遠隔医療をより身近に、シスコがソフトウェアプラットフォームを発表ソフトウェア

シスコシステムズは、医療向けのネットワークシステムを実現するソフトウェア「Cisco HealthPresence」の新版を発表した。遠隔医療や地方医療に必要なシステムを、より容易に実現できるという。

» 2014年01月17日 12時34分 公開
[村尾麻悠子,EE Times Japan]

 シスコシステムズ(以下、シスコ)2014年1月16日、遠隔医療や地方医療向けのソフトウェアプラットフォーム「Cisco HealthPresence」の新版となる「Cisco HealthPresence 2.5」を発表した。クラウド上に実装することで、高解像度のビデオや高音質の音声、医療機器、ネットワーク経由で転送される医療データなどを、1つのプラットフォームで共有できるようになる。2013年12月より発売を開始していて、価格は1万6000米ドルから。

 Cisco HealthPresence 2.5を導入したシステムでは、テレビ会議をしながら、遠隔地で計測した患者のバイタルサイン(心拍や血圧など)や、医療用カメラで撮影した画像、聴診器で聞いている音などを、リアルタイムで共有できる。

 例えば、地方の巡回診療所で、家庭医が患者に電子聴診器を当てて心音を聞いているとする。遠く離れた大きな病院の専門医も、テレビ会議システムを介して、患者のようすが見えるだけでなく、その心音もリアルタイムで聞けるようになる。具体的には、電子聴診器で聞き取った音のデータをテレビ会議システム用の端末にBluetoothなどの無線で送信し、ネットワーク上でそのデータを共有するという仕組みだ。シスコは、「地方の家庭医が専門医の判断を仰ぎたい場合や、無医村で簡易的に診療する場合などにとても有効になる」と説明する。

 電子カルテやPACS(画像保存通信システム:Picture Archiving and Communication Systems)の画像データ用のビューアも装備しているので、医療従事者同士は、電子カルテやMRIの画像を見ながらテレビ会議を行うことができる。

「Cisco HealthPresence 2.5」のイメージ 出典:シスコシステムズ(クリックで拡大)

滋賀県における遠隔医療の実証実験

京都大学医学部附属病院の黒田知宏教授

 滋賀県長浜市では、2013年10月からCisco HealthPresenceを導入して、大規模な病院と、地方の診療所をネットワークで結ぶ遠隔医療の実証実験を行っている。

 実証実験に携わる京都大学医学部附属病院の黒田知宏教授は、「遠隔医療システムの構築は、既に存在する技術を組み合わせればそれほど難しいことではない。ただ、病院や医師の方針の違いによって、システムの導入が難しくなっているという実態がある」と説明する。保守的な考えを持つ医療従事者も多いが、黒田教授は「一度システムを使ってもらうと、受け入れてくれる場合も多い」と話す。

 同教授によれば、日本の遠隔医療は他の先進国に比べて遅れているという。シスコは、「HealthPresenceが、遠隔医療システムの導入を促進する起爆剤にできれば」と強調した。

“つながる医療”の実現へ

 シスコは、“つながる医療”をコンセプトに、医用画像管理、遠隔医療/相談、医療業務の効率化、救急/災害医療の視点から、医療機関向けにソフトウェアプラットフォームを提供してきた。今回新版を発表したCisco HealthPresence 2.5もその1つだ。基本的には、医療機器ベンダーや医療向けシステムプロバイダとパートナーシップを組んで、“トータルソリューション”としてプラットフォームを提供する。先述した聴診器の例は、Cisco HealthPresence 2.5と、スリーエム ヘルスケアの電子聴診器を組み合わせたものだ。他にも、ナースコールシステムを手掛けるケアコムとパートナーシップを組み、ナースコールをスマートフォンで受信したり、ナースコールの受信とともに呼び出した患者の心拍や血圧をリアルタイムで表示したりできるシステムなども提供している。

シスコがケアコムと組んで提供しているナースコールシステム。患者からナースコールを受信すると、その患者のバイタルサインがリアルタイムで表示される(左)。患者の病室に行く前にある程度の状態を把握できるという。右は、ナースコールを看護師のスマートフォンで受けているようす。病院内の無線LANを利用し、スマートフォンをIP電話として機能させている(クリックで拡大)

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