第27回 B787とハーネス前田真一の最新実装技術あれこれ塾(1/4 ページ)

実装分野の最新技術を分かりやすく紹介する前田真一氏の連載「最新実装技術あれこれ塾」。第27回は、航空機や自動車に搭載されている電子システムの間を接続するのに用いられているハーネスと、ハーネスに起因するEMIについて取り上げる。

» 2013年11月14日 05時30分 公開
[前田真一実装技術/MONOist]
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本連載は「エレクトロニクス実装技術」2013年6月号の記事を転載しています。



1. 注目を集めるボストン

 今年に入って、筆者の本拠地であるボストンが、特に日本で(それも悪いほうで)注目を集めています。

 まず最大のニュースはボストンマラソンを狙った圧力釜爆弾によるテロと、そのあとに続く犯人と警官隊の銃撃戦です。筆者の家はボストンから高速道路で30分以上あるニューハンプシャー州なのですが、犯人が自動車で逃走した場合銃撃戦に巻き込まれる恐れがあるということで、この地域の公立学校は休校になりました。

 これまでのボストンはハーバード大学やMIT(マサチューセッツ工科大学)など一流校が集まるアメリカ東部の学園都市で、古くて落ち着いた美しい町というイメージがあり、またニューヨークやロサンゼルスに比べればマイナーなイメージでした。

 日本とボストンを結ぶ直行便もありませんでした。今年になってやっと、成田−ボストンの直行定期便が日本航空によって開設されるようになりましたが、それに使用する機体がボーイングB787(図1)であり、定期便が就航する前、(2013年)1月にJALのB787がボストン空港で出火事故を起こしました(図2)。

図1 図1 ボーイング787(ボーイング社HPより)
図2 図2 ボストン空港で発火したJALのB787バッテリ(NSTB公開資料)

 これが、その後半年に及ぶB787のバッテリ問題が公のニュースになる初めでした。その後、ANAのB787が飛行中にバッテリから発煙し大問題になったのはごぞんじのとおりです。

 結局、バッテリが発火した故障メカニズムはまだ不明ですが、可能性のあるトラブルへの対策をすべて施したということで飛行が再開されることになりました。

 これは知見のある専門家が集まり、B787のバッテリがトラブルを起こす可能性を洗い出す、という作業を行い、現実的にはありえないと考えられるものまでを含め、80項目を考え出しました。そして、これらの項目への対処や、考えられなかった原因によるバッテリトラブルに対しても事故にならないような対策など、17項目の改修を施すというものです。

 このようなアプローチによる製品の安全性確保の手法や安全性の評価についても興味がありますが、ここでは航空機の電気系統について考えて見ましょう。

^航空機の電気系統

2. 航空機の電気系統

 第2次世界大戦の頃までは、航空機には電気は使われていませんでした。

 第2次世界大戦中に、通信機とレーダの発達により、やっと航空機にも電気が必要となりました。

 その後、マイクロプロセッサの進歩により、飛行機の操縦補助としてコンピュータ制御が取り入れられるようになり、一気に航空機のエレクトロニクス化が進みました。

 このようなコンピュータ制御による操縦の補助を『フライ・バイ・ワイヤ=Fly-by-Wire』と呼びます。

 特に、操縦の感性を大事にする戦闘機に取って、操縦桿の微妙なコントロールや操縦桿の重さの変化などそれまでの操縦感覚をいかに保ったままコンピュータ制御に移行するか、マン・マシン・インタフェースの開発が大変であったといわれています。

 現在、航空機では操縦の電子制御は当たり前ですが、多くの乗客に快適な空の旅を提供する旅客機では電気は特に重要となっています。

 航空機の居住性の良し悪しは民間航空にとっては経済性と並び、最大の要素です。

 B787は、この経済性と乗客の居住性が両立してすぐれていることから航空各社が導入に積極的であった航空機です。

 B787の経済性と乗客の居住性がすぐれている理由の大きな要素が電気化にありました。

 ボーイングB787の電気系統についてはボーイング社のHP(注:リンク先はPDFファイル)に書かれていますが、以下にその概要を説明します。

 B787のバッテリーは28V(29.6V)、75Ahが8個で28V、Aとなっているそうです。しかし、これではとても旅客機の使用する莫大な電力はまかなえません。

 現代の旅客機は非常に大きな電力を使用します。例えば、全座席に液晶モニタが設置され、全乗客がオン・デマンドで映画やゲーム、音楽が楽しめるようになっています。また機内照明も全体の照明と、個人個人のスポット照明が用意されています。

 エアコンも必要です。

 しかし、旅客機の電力の最大使用はギャーレイ(キッチン)です。全乗客に対してフライト中に数回出される食事や飲み物、氷などの冷蔵、加熱調理などに使う電力は膨大なものとなります。数百人分の食事を短時間で加熱調理するための電力は、家庭用に電子レンジなどとは比較になりません。

 当然、その他にもレーダや通信機、操縦装置や飛行機の翼や胴体などに付けられたライトなどへの電力も必要です。特にB787ではこれまで油圧やエンジンの排気を利用していた部分の電気化を進め、燃費向上を図っています。このため、B787ではこれまでのボーイング社の旅客機の4倍の電力を使用し、1.5MWの電力を生成しています。これで、燃費を2〜3%向上させています(ボーイング社資料より)。

 これらの電力はジェットエンジンで発電機を回して115Vまたは200V、400Hzの交流電力を作ります(B787では235V)。これをDC28Vにしてバッテリに充電します(図3)。

図3 図3 ボーイング787の電気システム(ボーイング社HPより)(クリックで拡大)

 航空機ではトラブルは大事故につながるため、絶対的な安全性が求められます。このため、電気系統に対しても2重以上の系統が求められ、バッテリは主にエンジンや発電機が停止した場合のバックアップとして用いられます。

 大きな機体の中をいろいろな系統で接続されるハーネスは膨大なものとなり、B787のハーネスは全長112kmにもなるといわれています。信号の高速化、ハーネスの軽量化を目的に銅線によるハーネスから、光ケーブルによる機内通信が検討されフライ・バイ・ワイヤからフライ・バイ・ライト(Fly-by-Light)への移行も考えられています。

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