プラズマパネル生産工程に潜む“不良因子”を探せ――LGのビッグデータ活用モノづくり最前線レポート

SAS Institute Japanが開催したイベント「Analytics 2014 SAS FORUM JAPAN」で韓国LG電子がビッグデータ分析を活用したプラズマディスプレイパネル(PDP)の品質改善の取り組みを紹介した。

» 2014年04月14日 12時00分 公開
[三島一孝,MONOist]
sas

 2014年4月10日に開催されたSAS Institute Japanのイベント「Analytics 2014 SAS FORUM JAPAN」で、「LG電子における品質改善への取り組み事例〜安定した工程品質を目指すための潜在的要素の発見と改善」をテーマに、韓国LG電子がビッグデータ分析を活用したプラズマディスプレイパネル(PDP)の品質改善への取り組みについて紹介した。

 LG電子は、パナソニックやサムスンSDIと長く競争を演じてきたPDPの主要企業だ。PDPの生産は装置中心で、生産性の改善や不良率の低減には、データを基にした改善活動が必須となる。同社では2010年からビッグデータ分析を活用した品質改善に取り組んできたという。

LG電子 PDPビジネスディビジョン PDPパネルテクノロジー部門 主席エンジニアのMoo Kang Song氏 LG電子 PDPビジネスディビジョン PDPパネルテクノロジー部門 主席エンジニアのMoo Kang Song氏

 LG電子 PDPビジネスディビジョン PDPパネルテクノロジー部門 主席エンジニアのMoo Kang Song氏は「2010年の段階で生産リードタイムは24時間以上かかっており、不良が発生した場合のデータ収集や分析には48時間かかる状況だった。品質問題の発生が事業全体のビジネスに大きな影響を与える状況になっていた」と語る。

 そこで、同社では“スマートファクトリー”化を目指し、仕事のやり方を変えるとともに新たな基盤システムの構築に取り組み始めたという。その中で統計的な手法によるデータ分析の活用に本格的に取り組み始めた。

 Song氏は「“現象”に対しそれに対する動きを示す“データ(数字)”を記録することができれば、それを集めれば“情報”になる。さらにそれを蓄積し意味がある形に読み解くことができれば“知識”となる」と語る。同社では、約10年前からシックスシグマの手法を取り入れているが、その観点で考えた場合「“現象”を“実際の問題”と捉え、まずそれを数値に置き換え“統計的問題”とする。それに対し“統計的解法”で解決策を見出だし“実際的な解法”を導く。これを蓄積すると“知識”になる」とSong氏は語っている。

2013年まで継続的に品質管理対策を推進

 PDPの新たな品質管理システムは2010年に開始。2010年は基盤面を最適化することを目指した「Lot ID Tracking」を開始した。基盤面上に配置された1つのセルレベルで、特性や信頼性を把握するために各工程における特性データを取得し、解析することでどの工程でどのセルが不良になったか、というのが分かるようになった。

PDPの品質管理システムの歴史 LG電子によるPDPの品質管理しステムの歴史(クリックで拡大)

 2011年には早期警戒システム(Early Warning System)を用意。プロセスデータの異常値を探知し自動で警報を発信する「FDC(Fault Detection and Classification)」や、致命的な事象が発生した時に人が介在せずに自動で製造機械を制御する「R2R(Run to Run)」などのシステムを稼働させた。

 さらに2012年には複数の機器やシステムから得られるデータをデータウェアハウスに一元的に収納し、それぞれのデータを照らし合わせて解析することで、致命的な事象を見つける「YMS(Yield Management System)」を稼働させた。これによりデータ分析に必要な時間は48時間から4時間まで低減できたという。2013年はこのYMSをそれぞれの機器やシステムに組み込み、データ分析などの知見がない人でも、自動的にさまざまなデータから不良が発見できるような体制構築を行ったという。

データのもたらす価値は潜在因子を見つけ出すこと

 これらのデータ活用の価値に一体どういうものがあるのだろうか。Song氏は「データを分析する価値は、今まで分からなかった潜在的な問題の因子を見つけられる点だ」と語る。

 データ分析を行うことで、今まで分からなかったような品質に影響を与える要因を発見できる。例えば、50型PDPラインの例では、空気圧が品質に大きな影響を与えていることが分かったという。潜在因子を見つけるには、品質に致命的な影響を与える要因から探る方法と、変動幅の大きな数値から見つける方法がある。変動が大きい因子を見つけ、その因子を変動させた際の影響への再現性を探る。さらに再現可能と判断できた場合に、その原因を探り、改善策を実行。そして最後にその結果を確認する、というのが一連の流れだ。

潜在因子 潜在因子の見つけ方(クリックで拡大)

 50型PDPラインの場合は、変動因子として空気圧と湿度という2つの要因が大きな変動因子となっていた。その後品質との関連性を調べた結果、湿度の影響度はなく、空気圧が低圧である時に不良が多く、高圧であれば安定した品質が出せるということに気付いた。さらに問題のあった時期から、その時期に節電のためエアーコンプレッサーの稼働を中断したことが分かった。そんため、空気圧が下がり不良が発生した、という大本の原因まで突き止めることができたという。その後、空気圧を高圧に保つことで不良率を大きく低減することができたという。

自動で問題を見つけるオートマイニング

 LG電子ではさらに、不良が起きた場合の対応スピードを高めるために「オートマイニング」により、早期対応が行えるようにした。同社では、不良率を低減させ、装置の稼働率を上げるためにさまざまな取り組みを行ってきたが、目標には到達出来ない状況が続いていた。その要因としてLG電子でオートマイニングを担当したBo Hyun Jung氏は、3つのポイントを挙げる。

Jung氏 LG電子でオートマイニングを担当したBo Hyun Jung氏

 「1つは不良に対するレスポンスが遅い点、2つ目は分析が的確でない可能性がある点、3つ目にちりの混入による不具合が高い点、があると考えた」とJung氏は語る。

 これらを解決するために、同社では3つの取り組みを2012年12月から2014年3月まで進めた。まず発生する不良の事象に対して名前を付け、どういう要因があればその不良が発生するのか、その特性はどういうものか、という点を名前で管理できるようにした。これらの管理された「不良」の評価付けを行い、ある一定スコア以上に達すれば、自動で「問題あり」と認識できるようにした。これらの分析した結果を責任者に毎朝メールで報告するようにし、可視化した。

 これらのことを行うことで「不良の事象とそれに関する数値、またその改善策などを一括で『知識』として管理できるようになった」とJung氏は話している。

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