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» 2014年06月11日 11時00分 公開

サラリーマンしながら、起業家マインドを身に付けようマイクロモノづくり概論【人づくり編】(3)(2/2 ページ)

[三木康司/enmono,MONOist]
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コワーキングスペースの効果

 大手メーカーも、そのような“イノベーション不活性状態”に手をこまねいているだけではなく、起業家や、フリーランサーと積極的にコミュニケーションを取ることで、イノベーションの萌芽を生み出そうとする動きもある。

 2014年4月16日、大手企業に属する個人とベンチャーが出会える新しいコンセプトのコワーキングスペース「Clipニホンバシ」がオープンした。日本橋再生計画である「COREDO室町1〜3」で注目を集める日本橋エリアに位置し、周囲には三越をはじめとした老舗企業が集っている。

ClipニホンバシHPより

 これまでのコワーキングスペースといえば、フリーランスデザイナーやベンチャー、ソーシャル系のNPOのメンバーなどが集う場所というイメージがあった。Clipニホンバシは、さらに大手企業のサラリーマンも対象にして集客していることが特徴だ。

 大手企業のサラリーマンは、Clipニホンバシで開催されるピッチイベント(ベンチャーが事業資金を募るプレゼンイベント)を通じて、新規事業のアイデアを得たり、あるいはベンチャーと連携したりすることで、そのイノベーションの種を社内に持ち込むことが可能だ。

 一方、ピッチイベントに参加するクリエイターやベンチャーは、大手企業との連携が可能になる。自社製品を大手企業と連携することで新規事業を構築したり、販路開拓の機会が得られる。

 筆者もClipニホンバシのピッチイベントでプレゼン(ピッチ)し、その後の交流会に参加したが、参加者の3分の1くらいが大手企業に所属する30〜40代サラリーマン、OLだったように感じられた。また「新規事業開発室」といった、新規事業を担当するような部署の方が目立った。

 ちなみに、このイベントの数日後に、「Clipニホンバシ」の担当者から、筆者のプレゼンに対する聴衆からの評価や、「コラボレーションを希望するか」などが書かれた資料が届いた。現在この資料を基に、企業とのコラボレーションができるか検討中である。

2014年4月16日にClipニホンバシがグランドオープンした際、当社の「zenmono」についてプレゼン(筆者)

大手企業に所属しつつ、起業家マインドを身に付けよ

 新たな事業のタネになりそうな知見を持つベンチャー企業と組んで、企業内にイノベーションを起こすことも十分可能だろう。実際、大手企業の社員自身が、起業家的なマインドを持ち、イノベーションを起こす可能性を発掘しようとしている事例がある。

 「チーム・0→1(チーム・ゼロイチ)」は、企業に在籍しながら「ゼロから事業を起ち上げるチカラ」を起業体験を通して身に付けようという、サラリーマン向けワークショップだ。「スタートアップ44田寮(よしだりょう)」という起業家育成コワーキングスペースを運営する赤木優理氏が主催する。

 大手企業の中でイノベーションを起こしづらいといわれている理由について、赤木氏はこう語る。「高度経済成長期以降、大手企業の中では『持続的イノベーション』が行われてきたが、いま必要とされているのはそれとは全く異なる『非連続(破壊的)イノベーション』である。しかし社内では、それがほとんど理解されていない。また、現在の社内システム(稟議システムや人事評価など)が、かつての持続的イノベーションに高度に最適化しているため、現在求められている非連続イノベーションに全くそぐわない。この2つの原因を取り除くのは、大手企業の中ではほぼ不可能だ」。

UST番組で対談:(左)赤木氏、(右)筆者

 大手企業からの参加者は、ケーススタディではなく実際の起業体験からの「経験学習」によって、起業家としてのマインドとスキルを身に付けられ、その経験値を社内に持ち帰ることで大企業の中にイノベーションを起こそうという試みである。

 チーム・0→1のワークショックは土日に開催する。そこでは、起業家的な視点から新規事業の計画を策定し、実際に市場に製品をリリースし、ユーザーからのフィードバックを受け、サービスを改良するプロセスを何十回も行う。サービスの精度が上がり、お金を払ってもらえるユーザーが集まる段階にまで成長したチームは、勤務先の経営陣の前でプレゼンテーションし、資金調達を行う。あくまでケースバイケースだが、企業の中の新規事業として立ち上げるか、あるいは社内ベンチャーとして起業をさせることを目的としている。

真のイノベーションを起こすために

 日本の産業界はこの20年間、「イノベーションが大切だ! イノベーションが大切だ!」と言い続けてきた。それにもかかわらず、日本のメーカーが大胆なイノベーションを取り入れ、大胆な事業構成の組み換えを行い、世界市場で大攻勢に出ているとは言いがたい状況だ。果たして、日本の産業力が相対的に「強くなったのか、弱くなったのか」と問われれば、正直「弱くなった」といえるのではと筆者は思う。

 日本のメーカーは既存事業から得られる収益を確保しつつ、大胆な路線変更ができず、既存製品のモデルチェンジひたすら続けることでしか事業継続ができない、いわゆる「イノベーションのジレンマ」状態に陥っている状況だ。

 真のイノベーションを企業に取り込み、新事業とし育てていくためには、既存事業を破壊してまでも何かを生み出す、「退路を断つ」覚悟を持ちながら、積極的に社外のリソースを活用できるのかがポイントとなるであろう。そういう意味で、先に紹介したClipニホンバシや、チーム・0→1での取り組みのように、大企業の中にベンチャースピリッツを持つ人材を育成することが有効だと考える。

 同時に開発・製造・営業などの現場で生み出されたイノベーションも、組織として吸い上げて取り込んでいくための組織体制と運用の大改革も必要になるであろう。

 筆者の好きな言葉で「困った時が、学ぶとき」という言葉がある。この意味は、「人に与えられる試練は、自分が乗り越えられるものしか与えられない。試練の最中、他人から見ると困った状況に見えても、実は単に学んでいる状況なのだ」という意味である。日本の産業界は実は今、困っているのではなく、どうしたら、「イノベーション」というものを生み出し、それを企業組織の中でどのように活用するのかを「学ぶ」時なのかもしれない。

 日本の産業界が、今きちんと「学ぶ」ことができれば、1980年代を超える日本のメーカーの大躍進も可能だ。その一役に大企業の中での「マイクロモノづくり」活動が貢献できればと考えている。

Profile

三木 康司(みき こうじ)

1968年生まれ。enmono 代表取締役。「マイクロモノづくり」の提唱者、啓蒙家。大学卒業後、富士通に入社、その後インターネットを活用した経営を学ぶため、慶應義塾大学に進学(藤沢キャンパス)。博士課程の研究途中で、中小企業支援会社のNCネットワークと知り合い、日本における中小製造業支援の必要性を強烈に感じ同社へ入社。同社にて技術担当役員を務めた後、2010年11月、「マイクロモノづくり」のコンセプトを広めるためenmonoを創業。

「マイクロモノづくり」の啓蒙活動を通じ、最終製品に日本の町工場の持つ強みをどのように落とし込むのかということに注力し、日々活動中。インターネット創生期からWebを使った製造業を支援する活動も行ってきたWeb PRの専門家である。「大日本モノづくり党」(Facebook グループ)党首。

Twitterアカウント:@mikikouj

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