必読3つの当たり前 〜オフショア開発とご近所付き合い〜山浦恒央の“くみこみ”な話(62)(1/3 ページ)

オフショア開発の主要な問題点を取り上げるシリーズ。最終回は「『当たり前』は本当に『当たり前』か」をテーマに、オフショア開発を成功に導く3つの秘訣を解説します。

» 2014年04月25日 10時00分 公開
[山浦恒央 東海大学 大学院 組込み技術研究科 准教授(工学博士),MONOist]
山浦恒央の“くみこみ”な話

 途中で番外編「技術翻訳のコツ」を挟み、オフショア開発とコミュニケーションの問題について紹介してきました。これまでに取り上げてきたのは、オフショア開発の主要な問題である、「文化の違い」「言語の壁」「異文化受容」「技術翻訳」です。

 今回は、「当たり前」は本当に「当たり前」かをテーマに、オフショア開発の成功の秘訣を解説します。




レストランでの「当たり前」

 海外出張で地元のレストランへ行くと、ソフトウェアのオフショア開発と同様、日本と外国の文化の違いを痛感するでしょう。例えば(1)味付けが違う、(2)メニューに写真がない、(3)テーブルマナーが違う、などです。

(1)味付けが違う

 経験した人も多いと思いますが、日本と同じ名前の料理を外国で注文すると、味が違うことがあります。味が濃かったり(ポルトガルでは、高級レストランへ行くほど塩辛くなると聞いたことがあります)、薄かったり、何か日本と違うと感じますね。

(2)メニューに写真がない

 外国のレストランでは、大抵の場合、メニューに写真は載っていません。庶民的な店でさえ、食材と料理法を書いた「文字だけメニュー」しかありません。日本では、高級なフレンチ、イタリアン、中華、和食を除いて、レストランのメニューには写真が満載です。もっとスゴイと、例えば、百貨店の最上階のレストランのように、フォークがスパゲッティに絡みついた「実物見本」がショーケースに飾ってあったりします(※1)。

(※1)海外では食品サンプルが非常に珍しいので、調理器具を売る店が密集する東京・上野のかっぱ橋道具街では、食品見本をお土産に買う海外の観光客が多いそうです。「料理の実物の見本がある」ことは、ソフトウェア開発で最も重要かつ困難な「要求仕様定義」の観点で理想的といえます。

 日本のファミリーレストランは食材よりも写真が中心で、メニューは、食品撮影のプロカメラマンが撮った美味しそうな写真で埋め尽くしてあります。筆者がギリシャの料理屋に行った際、本日のスペシャリテとして、「カラマリ」というイカ料理を薦められたのですが、どんな料理か見当がつかず、写真があればすぐに分かるのにと思ったことがあります(ちなみに、カラマリは、イカをブツ切りにしたフライで、日本人の舌にピタリ合うと思います)。

(3)テーブルマナーが違う

 日本のレストランでは、ズルズルと音を立ててスープを飲んでも、誰も奇異に思いませんが、西洋式のテーブルマナーではマナー違反に当たります。

 現在パリでは、1時間待ちの行列ができるほど、日本のラーメンが大人気です。フランス駐在の知人が、「僕の友人のフランス人が、猫舌なんだけれど、熱いラーメンを音がしないように食ってて、何だか気の毒だったよ」と言っていました(ズルッと音を立てて麺を食うには技術が必要で、慣れていないと、スープが気管に入ってしまいます)。

 日本では茶碗やみそ汁のお椀を手で持たずに食べると、「行儀が悪い」と親から注意されます。海外では、食器を手で持つことがテーブルマナー違反になるところが少なくありません。筆者がサンフランシスコのレストランで右手にナイフ、左手にフォーク使って食べようとしたら、隣の友人に「左手にナイフ、右手にフォークだよ」と小声で言われました。アジア地域ではご飯を素手で食べるのが一般的な国もあります。テーブルマナー(※2)はその国の文化背景よって違います。

(※2)テーブルマナーとは、「そのしぐさを見て、他人が不快に思わない、優雅な」食べ方です。高級レストランにTシャツとカットオフのジーンズ、しかも手づかみで食べている……。極端な例ですが、これが誰から見ても分かるテーブルマナー違反です。ある意味、自分のソースコードを他人が読むことを考慮し、他人の読みやすさに主眼に置くコーディングマナーに似ています。

 (1)〜(3)について外国人に聞いてみると、全員が口をそろえて「それが当たり前だからね。日本じゃ違うなんて考えたこともなかったよ」と言います。当たり前過ぎて自分の文化に疑問を持たないのでしょうね。

 オフショア開発の成功の秘訣は「当り前」という文化的要因を越えられるかどうかにあります。刺身を食べているときに、外国人から「なぜ、日本人は生で魚を食べるんだ?」と聞かれて、きちんと理由を説明できるでしょうか? 筆者は、「昔からそれが当たり前だったので……」とか、「美味しいから……」としか答えられません。文化の違いはオフショア開発最大の問題で、これをお互いに理解し合えるかが成功の鍵となります。

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