ベテラン設計者の“頭の中”を組み込む、図研のプッシュ型ナレッジ管理ツール医療機器開発の効率を上げるコツ

医療機器を開発する上で重要になるのが、部品や規約に関する情報など、いわゆるナレッジと呼ばれるものだ。膨大な量のナレッジを共有するのは難しく、設計や製造で不具合が起こる原因の1つにもなっている。ナレッジ共有のための新しいシステムを手掛けているのが図研だ。

» 2014年06月06日 10時14分 公開
[村尾麻悠子,MONOist]

 「製造業では、技術情報の共有に関して“機能不全”が起きている」。図研 新事業開発プロジェクトでプロジェクトリーダーを務める正野公昭氏は、「MEDTEC Japan 2014」(2014年4月9〜11日)で開催した同社のセミナーにおいて、このように切り出した。

 「さまざまな製品メーカー/機器メーカーと話す機会があるが、CADやPDMなど設計ツールの進化で作業効率は上がったが、“どうやってモノを作るか”というノウハウの部分が弱くなってきている、という声をよく聞く」(同氏)。独立行政法人 製品評価技術基盤機構(NITE)によれば、製品に起因する事故の約半数は、設計/製造および表示によるものだという。このうち、設計や製造にかかわるものは、設計する際の注意事項といった情報をきちんと共有していれば防げることも少なくない。

「MEDTEC Japan 2014」のセミナー会場で講演する正野公昭氏

 もちろん、こうした情報(ナレッジ)を共有し、活用するためのツールは存在する。ナレッジデータベースや全文検索ツールなどだ。ただし、それぞれメリットとデメリットがある。ナレッジデータベースは、ナレッジの鮮度や精度は高いものの、システムの構築や維持に多大な費用がかかる。一方で全文検索ツールは、安価に構築できるが運用が個人任せになってしまう。

 これら既存ツールのメリットを組み合わせるべく図研が開発した製品が、ナレッジ活用ツール「Knowledge Explorer」である。2014年2月にリリースされたもので、価格は1000万円(税別)。Knowledge Explorerの特長の1つが“プッシュ型”という点だ。正野氏は「これまでにない新しいアプローチ」として、“図研式アプローチ”と呼ぶ。プッシュ型とは、ユーザーが意識的に検索しなくても、必要な情報を必要なタイミングで画面上に表示させる仕組みを指す。

「Knowledge Explorer」のロゴマーク 出典:図研

 熟練の設計者は、「この部品を使うときは、この文書を見ればいい」「素材の剛性はこのデータシートを見れば分かる」というように、社内外のどの文書/資料をどこで参照すればいいのかを把握している。だが、経験の浅い設計者が、熟練の設計者とそのようなノウハウを共有するのは現実的に難しい。正野氏は「従来のナレッジ共有の方法は、OJT(On the Job Training)を通してなど人から人へ伝承するスタイルが多く、時間がない、若手がすぐやめてしまって結局ノウハウが伝わらないといった問題が多い」と述べている。

 Knowledge Explorerでは、WordやExcelなどのMicrosoft Office文書、PDF文書、HTMLなどをあらかじめナレッジソースとして登録し、検索条件(キーワードなど)を設定しておく。その条件に合致すると自動的にドキュメントを検索し、プッシュ通知される。ドキュメントは、社内の共有フォルダ、イントラネット/インターネット上のWebサイトから探してくる。

 プッシュ通知は「ナレッジマーク」と呼ばれ、重要度が違う2種類を用意した。「必ず閲覧してほしいもの」と「必要なら閲覧してほしいもの」である。正野氏は、「通知が多すぎると煩わしくなるので、重要度を考慮して通知のレベルを分けた」と説明する。

Knowledge Explorerの画面の一例。画面上部に赤く出ているビックリマークがプッシュ通知だ(クリックで拡大) 出典:図研

 例えば、過去に剛性不足が見つかった特定部品を新製品の設計に組み込む場合、この部品を利用する際の注意事項や、代替可能な類似部品に関するドキュメントなどを参照する必要がある。Knowledge Explorerを導入していれば、同部品に関連した操作をする際に、事前に設定した条件に従って、同部品が関係した過去の剛性不足による製品故障事例など、適切なナレッジをプッシュ表示してくれる。「必要なナレッジを参照していない場合に部品の入れ替え作業をさせない」といった不適切な作業プロセスの抑止も可能だとしている。

Knowledge Explorerが引き当てた文書の一例。コネクタの不具合が報告されている(クリックで拡大) 出典:図研

ベテラン設計者の“頭の中”を組み込む

 Knowledge Explorerは、ベテラン設計者の頭の中だけに蓄積されてきたノウハウをナレッジとして組み込み、若手や経験の浅い設計者でもすぐに引き出すことを狙ったツールだ。「とにかく時間がなくて、OJTもままならないという現状にフィットするようなツールの開発を目指した」(正野氏)。

 Knowledge Explorerは、PLMシステム「PreSight」の「visual BOM」「BOM Producer」のオプション機能として提供されている。将来的にはCADとの連携も図っていく予定だ。

 なお、図研は2014年6月25〜27日まで東京ビッグサイトで開催される「第25回 設計・製造ソリューション(DMS)展」に出展する。そこでもKnowledge Explorerを紹介する他、正野氏が「甦れジャパンクオリティ 〜PUSH型ナレッジが変えるモノづくり〜」と題した講演を行う予定となっている。

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