「カリフォルニアT」でも貫き通す“フェラーリらしさ”とはフェラーリCEO アメデオ・フェリーザ氏 インタビュー(1/2 ページ)

フェラーリの市販車部門は、週末にサーキットで走りを楽しむようなスーパー・スポーツカーの他に、日常的に乗用できる「GTカー」をラインアップしている。同社CEOのアメデオ・フェリーザ氏に、GTカーの最新モデルである「カリフォルニアT」や、Apple(アップル)の「CarPlay」を採用した経緯などについて聞いた。

» 2014年05月08日 10時00分 公開
[川端由美,MONOist]
フェラーリCEOのアメデオ・フェリーザ氏

 Ferrari(フェラーリ)という企業は、自動車メーカーのようであって、自動車メーカーのようではない。自動車こそ作ってはいるが、そのビジネスモデルは通常の自動車メーカーとは少々異なるからだ。今でこそ、レース部門と市販車部門は、それぞれ独立して運営されているが、彼らのもともとの目的は車両の生産や販売ではなく、フォーミュラ1(F1)という究極のレースで勝つことだからだ。

 同社は、F1レースでの度重なる勝利と、世界中で通用する強いブランド力を背景に、レース部門だけでも十分な黒字を保っている。一方の市販車部門は、レースでの実績と技術力を背景に、究極のテクノロジーを市販車に落とし込みながら、年産数千台という限られた顧客に向けてのクルマ作りを続けている。

 “究極”を目指していることもあって、12気筒エンジンを積む究極のスーパー・スポーツカーばかりを市販車としてラインアップしていたが、1970年代に“最廉価”のV型8気筒(V8)エンジン搭載モデルが加わり、後に同社の市販車部門の中核を担うようになった。

 そのV8モデルの中でも、近年めきめきと売り上げを伸ばしているのが、フェラーリのエントリーモデルに位置付けられる「カリフォルニア」だ。2014年3月開催の「ジュネーブモーターショー2014」では、エンジンの刷新を含む大幅な変更を6年ぶりに受けた「カリフォルニアT」への進化を発表している(関連記事:フェラーリが「カリフォルニアT」を日本初公開、「F40」以来のターボを搭載)。同社CEOを務めるAmedeo Felisa(アメデオ・フェリーザ)氏に、このカリフォルニアTや、「FF」への搭載が決まったApple(アップル)の「CarPlay」採用の経緯について聞いた。

「GTカー」として開発された「カリフォルニア」

フェラーリCEOのアメデオ・フェリーザ氏 アメデオ・フェリーザ 1946年イタリア・ミラノ生まれ。ミラノ工業大学で機械工学を学び、1972年にAlfa Romeo(アルファ・ロメオ)入社。開発部門を経た後、1987年に生産開発部門責任者に就任し、1990年にフェラーリに入社。2001年7月からグランツーリズモ部を統括し、2004年6月にはグランツーリズモ部の部長とともに副総務部長を兼任。2006年の総務部長を経て、2008年からジャン・トッド氏に代わってCEOに就任。現在に至る

 1987年にフェラーリが40周年を記念して発売した限定モデルの「F40」を除けば、カリフォルニアTは同社初のターボ付きエンジンの搭載車である。

「ご指摘の通り、F40で初めてターボチャージャーを採用しました。採用理由は、1980年代後半のトップパフォーマンスカーとして出力を最大限に引き上げるというものでした。今回、カリフォルニアTに採用したターボとは、性格も目的もまったく異なります」(フェリーザ氏)。

 実は、フェラーリが乗用を強く意識した「GTカー」として、2008年にカリフォルニアを発売した当時、メディアは賛否両論だった。しかし、結果として大変成功したモデルになった。その秘訣をフェリーザ氏に問うと、回答は以下のようなものだった。

「私たちは、顧客に対する知識の蓄積があり、フェラーリのクルマを購入する理由をよく存じ上げています。モデルごとに多少の性格の違いはあっても、核となる“ハート”の部分は変えていません。最高のパフォーマンスを与えて、フェラーリらしい情熱的なドライビングスタイルや、心躍るエンジンサウンドといった“フェラーリらしさ”は変えていません。ある種の情熱を貫いているとも言えます」(フェリーザ氏)。

「ジュネーブモーターショー2014」でアンベールされる「カリフォルニアT」(クリックで拡大)

 簡単に整理すると、これまで12気筒エンジンを積んだ「F12」と、V8エンジンを積んだ「458イタリア」という従来のフェラーリらしいスポーツカーのラインアップはそのまま残し、新たに12気筒エンジン搭載の「FF(フェラーリ・フォー)」とV8エンジン搭載のカリフォルニアという新しいGTカーのラインアップを構築した形だ。

「従来のV8モデルは、週末にサーキットで走らせて楽しむような目的のために設計されており、走行性能を追求したものでした。それに対してカリフォルニアは、日常的に乗れるスポーツカー、つまりGTカーとして開発されました。その結果、カリフォルニアは多くの新たな顧客を獲得しました。カリフォルニアのユーザーのうち、70%以上がフェラーリにとって新しい顧客なのです。例えば、30年ほど前、フェラーリの顧客たちは週末に本社に併設されたマラネロにあるサーキットまで来て、サーキット走行を楽しむような人たちがほとんどでした。しかし現在では、日々の生活の中でクルマのスポーティネスを楽しむ人が増えています。GTカテゴリーに望まれる利便性は高めつつ、走らせる楽しさはあくまでフェラーリらしいものとしています。フェラーリは、他とは違う、より素晴らしいものを常にクルマに搭載することを貫いてきました。その点は、従来のスーパー・スポーツカーでも、最近加わったGTカーでも変わりません」(フェリーザ氏)。

ターボの採用はある種の挑戦

「カリフォルニアT」のエンジンルーム 「カリフォルニアT」のエンジンルーム(クリックで拡大)
「カリフォルニアT」のターボ付きV8エンジン 「カリフォルニアT」のターボ付きV8エンジン(クリックで拡大)

 では、大幅な変更を受けて「カリフォルニアT」へと進化させるにあたって、何を変えず、そして何を変えたのだろうか。

「ターボの採用は、ある種の挑戦でした。ターボを取り入れて、エミッション(排気ガスの排出量)を下げつつも、応答性、エンジン音や排気音、走行性能やハンドリング、トルク特性などは変えたくありませんでした。今回採用したツインスクロールターボは、低回転域から大きなトルクが確保できます。異なるシリンダーからの排気を2つのルートでターボに回せるので、それぞれのシリンダーから等間隔の脈動がタービンブレードを絶え間なく回して、効率が良く高い加給圧を保っています。ツインスクロールターボとフラットプレーンクランクシャフトを採用したのは、カリフォルニアTが世界初でしょう。フラットプレーンクランクシャフトは、エンジンサウンドによい影響を及ぼしますが、車両に加わる振動の制御が難しいとされています。その点フェラーリでは、伝統的にこのクランクシャフトをレースで採用しており、技術やノウハウの蓄積があります」(フェリーザ氏)。

 フェラーリは、加速性能、走行性能、エンジンサウンド、高い応答性といったフェラーリらしさに加えて、利便性や快適性の高さも、従来のカリフォルニアから受け継いだとしている。それでいて、新開発のカリフォルニアTでは、ターボによる過給で、エンジンの排気量を従来の4.3l(リットル)から3.9lにダウンサイジングして、CO2排出量を250g/kmと大幅に減らしつつ、最高出力は560ps(412kW)へと向上させた。ここでも、フェラーリらしい「ハートは変えない」というフェリーザ氏の言葉が反すうされている。

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