電力平準化や課金を意識して策定された欧州のEV用充電規格「コンボ」EV用充電器の通信規格ISO/IEC 15118とは(前編)(1/2 ページ)

欧州や北米の自動車メーカーが中心になって規格策定を進めている、普通充電と急速充電を1つのコネクタで行える「Combined Charging System(コンボ)」。欧州向けコンボでは、電気自動車と充電器の間をつなぐ通信プロトコルとしてISO/IEC 15118を使用している。本稿では、このISO/IEC 15118について解説する。

» 2014年07月02日 11時30分 公開
EV用充電器の通信規格ISO/IEC 15118とは

 近年、環境志向の高まりを受けて、さまざまな電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)が市場に投入されています。EV/PHEVの普及に向けた課題の1つとして、充電システムやその通信方式の標準化が挙げられます。充電システムは、全世界で統一されれば理想的ですが、各国/地域で電力の供給方式や体制、供給システム、主要な充電方法に関する考え方や文化などの違いがあるため、充電システムに求められる要件は各地域で異なると考えられます。そのような理由から、日本、中国、欧州/北米の各国/地域で、急速充電器を中心に異なる充電システムの標準規格の策定が進んでいます。

 日本では、急速充電用の規格である「CHAdeMO(チャデモ)」がJISの標準仕様(TS D0007)として標準化され、既に対応する車両や充電器が広く普及しています。また、海外もチャデモ準拠の急速充電器の設置が進んでおり、欧州では1000基以上、北米では500基以上が設置済みです。中国ではGB規格が標準化されており、その通信プロトコルは物理層に自動車の制御系システムに用いられるCANを、上位層にCANを利用したオープンネットワークの1つであるトラック、バス、建設機械向けのSAE J1939をベースにした通信プロトコルを使用しています。

 これらに対して欧州と北米では、欧州や北米の自動車メーカー、電力会社が中心となって、普通充電と急速充電を1つのコネクタで行える「Combined Charging System(コンボ、CCSとも)」の標準化を進めています。本稿では、既に市場導入が始まっている欧州向けのコンボで、EV/PHEVと充電器の間をつなぐ通信プロトコルとして使用されているISO/IEC 15118の概要と策定状況、そのユースケースを紹介します。

各国/地域での充電方式 各国/地域での充電方式。欧州向けコンボの通信プロトコルがISO/IEC 15118である(クリックで拡大) CHAdeMOのコネクタとインレットの画像提供:矢崎総業

ISO/IEC 15118の概要

 ISO/IEC 15118の規格名は「Vehicle to Grid - Communication Interface(以下、V2G CI)」で、日本語に訳すと「電気自動車とグリッド(電力網)の通信インタフェース」になります。

 ISO/IEC 15118は車両と充電器の間の通信を対象としているので、この規格名はふさわしくないように思えるかもしれません。しかし、車両への充電を行う際には、電力の料金体系表や電力供給のスケジュールといった電力網側の情報を、充電スポットと車両間でやりとりすることもユースケースとして想定しています。このため、このような規格名になっているのです。

 V2G CIは、ISOの自動車の電気電子装置の仕様を決める運営委員会ISO/TC22/SC3とIECの電気自動車に関する技術委員会であるIEC/TC69の共同作業部会(JWG: Joint Working Group)において、国際標準規格として策定されています。2009年に設立されたこの作業部会は当初、普通充電に用いる交流(AC)の充電だけを対象に活動を開始しました。その後、急速充電に用いる直流(DC)充電も対象に追加され、現在は非接触充電の仕様策定も始めています。

 ドイツ国内では、ISO/IEC 15118のDC充電方式とほぼ同じ規格であるDIN70121が策定済みです。これは、ISO/IEC 15118のDC充電の規格策定が完了する前に、ドイツの自動車メーカーがドイツ国内でコンボを搭載するEVやPHEVを市販するために策定したものです。

 共同作業部会の活動形態は、物理層の通信技術やプロトコル、メッセージの規定、ユースケースの定義、セキュリティ、コンフォーマンステストなど7つのプロジェクトチーム(PT)に分かれています。

ISO/IEC 15118の共同作業部会の概要 ISO/IEC 15118ことV2G CIの共同作業部会の概要(クリックで拡大)

 ISO/IEC 15118は、将来的にEVやPHEVの市場占有率が高まった場合に、ロードマネジメント(電力供給の調整)が必要になると考え、電力系統に与える影響の計測や効率的な課金処理を行えるようにし、ユーザーの利便性なども考慮した充電通信システムとして策定されています。

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