トヨタの分かりにくさ、BMWの分かりやすさプロダクトデザイナーが見た東京モーターショー2013(6/7 ページ)

» 2013年12月27日 11時50分 公開
[林田浩一(林田浩一事務所),MONOist]

元気な軽自動車

 ダイハツ工業が「KOPEN」を、ホンダは「S660」を、スズキは間もなく発売の「ハスラー」をと、軽自動車勢は新しい価値商品の提案を行っており、各社とも活気がある。開催前からメディアの事前情報でも比較的大きめに取り上げられていたKOPENとS660。実車を見てみると、オープン2シーターの軽自動車というフォーマットは同じだけど、それぞれ目指すところは違うと感じた。

 クルマとして分かりやすいのはホンダのS660の方ではないだろうか。プレスリリースにもあるように、「とにかくかっこいいHondaらしい車をつくりたい」ということを素直に具現化しようとしている。最近の歩行者保護対応を考えると、前にエンジンを置いたのではボンネットを低くできないからミッドシップレイアウトにして、というストーリーが見えるカタチである。

 次期「NSX」と並んで展示されているステージ前は多くの人だかりができ、注目度も高い。「小さくても本格的なスポーツカーであること」というテーマも分かりやすい。ただ、そういう方向を目指すのであれば、軽自動車という枠に拘る必要があったのかという疑問も頭をよぎったのは確か。小さくても本格的なスポーツカーを求める人々が、ある一定数存在するのは間違いないのであろうが、その人々にとって黄色い軽自動車ナンバーが付いていることは、案外重要ではないのでは? という素朴な疑問も湧いてくる。とはいえ、ホンダのラインアップ全体として見たときに、フラッグシップのNSXと軽自動車のS660で、スポーツカーの両端にピンを打つという役割もあるのであろう。

ホンダの「S660」 ホンダの「S660」。トップ周りなどこれから多少変更がありそうな部分もあるけれど、なかなかにカッコイイ。黄色のナンバープレートがついて街の景色の中に置いたときの雰囲気をみてみたい(クリックで拡大)

 もう1台の軽オープンカーであるKOPENの方は、走りを主体とするスポーツカーではなく、新しいビジネスモデルをトライするプラットフォームとして、趣味性の強いオープンカーというキャラクターを選択したのではと感じた。外板を交換できることでボディーバリエーションを増やせるというコンセプトは、うまく育てることができれば、アフターマーケットやメイカーズといった動きも巻き込んだ新しいビジネスが作れるかもしれないという期待感がある。ある意味で半完成品のクルマを売る試みの事例となるのではないかとブースを見ながら思った。市販されるのが楽しみである。

ダイハツ工業の「KOPEN」。今回提示された“着せ替え”ボディ(外板)のバリエーション。手を加えられる“余白”があることで、クルマだけでなくビジネスとしての広がりも出てくると面白い。このKOPENのプロジェクトでデザインをまとめたのは、昔々筆者がまだワカゾウだった頃、遅くまでいるいつもの残業仲間だった和田広文氏(現在は主査を務めている)である……ということは、ブースへ足を運んだその場で偶然知った(笑)(クリックで拡大)

 活気ある軽自動車メーカーからもう1社はスズキ。主役となったのは、先述の2社のようなスポーツカーではなく、クロスオーバーテイストな「ハスラー」。クルマの種類はスポーツカーとは違うけども、軽自動車での脱コモディティへの価値探索という視点から見ると、S660やKOPENと同様な方向を向いているとも言える。ブースでは他のコンセプトカーも、都会っぽいクロスオーバーから本格的なクロカンまで並べながらハスラーへ誘導するという見せ方。

スズキの「ハスラー」(左)と3台のコンセプトカー(クリックで拡大)

 そしてもう1台、既存の軽自動車とは違うけれど、今後の展開が楽しみな小さなクルマが参考出品されていた。ヤマハ発動機の「MOTIV」だ。二輪車メーカーから、パーソナルモビリティとしての小さなクルマの提案というのが興味を引かれる。

ヤマハ発動機の「MOTIV」の外観(左)とベースとなる「スケルトンフレーム」(クリックで拡大)

 ボディサイズを見ると軽自動車枠に入っているようだが、現状で軽自動車ビジネスを展開している企業ではないから企画段階で「せっかくだから軽枠に入れとくか」くらいなことはあるだろうけれど、「軽規格ギリギリまで使い切らないのは損」みたいな議論なくカタチになったのではないだろうか。「人機一体感がもたらすドライビングプレジャー」という説明からは、“原チャリ”ではなくスポーツバイクの延長にある乗り物をイメージしている様子がうかがえる。

 スポーツカーのカタチをしたS660とも、ダイムラーが作るSMART(こちらも運転してみると、なかなか楽しい)とも違う小さなクルマとして、MOTIVが世の中に出てくることを期待したい。

 なんと言っても、開発のパートナーにかのゴードン・マーレーの名前が加わっていることで、MOTIVが特徴あるクルマになるのではという期待が高まるのである。ちなみに、ゴードン・マーレーは、究極のロードカー「マクラーレンF1」の生みの親である。最近では、自身が率いるゴードン・マーレーデザイン社で、「T25」、「T27」といった小型シティカー開発や自動車開発の各種サービスを提供している。

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