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» 2013年10月11日 13時25分 公開

Fab9実行委員長 田中浩也氏インタビュー:未来は予測できないから、何でも作れるようにする! FabLab流の教育とビジネス観 (4/4)

[高須正和/ウルトラテクノロジスト集団 チームラボ,MONOist]
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田中 白衣の先生が理科的なことを教える「サイエンス教育」というのが日本ではよくありますが、FabLabでやってきたことのように、「実際に手を動かしてモノを作らせること」は、サイエンスでなくて、テクノロジーとかエンジニアリングです。つまり、科学技術を「生活に応用する」ことを学んでいるというわけです。「一緒にハッカソン(注1)をしてみる」とか……、そこは「Make:」(注2)とかと少し違うところかもしれません。

注1「ハッカソン」:「ハック」と「マラソン」から成る造語で、24時間で1つのソフトウェアを開発するイベント。
注2「Make:」:オライリー社による雑誌および展示会イベントの名称。「工業の個人化」と「ハードウェアハッキング可能な機器の普及」によって変わるテクノロジーと人の関係を伝えることがテーマとしている。


 Make:は、モノづくりそのものが好きな人が集まるのだけど、FabLabは“作り方”や“作るプロセス”、つまり「Learn」と「Share」により関心が払われる印象です。モノを作るだけでなく、ドキュメント(文書)の作り方なども議論にあがります。

 また最近は、「文系教育にモノづくりを取り入れたい」という声も多く聞きます。デジタルファブリケーションツールは、コンピュータから操作するので、多少不器用かもしれないけれども、工作ができます。そうした新しい道具をきっかけに、これまで工作機械に触ったことがない人が工作を始めることもあります。

 今や情報化社会になり、「鑑賞できるモノ」「情報だけで満足できるモノ」は大体、インターネットに転がっています。そんな中で、「自分でモノを作る」ということの手応えや体験を求める人が多くなっています。僕の勤めている慶應義塾大学SFCの図書館にも、3Dプリンタが置かれていますが、一番ワクワクして触っているのが文系の学生だったりします。最初は他人が作ったモノのコピーやアレンジから始めて、そのうち自分で作りたいモノも作れるようになります。

 教育というと、気の長い話に思えるかもしれないけれど、考え方次第で一発で変わるかもしれないんです。「学校で100点を取るのより、作ったモノの動画をYoutubeにアップして、多くの人の心を動かす方が楽しい」みたいに、価値観が変わったら、あっという間に成長していくことはあるでしょう。東京大学でもスタンフォード大学でも100点を取るよりも新しいことを生み出すことを目指した教育プログラムがスタートしていますしね。

 FabLabの教育プログラムにおいては、知識は部分的に付けていければよいと考えていて、「すぐに手を動かす」「能動的に参加する」といった「マインドセット」(心構え)の話をまず説きます。つまり、「どうすれば、人の目を気にせず、好きなモノを自分で探求しながら作り続けられるようになるか」ということを考えていくのが、FabLabでいう「教育」なんじゃないかと考えています。

 具体的には「失敗しても褒める」とか、「自由にモノに触れる環境を作る」とか。自由奔放に好きなことを思い切りやる。そうでないとイノベーションは生まれない。大抵、“おかしなこと”は深夜に行われるわけです(笑)。Fab9でも、一晩中楽器を作っていましたしね。“普通”を疑い、違うことをすることが大事になってくるのです。

製造業とサービス業が融合したビジネス

高須 新しい形のビジネスも生まれてきそうですね。

田中 Fab9で初めて取り組んだテーマとして、「街全体で行う」というのがありました。FabキッチンとかFabバー、Fabラウンジ、Fabフォーラム、SuperFabLabなどを点在させ、さまざまな施設と連動してイベントを行いました。

 横浜の「BEEGEE fab」にもグッズ製作で協力していただきました。次回以降も継続し、FabLabがさまざまな施設と接続していき、FabCafe、Fab映画館、Fab図書館などが街の中に生まれていくといいなと思っています。何かを見にくるだけ、情報を取りにくるだけじゃなくて、そこにコミュニティーがあって、自分も生み出す活動に参加できるという。

 アメリカでは「博物館の中にFabLabを作る」という動きが多いです。日本なら、例えば「科学未来館」の中にFabLabを作るようなことですかね。その中でワークショップを開催してリピーターを増やし、コミュニティーを作るのです。

 図書館の中にある視聴覚ルームやメディアブースのように、新しい「メディア」として3Dプリンタに触れるスペースを作って、利用者がひっきりなしに使い出したという実例もあります。

