迫る破綻のカウントダウン! その時、企業再生のプロはこうやって企業を再生する再生請負人が見る製造業(1)(1/3 ページ)

グローバル競争が過熱する中、製造業でも競争に敗れ苦境に立たされる企業は数多い。毎年のように企業決算で叫ばれる「構造改革」や「経営再建」の舞台裏は果たしてどうなっているのか。ゼネラルモータースや日本航空、ライブドアなど多くの企業再生を手掛けてきた企業再生のプロであるアリックスパートナーズが、各業界の状況について解説する。初回となる今回は企業再生の手法について紹介する。

» 2014年06月18日 11時00分 公開

 為替の改善など経済政策の効果により、企業を取り巻く環境は改善してきたとはいえ、製造業を取り巻く環境は厳しい状況が続いている。企業決算の度に「構造改革」や「経営再建」が叫ばれ、事業閉鎖や事業売却、人員削減などが進められている。業界によっては「構造不況」などが指摘される中、破綻する企業にはどういう特徴があるのだろうか。また、破綻を避けるにはどういう基準でどういう判断を下していかなければならないのだろうか。

 ゼネラルモータースや日本航空、ライブドアなど多くの企業再生を手掛けてきた企業再生のプロであるアリックスパートナーズが、企業再生の手法、製造業各業界の状況について解説する。初回となる今回は企業再生の手法について紹介する。




日本の製造業を取り巻く事業環境

 今、グローバルで展開する多くの企業は、効率化とさらなる成長を求めた圧力にさらされている。世界的な資金余剰の高まりにより、資金の流れが急速に変化する状況の中で、企業を取り巻く事業環境は、ボラタイル(変動しやすい)な状況となっている。この環境下で変化への対応を誤ると、即座に破綻につながりかねないリスクがある。企業はこの高まるリスクに常に向き合っていかなければならないというわけだ。

 このような環境下で日本の製造業はどういう課題に直面しているのだろうか。またどうやって企業再生を果たしていくべきなのだろうか。多くの企業再生を手掛けてきたわれわれの経験から、日本の製造業の直面する課題に具体的に述べてみたい。

再生請負人が見た製造業が抱える課題

 多くの日本の製造業は、以下の3つのテーマへの対応を迫られている。

  1. 国内事業のさらなる効率性の改善
  2. 海外への事業展開の推進による成長機会の獲得
  3. グローバルで一体化した事業運営体制の構築

 「国内事業のさらなる効率性の改善」については、日本市場が今後成長を遂げていく分野は限られていることによる。安定した収益を国内事業で上げていくためには、継続的な効率性改善への取り組みが欠かせない。

 「海外への事業展開の推進による成長機会の獲得」については、最初のテーマとも関係するが、成長を続けるには海外という要素が欠かせないことが背景にある。主な目的については、低コストの製造体制の確立と、海外市場への参入という2つがあると考えられる。

 「グローバルで一体化した事業運営体制の構築」については、顧客が調達も含めた事業のグローバル化を推進するのに伴い、そのサプライヤーもグローバル規模で共通の製品を均一の価格とサービスで提供することが求められている。そのためには、日本の本社とグローバル拠点が強い連携により一体となって運営される必要がある。

 少なくとも日本の製造業の多くがこれらの3つのテーマに積極的に取り組んでいるように見える。しかし、われわれから見れば、国内における効率化は、多くの企業において、人件費を除いた取り組みに終始し、抜本的な改革にはほど遠いと言わざるを得ない。また、海外拠点や買収企業との連携強化についても、業績の即時把握すらおぼつかないなど、不十分なところが多い。特に海外拠点については、どうしても現地経営陣への依存度が高くなり、結果として事業の「見える化」が進んでいないところが多く見受けられる。

 最終的にこれらの企業の経営陣は、実態把握が遅れ、危機意識が欠如したまま状況が悪化していく状況に陥る。このようなケースでは、企業として危機的状況に陥っているにもかかわらず、その経営陣は甘い自己認識から抜け切れず、改革の打ち手が遅れてしまいがちである。結果として、気づいた時には破綻間際の状況で打てる施策も限られ、加速度的に業績が悪化する「負のスパイラル」に陥るのである。

危ない企業に見られる「破綻の症状」

 企業再生を行うわれわれのところには、企業経営者の他に、金融機関や株主から業績不振企業について相談を持ち込まれるケースも多い。これらの相談案件の共通の症状として、事業計画に対し数年間も未達のままであるにも拘らず、経営陣が明確な打開策を金融機関や株主に提示できないでいることが多い。

 このような企業は破綻に向けたカウントダウンが確実に進んでいる。社外のステークホルダーから見ればかなり深刻な事態に陥っているにもかかわらず、当の経営陣はその状況を認識していないからである。さらに、そのような経営陣は、実現の見込みが低い事業計画をステークホルダーに提示し続け、結果として彼らとの信頼関係を壊していることに気付いていないのである。結果として、業績不振が継続する中でステークホルダーから必要な支援を受けられないということになる。最終的に、経営陣が退陣を迫られるか、実際に破綻に至るかだ。

 企業の破綻へのプロセスは、人間の病状に例えられることが多い。病気を治すにはまず病巣が何であるかを発見しなければならない。自己でしっかり健康管理できている場合であれば大丈夫だが、不摂生な患者ほど「大丈夫、大丈夫」と甘い見通しの中で、思い当たる症例に目をつぶり、病巣が何か分からないまま、症状を大きく悪化させてしまう。そして病状が急速に進行し、医者に駆け込んだ時には「もう手遅れ」となり、命を賭けた大手術に挑まなければならなくなる。

 企業再生も同じである。日頃から経営陣が厳しい目で自己認識をしていれば、問題があった場合に気付き修正することができる。しかし、経営危機に陥る多くの企業は経営者の自己認識が甘い場合が多い。結果として必要な打ち手が後手に回る。破綻のリスクは末期になるに連れて急速に進行していく。初期段階であれば、多くの打ち手を取れるにもかかわらず、気付いた頃には法的・私的整理といった抜本的な外科手術が避けられないという状況になる。

 しかし、企業にとっての抜本的再生とリストラクチャリングには、大きなコストが発生する。結果として、それまで築き上げてきた社会的信用や、重要な顧客・優秀な従業員など、多くのものを失うことになる。(図1)。

業績不振企業が破綻に陥るプロセス 図1:業績不振企業が加速度的に破綻に陥るプロセス(クリックで拡大)
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