口ベタな人こそ身に付けたいコーチング【その1】レイコ先生の「明日から使える! コミュニケーションスキル」(1)(1/3 ページ)

「コミュニケーションスキル? フッ、僕には不必要かな」なんて言えば、「オダマリ!!」とレイコ先生にキツくしかられます。キビシイけど、ちょっとさびしがり屋なレイコ先生と、コミュニケーションについて学んでいきましょう。

» 2014年03月14日 10時40分 公開
[小山新太/MPA所属 中小企業診断士,MONOist]

本連載の登場人物

カ

小山田和成(オヤマダカズナリ)

中小ソフトウェアメーカーに勤務するエンジニア。入社8年目の30歳。技術力においては社内から一目置かれる存在で今年から係長に昇格。しかし、奥手な性格でコミュニケーションは苦手。通称「カズ君」。

レ

杉本麗子(スギモト レイコ)

外資系ソフトウェアメーカーにて人事部長を歴任。その後、中小企業診断士を取得して独立。現在は、「ツンデレ」キャラを生かして売れっ子の人事コンサルタントとして活躍中。通称「レイコ先生」。


*編集部注:本記事はフィクションです。実在の人物団体などとは一切関係ありません。


 「エンジニアは技術力で勝負するもの!」コミュニケーションに対して苦手意識を持っているエンジニアこそ、このような考え方を持っているのではないでしょうか。確かに、技術力はエンジニアにとってコアスキルといえるでしょう。しかし、優れた技術力を生かしてエンジニアとして大きくステップアップするためにはコミュニケーション力が欠かせません。本連載では、レイコ先生とカズ君と一緒に、明日から使えるコミュニケーションスキルを学習していきます。本連載を通じて、一人でも多くのエンジニアの可能性が広がれば、この上ありません。

カ

は〜。係長に昇格したのはうれしかったけど、4月に入ってくる新入社員の教育係を任されてしまった。気が重い……。レイコ先生、私はどうしたらよいのでしょうか?


レ

あらあら、そんな深刻な顔しちゃって、目も当てられないわね。何をそんなに不安に感じているのか教えてちょうだい。


カ

えーと……。まず、これまでの人生でリーダーなんて経験したことがないので、どうやって新入社員を指導すれば良いのか分かりません。後は、技術的なことは教えられても、自分の専門じゃないことを教える自信もありません。


レ

カズ君の不安の正体は分かったわ。それにしてもカズ君が人を育てる立場になるとはね。感慨深いわ〜。あらいけない、感傷にひたっている暇はないわね。カズ君、これからはコーチングを知っていないとダメよ。今日は、コーチングについて教えてあげるわね。


カ

コーチングですか……、別にスポーツを教えるわけではないんですが。


レ

オダマリ!! ツベコベ言わない!!


カ

ヒィィッ!


レ

確かにコーチングというとスポーツの世界をイメージしてしまうけど、コーチングは今やビジネス世界でも重要なスキルといわれているわ。特に、これからの時代にはなおさらね。それでは、まず「なぜコーチングが必要なのか」を説明するわね。


答えのない時代のコミュニケーションとは?

 「現在と過去を比較した時に仕事をする上で最も変わったことは何ですか?」と聞かれたら、読者の皆さんは何と答えますか? 答えはいろいろとあると思いますが、筆者は「スピード」だと考えています。

 ビジネスにおける環境変化のスピードはますます速くなっています。環境変化が速いということは、ビジネスでの成功パターン(答え)が変化するスピードも速いということです。ある環境で通用していた答えが、環境が変わったことによって通用しなくなる。当たり前のようですが、ビジネスの現場で働く人たちにとっては切実な問題です。

 例えば、「製品の品質はある程度でよいからコストを下げてくれ」と言っていたお客さんがいたとします。担当者は、コスト削減のための方法を考えて1カ月後に解決策を提案しに行ったら、今度は「コストをかけても品質の高い製品を作りたい」と言われてしまいました。

 こんな状態に直面したらいかがでしょうか。「言っていることが違うじゃないか!」と思わずボヤいてしまうのではないでしょうか。1カ月という期間は大げさですが、今まで通用していたことが通用しなくなってしまったという経験をした人は多いはずです。今の時代はまさに「答えがない時代」なのです。

 これまでは、環境変化がそれほど激しくなく、ビジネスサイクルも比較的長期でした。そのような時代は、答えが決まっており、ある程度計画通りに物事が進むことが多かったでしょう。そうした環境下で成果を上げるためには、上意下達で指示・命令が下される統率型の組織が適していました。統率型組織で、管理者に求められる役割は、答えを指示して、忠実に実行するようにチェックしていくことです。そのため、上司と部下のコミュニケーションにおいて指示・命令という形が主流でした。

 しかし答えのない今の時代では、このような指示・命令型のコミュニケーションは通用しなくなりつつあります。なぜなら管理者自身も指示する「答え」が分からないからです。できることといえば、それまで自分が答えだと思っていたことをかたくなに信じ続けることか、答えを出すことを放棄して「なるようになる!」とギャンブル的な決断をすることぐらいです。

 それでは、答えはなくなってしまったのでしょう? いいえ、答えはなくなってはいません。絶えず変化し続けてはいますが、答えは常に現場にあるのです。そのため、組織としても現場から答えを吸い上げ迅速に対応していくことが求められています。いわば、答えを求めて常に学習し続けることが必要とされているのです。

 今後は、現場から答えを吸い上げる役割が管理者にますます求められていくでしょう。現場から答えを吸い上げることは指示・命令型のコミュニケーションではできません。現場から答えを引き出す質問型コミュニケーションが必要となってくるのです。そして、この質問型コミュニケーションを実践するために役立つのがコーチングなのです。

レ

どう、コーチングがいかにこれから大切なスキルになっていくかが分かったかしら?


カ

はい。答えがない時代……。何かすごく不安です。相手から答えを引き出すことなんて、僕にできるかどうか。


レ

相変わらずコミュニケーションのことになると暗い表情になるのね。大丈夫、カズ君にもきっとできるわ!それじゃあ、次にコーチングの基本概念について説明するわね。


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