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» 2014年07月15日 10時00分 公開

“共進化”するアジアのモノづくり(2):現地社員を生かせない企業は成功しない――成功企業が実施する理念の共有 (2/2)

[近田高志/日本能率協会 アジア共・進化センター長,MONOist]
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ASEAN事業好調企業の5つの共通点

 ここで、前回も取り上げた「ASEAN地域3カ国調査」(2013年)から、現地の力を生かすマネジメントについてのデータをご紹介します。

 今回の調査では、ASEAN地域のうち、タイ、シンガポール、インドネシアの3カ国の現地日系企業を対象に調査を実施しています。図1は、「現地拠点のマネジメントの傾向」に関して、「経営数値を現地の社員に開示しているか」「本社の方針を現地の社員と共有しているか」「現地マネジャーに自主的に目標を設定させ、進捗管理を行っているか」「日常的に現場社員とコミュニケーションをとり意見を吸い上げているか」「社員の提案やアイデアを奨励する活動をしているか」の5つの項目の実施度を尋ねた結果です。

 それぞれ、ASEAN事業が好調である企業と、それ以外の企業とで比較したグラフですが、ご覧の通り、5つの項目のいずれについても、「好調企業」の方が「そのようにしている」傾向が高いという結果が見られました。ここで挙げた項目は、どれも当たり前のことかもしれません。しかし、これらの「現地従業員の力を引き出す努力」を地道に実行しているかどうかが、業績に関係しているということを真剣に受け止めるべきでしょう。

「ASEAN事業の好調度合い」と「現地拠点のマネジメントの傾向」 図1:「ASEAN事業の好調度合い」と「現地拠点のマネジメントの傾向」(クリックで拡大)

理念を共有する

 今回の調査では、実証研究としてASEANで事業を成功させている企業へのインタビューも行っています。例えば、味の素・インドネシアは、現地志向の商品開発・営業で強みを発揮している企業の1つです。現地販売会社の営業社員は、毎日、市場の店舗を1軒1軒回り、小袋に包装された商品を陳列しています。この地道な活動の土台となっているのが理念の共有です。「自分たちの仕事は、現地の食事が今よりさらに美味しくなって、家族が幸せになることに貢献しているのだ」と、現地の日本人トップが社員に語り続けているそうです。

 また、日立金属・タイでは、徹底した情報共有、現地化を行っています。製品群の収益責任をタイ人マネジャーに任せることによって、コスト意識や経営参画意識を醸成することに成功していました。赴任する日本人駐在員の人選の際にも、現地社員の意向が反映されるというから驚きです。それほどまでに信頼し任せることで、現地社員たちが自主的に改善活動を行い、生産性向上に取り組むようになっているのです。信頼をベースにした経営を実践している例といえるでしょう。

 その他の企業も含め、インタビューをした現地トップの皆さんが口をそろえて述べていたのが「当たり前のことを、地道に続けてきただけ」ということでした。残念ながら、現地でのマネジメントに近道はないようです。

現地との協働から始まる日本企業のグローバル化

 現地に赴任すると、日本でのポストよりも2段階上位の役割につくことはよくあります。日本ではマネジメントの立場になかった人もいるようです。そのような方々が、十分な赴任前研修を受けることもなく現地に赴き、日本とは文化や価値観、仕事の進め方の異なる現地の社員をマネジメントするのですから、苦労が絶えないのも無理はありません。コミュニケーションのギャップにぶつかるのも当然です。

 このようなマネジメントの課題に応えるために、日本能率協会では、現地駐在の日本人マネジャー向けの研修を実施しました。研修に参加された皆さんは「現地の社員と目的を共有し、信頼関係をつくり、一緒に目標に向かって成長していく」という“マネジメントの基本”を実施する重要さに気付かれたようです。前述した日立金属・タイの現地トップの方も「マネジメントの極意は、結局は相手の立場で考えること」と話しています。むしろ、日本にいると全てのことが「あ・うん」のコミュニケーションでできてしまい、こうした当たり前のことに気付きにくいのかもしれません。

 コミュニケーションは組織の中でメンバーが協働して何かを成し遂げる基盤となるものです。それは単に言語の違いではなく、互いの考え方や価値観の違いを前提にしながら、相互に理解し合うことです。そのためにも、会社が目指す理念や、仕事の一つ一つの目的を共有することが大切であり、これを組織に行きわたらせることが現地のマネジャーの最大の役割と言えます。これはASEANに限ったことでなく、日本でもその他の海外の国々でも同じです。

 現地の社会や顧客と向き合い、そして現地社員と協働することで初めて、日本企業の内なるグローバル化が始まるのではないでしょうか。これこそが、現地と「共・進化(共に進化)」することに他ならないのです。

※)今回ご紹介したインタビューの内容も含め、ご紹介している「ASEAN地域3カ国調査」の報告書は、日本能率協会のWebサイトに掲載(PDF)しています。


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