Fablabが目指すモノづくりの究極マシン「ファブリケータ」とは?世界Fablab代表者会議Fab9レポ【前編】(2/2 ページ)

» 2013年09月13日 10時00分 公開
[高須正和/ウルトラテクノロジスト集団 チームラボ,MONOist]
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街を丸ごとFablabで作る

 Fablabの活動により、生産ラインによる大量生産の時代から、個人が自分のほしいものを直接作る時代へと変遷し、“人とモノの関係”を変えつつある。それにより、社会の仕組みそのものが変わっていく。その象徴として、バルセロナでの事例が紹介された。

 バルセロナのFablabでは、「Fab City」として街そのものをFablabで作り変えようという試みが行われている。Fablabの代表が都市の設計を担当することになり、現在バルセロナ市内に10拠点存在するFablabを向こう6年間で地区ごとに1つに増やし、市民180人ごとに1つのFablabを設立しようと計画している。衣・食・住・エンターテイメントのそれぞれにわたり、市民が必要なものを市民の手で直接作り出すようにするという。

 現代の都市は、多くのものを都市外から搬入し、廃棄している。一方、バルセロナは「スマートシティ」(資源やエネルギーを有効活用する都市)に取り組んでいる。例えば建物の新築/改築時には太陽熱を利用する設備が義務付けられている。

 バルセロナのFablabでは、Solar Fab Houseとしてデジタル工作機械だけで家を1軒丸ごと作成し、エネルギー会社と協力してスマートハウスとしての実験を行っている。この家は家でありながら、Fablabの工作物のようにバージョンアップを繰り返し、将来的には「家自体に工作室が備えられ、自己修復可能な家」を目指しているという。

 スマートハウスには太陽光の量や気温、電気の量などを測るセンサー類が不可欠だが、バルセロナのFablabではセンサーネットワークを自分たちで開発し、その内容をオープンにしている。クラウドファウンディング(あるプロジェクトに市民が直接お金を出して支援する)サイトの「Kickstarter」で募集を行った「Smart Citizenプロジェクト」は、既に6万8000ドルを超える支援を集めている。

 このセンサーネットワークを市民のそれぞれが作り、自分の家に配備することで、都市全体の状態がモニタリングでき、エネルギーをより効率的に使う社会を志向している。街ぐるみのパーソナルファブリケーションにより、社会全体が変わろうとしている。まさにソーシャルファブリケーションの好例だ。

来年の世界Fablab代表者会議、Fab10の開催地であるバルセロナに向かって、横浜から聖火が渡された。

Fablabが新興国にビジネスを立ち上げる

 Fablabは新興国に対する国際援助のモデルケースになる可能性もある。Fablabナイロビのカマウ・ガチギ氏から、ナイロビ大学内に置かれたFablabの模様が発表された。

 ナイロビ大学にFablabが設立されたのは、「高度な技術を備えた大手企業を誘致するよりも、自分たちがコミットして、技術が活用でき、コストも安いFablabを誘致しよう」というカマウ氏のアピールが実った結果だった。

 ナイロビ大学内のFablabでは、大学生以外も対象にロボット工学などの先進的な教育や、伝統的な工芸品を使った工作などのプロジェクトを行っている。自転車のダイナモから携帯を充電する発電機など、幾つかの成果は既にビジネス化し、地域に新しい産業をもたらしている。

 そのうちの1つが「Fabfi」というWifiメッシュネットワークだ。Fabfiはジャラーラーバード(アフガニスタン)のFablabで開発された、インターネットを地域で共有するWifiメッシュネットワーク。FablabナイロビではこのネットワークをFablab MIT(アメリカのMIT内のFablab)の援助を経てケニアに構築し、ビジネス化している。

Fabfiについて語るカマウ・ガチギ氏

 援助金や援助物資のモデルでは、現地政府の汚職などによって必要な人に援助が届かない可能性がある。Fablabの設立をサポートし、現地でモノづくりを興しビジネス化する取り組みには、新しい可能性が見える。

バイオテクノロジーを使って成長する「もの」を作る。

 チリのセルジオ・アラヤ氏からは、バイオテクノロジーとFablabの関係についてのプレゼンが行われた。セルジオ氏のFablabにはバイオラボが併設され、バイオテクノロジーを使ったモノづくりが行われている。

 バクテリアを使った温度で色が変わる化粧品、光を反射することによりピカピカ光る植物の生成(最終的には照明の代わりになる植物の生成)、酢酸菌の一種を使ったナノファイバーによる繊維づくり、木を加工して紙を作るのではなく、バイオテクノロジーで直接紙のようなものを生成する方法などが発表された。

 「いつかは家を材料から作るのではなく、家をバイオテクノロジーから直接生み出し、育てられるようにしたい」という将来的な可能性に触れてセルジオ氏の発表は終了した。

「バイオテクノロジーによるモノづくり」を語るセルジオ・アラヤ氏

Fablabの成果と多様性

 今回取り上げたスペイン、ケニア、チリの3つの事例は、カンファレンスで発表された事例の一部だ。Fablabネットワーク全体の成果の中ではごくごく一部にすぎないのだろう。それでもこの3つだけで、先進国でも成長国でも、技術的な実験であっても、Fablabの取り組みが成果を上げているし、そこには多様性が垣間見られる。

 この取り組むテーマの幅広さと、「それぞれが目の前の問題に取り組む」ということから生まれるユニークさ、そしてそれぞれがネットワークでつながり成果がシェアされていることが、今、Fablabネットワークが挙げている成果の特色といえるのではないだろうか。

 次回後編は、このような成果を生み出すFablabの代表者が集まる会議とはどういうものなのか紹介する。またワークショップの内容もお伝えする。


Profile

高須正和(たかす まさかず):@tks

ウルトラテクノロジスト集団チームラボニコニコ学会β実行委員。趣味モノづくりサークル「チームラボMAKE部」の発起人。未来を感じるものが好きで、さまざまなテクノロジー/サイエンス系イベントに出没。無駄に元気です。

筆者からのお知らせ

「Maker Faire Tokyo 2013」(会期:2013年11月3〜4日には、「チームラボMAKE部」として出展します。会場でお会いしましょう!



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