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» 2014年07月07日 10時00分 公開

CAE最前線―MRJ事例に見る航空機設計でのシミュレーション活用:MRJはいかにして設計されたのか (4/4)

[加藤まどみ,MONOist]
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さらに踏み込んだデータマイニングも

 SOMによって最適設計がどの辺りが適切か、一目で見えるようになった。だが場合によっては設計変数が数十、あるいは百以上になることもあるという。これほどになると1つずつ取り出して見ていくのは大変だ。

 そこで採用した2つ目のデータマイニング手法が、ラフ集合と呼ばれるものである。「ラフ集合によって、どのような設計が適切かというルールを具体的に導き出すことができる」(大林氏)。この際はフリーのラフ集合のソフトを利用した。例えば先ほどの最適化における設計変数6は0〜1の範囲で連続的に変化させているが、これを大中小の3つというように大まかに分ける。そして設計変数において、大中小どの値を取れば最適設計に近いかが指摘される。図14のように、目的関数1を最小化するためには、設計変数1は中くらいの値がよいという指摘が11回、設計変数2は大がよいという指摘が9回というふうに出力される。「ラフ集合は望ましい解の集合が見つかったときに、その集合に属するための条件を導き出すもの。設計者は自分の設計にそのルールを盛り込み、最適な解と同じ特徴を保ちながらもオリジナリティを出した設計が可能になる」(大林氏)という。

photo 図14 ラフ集合は望ましい解集合に属するためのルールを生成する

可視化やルール生成によって設計者を助ける

 今回の事例の大きな特徴は、通常は最適解が出て終わりとなるところを、SOMやラフ集合といったデータマイニング手法を駆使して設計ルールの抽出を行った点だ。最適化の結果をどう設計に結び付けるかにまで踏み込んだところが一番のオリジナリティだといえる。これらの設計最適化手法はMRJの概念設計において4段階にわたり適用された(図15)。1回目は、主翼のみの形状に対する流体および構造の連成解析による最適化、2つ目は上記の例で紹介した、エンジンを付けた場合の主翼形状の連成最適化、3つ目は主翼の両端に付けられ翼端渦を防ぐウィングレットの形状の連成最適化、4つ目は水平尾翼の構造解析による最適化である。

photo 図15 MRJの4カ所に最適化・データマイニング技術が適用された(三菱航空機(株)提供)

 なお、これらの最適化によって導き出された条件が、そのまま最終形状になるわけではない。これらの設計探査を基に、主翼の中に配置される燃料タンクやフラップのアクチュエータ、モーター、配線などを考慮しながら詳細を詰めていく。その際に、設計探査によって導き出されたルールを把握しておくことで、高い性能を維持しながら設計の試行錯誤を進められるというわけだ。

自動車や家電、発電タービンにも応用

 これらの最適化技術は航空機以外にも適用されている。その一つが日立製作所の洗濯乾燥機だ。空気の流路などに多目的設計探査を適用することによって、性能がよく量産バラツキも少ない形状を設計し、製品化している。またレーシングカーのウィングやディーゼルエンジンの燃料室およびマフラー、タイヤ、また発電用タービンなどについても共同研究を行ったそうだ。

 さらに現在、大林氏らが構想しているのが超音速旅客機「MISORA」だ(図16)。超音波旅客機は近年、次世代航空機として提案、開発事例が増えつつある。MISORAの特徴の一つは複葉翼を持つ独特の形状だ。上下それぞれの翼から出る衝撃波を打ち消し合うことで、超音速旅客機で課題とされてきた騒音を大幅に低減できるという。このMISORAにおいても検討の過程で多目的最適化を適用していきたいという。今後コンピュータやシミュレーション技術の進化とともに、飛行機自身もますます進化していきそうだ。

photo 図16 大林氏らが構想する次世代型超音速旅客機「MISORA」。独特な形状の複葉翼により、超音速飛行で発生する衝撃波を打ち消す
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