 Fab9でも、「フードワークショップ」という、各人で料理を作るワークショップを行いましたが、今後は、料理を注文したら材料が出てきて、自分で調理する飲食店やバーもできてくるんじゃないか、と思います。

 Fablabで売っている、提供しているのは「モノ」というより「体験」で、「一緒に作る」「作り方のノウハウと設備を提供する」みたいな、サービス業と製造業が合わさったような価値を提供しているといえるでしょうね。これからはますます、そういう「メタ製造業」とでも呼ぶような新しいビジネスが伸びていくのではないかと感じます。既存の製造業を進化させたり、追いやったりするのではなくて、「新大陸を作るような感覚」なのかな。

 まだ、FabLabから新しいビジネスが続々生まれているという段階ではありません。でもこれからはFabLabで個人が思い入れを持って自分のためだけに作った「作品」がスピンアウトして、それが同時に、皆が求める「製品」にもなっていく時代だと思うのです。機能でも洗練されたデザインでもなくて、「愛着がわく」「ワクワクする」などの要素が重視される世界があるのではないかと。

 そうした製品がもっと当たり前になっていく状況にしていきたいです。個人が本当に欲しいモノを作っていくFabLabのカルチャーは、そういう新しい意味での「共感」の文化と相性がよいと思います。各人が自分の作りたいモノを作って、他の人が求めるなら売ればよい。その場合の「売る」というのは「交換」ではなくて、「シェア」に近い、という感じなのです。特にモノではなくデータ販売の場合は、ですね。

「何でも作れる」ことで予測できない未来に備える

高須 Fab9を終えて、今後のプランはいかがですか?

田中 横浜とは今後も関わっていきたい。横浜を“Fabcity”にしていきたいですね。Fabキッチン、Fabバーといった形の新しいFabコミュニティーを作って、小学校、中学校、高校とかとも連携していきたいです。

 今回のFab9には自分の研究室の学生がスタッフとして多く参加したのですが、彼らにもFabLabマスターのエネルギーがすごく伝わったと思います。今日もSuper FabLabに泊まりこんでいる学生がいますよ(笑)。今回開催してみて、僕自身はますます、「世界を相手に活動したい」という思いが大きくなりました。

 自分の研究室では先ほどのgitFABだけではなくて、3次元データの検索サービスを作っていたり、工作機械そのものを作ったりしています。これからも作る人を増やすような活動をやっていきたいですね。いずれは、研究室からベンチャー企業を誕生させたいと学生と話しています。Webと違ってファブは「モノ」なので、言葉のハンデが少なめでグローバルに展開しやすい、面白いジャンルです。世界中のFabLabで使われるサービスやモノを自分たちの取り組みから作っていきたいと思っています。

 とはいえこれからFabLabや世界がどう変わっていくかは、正直予測できません。よく話すテーマですが、今の3Dプリンタブームは、数年前まで、誰も、どこのシンクタンクでも予測できなかったわけです。しかし、その予測できなかったことで、いま世界は変わっている。そういったことが進行しているんです。

 2014年にアメリカで宇宙船に3Dプリンタを載せるという計画があるのですが、これは「宇宙に実際に行かないと、何が必要か分からない。なので、地球からあらかじめ、いろいろ持っていく」のではなくて、「宇宙で必要なモノをその場で作った方が正解だ」という発想です。そのために、何でも作れる設備とノウハウを整えておく必要があるし、思い付いてから作るまでのスピードを速くする必要がある。腕も磨いておく必要がある。予測は当たらないので、そのとき必要なモノを即座に作れるように、「何でも作れる」準備を整えるというのが大事だと思います。流行に乗るとか、先を見越して無駄なく行動するというより、より不確定な未来に飛び込んでいくためには、腕を鍛えて、知力も体力を付けていなければいけないんです。FabLabはそういう研鑽(けんさん)の場所になれたらいいと思います。

 集中強化合宿であるFab9は終わりましたが、普段の日常も、集中して強化し続ける日々でありたいですね。「愉(たの)しさ」(Fabulous)を忘れずに!

Profile

高須正和(たかす まさかず):@tks

ウルトラテクノロジスト集団チームラボニコニコ学会β実行委員。趣味モノづくりサークル「チームラボMAKE部」の発起人。未来を感じるものが好きで、さまざまなテクノロジー/サイエンス系イベントに出没。無駄に元気です。

筆者からのお知らせ

「Maker Faire Tokyo 2013」(会期:2013年11月3〜4日)には、「チームラボMAKE部」として出展します。会場でお会いしましょう!



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