分自身の質の高さを生かした売り込みをする方が単価は上がるだろう。しかし、世の中にはさまざまな労働力がある。フルタイムで働けない、働く時間が限られているなど、いろいろな理由で活躍の幅が制限されている人は多い。

 Gengoは、語学力という扱いづらい能力をうまく束ねることで、これまで翻訳業に適した実力があるのに、その能力を生かせなかった人たちのパワーを活用しようという仕組みだ。まだ、サービスとして不十分であることは経営陣も認めているが、今後ニーズに合わせた顧客と発注者のマッチングサービスの最適化に“創意工夫”を盛り込めば、大きく化けるサービスになる可能性がある。完璧でなくとも、最初の発想、進むべき方向が正しければ、創意工夫次第でジャンプアップはできるはずだ。

割り切るということ

image ※写真はイメージです

 Wantedly(ウォンテッド)というソーシャルネットワークを生かしたリクルーティングサービスを提供しているウォンテッドという会社がある(あらかじめ申告しておくと、この会社の創業者とは知人だ)。先日、何となくネットを見ていたら、iOS向けに「CARD」という無料名刺管理アプリを提供し始めたという(関連記事:ウォンテッド、連絡帳を自動生成するアプリ「CARD」の提供を開始)。

 CARDはメールボックスを分析し、差出人の署名などの情報を抽出。正規化した上で、名刺情報としてまとめてくれるというものだ。「スキャンしない」「撮影しない」「打ち込まない」がコンセプトだという。確かに今どき、ほとんどの仕事が電子メールベースで進行しているという人は多いだろう。

 CARDはメールアドレスのドメインから公式ページを推測し、そのページアイコンを引用し、自動的にアイコン画像としてセットするなど、なかなか気の利いた動作をする。メール内に書かれていない情報を抽出することはできないため、署名に住所などがなければ住所は取り込めない。しかし、実際に使ってみるとこれで十分という部分は多い。名刺ソフトらしくCARD利用者同士の間で、名刺情報の更新があると自動的にアップデートされるといった機能もある。今後、ソーシャルネットワークとの連動性を高め、FacebookやLinkedInとの突き合わせなどで情報の量と精度を高めていけば、もっと便利になるに違いない。

 とはいえ、褒めっぱなしにするつもりもない。CARDは便利な道具だが、“完璧さ”には程遠い。また、「同じようなアイデアは以前からあった」「俺も作ろうと思って実際に作った」などなど、言いたいことがある人もいるだろう。その通り、CARDに完璧なオリジナリティーがあり、完璧な動作をしているとは言わない。しかし、1人の利用者として考えたとき、どちらも完璧である必要など全く感じない。利用者としては、知りたいことをタイムリーに知ることができれば、それでいいのだ。

 物理的な“名刺”という存在に縛られ過ぎてしまうと、名刺そのものを完璧に再現しようという方向に進んでしまい、本来のニーズとは異なる方向にずれてしまう。果たして、本当にやりたいことは何だったのか。今の時代、今のワークスタイル、今のライフスタイルに照らし合わせながら、どのようにして“割り切るか”を考えてみるとどうだろうか。

 今までこだわっていたことが実は捨てるべき価値であり、別の新しい価値こそが重要と思える事例は少なくないと思う。

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