ウェアラブル端末とモノのインターネットは「現場」の救世主となるか?【前編】現場革新 次の一手(2/3 ページ)

» 2014年08月11日 08時00分 公開

ウェアラブル以前のICTやデジタル技術の現場支援

 それでは、まずウェアラブル端末やIoTが登場する以前のICT活用による現場支援の様子を振り返ってみよう。製造業におけるICT化は、設計・生産準備の領域で利用される3次元データと、さまざまな帳票で使用される文字列や数値など、データベースの中身となる一般的なデータとを対象に行われることが多かった。これらはいずれもコンピュータ端末を必要とし、一昔前にオフコンといわれたものから、ワークステーションやPC上で扱われる。

 生産現場におけるICT化は、生産に必要な制御装置のネットワーク化、インテリジェント化を焦点として行われてきた。その一方で上流の設計情報を扱う場合、加工指示や公差情報など、モノづくりに必要な情報は紙の図面に記載されることも多かった。これには、生産現場に3次元データを見るためのPCが必要な数存在しないという環境による制約も一因としてある。

 しかし、ここ最近のタブレット端末の普及により、状況は変わりつつある。工場内のネットワークというハードルもあるが、それをクリアできればタブレット端末は、現場の作業者が参照したい数多くの書類、図面、技術情報にアクセスすることを可能にする。

 また、3次元データ自身も進化を遂げている。グローバルで先進的な組立系製造業においては「完全データ衝」(同じデータを共有しそれを要として活用する考え方)を目指し、設計段階から形だけでなくモノづくりのための情報を3次元データに付与している。昨今はPDM(Product Data Management)システムなどを介して、CADと同期したビュワー用3Dデータを生成できる。さらに各種ビュワーフォーマットが、3次元データや公差情報をサポートしているため、必要なときに製品データを呼び出して生産現場で使える。また、複雑な作業指示情報をタブレット端末で参照することも可能だ。図2はタブレット端末の現場活用の典型的なイメージだ。作業者はアニメーションをタブレット端末上で見ることで、複雑な組み立て工程や注意事項を参照し作業できる。

photophoto 図2:軽量3DフォーマットXVLをiPadで閲覧しているイメージ(左)と、同じく軽量3DフォーマットJTをiPadで活用している例(右)(出典:ラティス・テクノロジーおよびシーメンスインダストリーソフトウェア)(クリックで拡大)

 3次元データ以外のデジタルデータも、現場でのタブレット端末使用の恩恵を受けているケースが増えてきている。アップルのiPadを現場で利用したモデルケースとして米国Bechtelの事例をご紹介する。

 Bechtelは19世紀に創業。エンジニアリングやコンビナート建設などを請け負うグローバル企業だ。その建設現場の作業者にiPadを携帯させ、図面その他技術情報を必要なときにどこの現場からでも入手可能としているのだ。iPad上で動作する社内用アプリも数多く自社開発しているという。また、作業進捗の報告などもiPad経由で現場から行われているようである。興味深い点として、iPad上でAR(拡張現実)を駆使し、「まだ敷設されていない建材が、敷設後どうなるのか」を視覚的に表示する技術なども活用している。

BechtelがビジネスにiPadを活用している様子

 このように、デジタル技術とモバイル端末は、現場の仕事を改善し一定の効果を上げてきた。しかし、それには限界があると筆者は見ている。その大きな要素は、「ハンズフリーの操作性」である。現場作業者は作業中両手がふさがってしまうことも多い。そんな中、工具や作業対象の部品を一度どこかに置いて、モバイル端末に手の伸ばすことは最適な作業環境とはいえない。手で操作することなく、前述のような情報が作業者に知覚されることこそが理想的な作業環境となる。そのブレイクスルーとなるのがウェアラブル端末だ。特にスマートグラスについては大きな可能性を秘めていると考えている。その技術要素と応用の可能性について見ていこう。

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