国力低下が製造業の土台を揺るがす!? ――日の丸製造業の現在地ものづくり白書2014を読み解く(前編)(4/4 ページ)

» 2014年09月30日 10時00分 公開
[田橋風太郎MONOist]
前のページへ 1|2|3|4       

地産地消モデルは何をもたらすのか

 製造業の地産地消モデルへの転換は、貿易黒字の縮小にはつながるが、経常収支における所得収支(第一次所得収支)の黒字には寄与する。第一次所得収支とはつまり、日本企業が海外子会社から得る配当や投資収益などを指す。実際に、日本の第一次所得の黒字は、2001年以降増大を続けた。リーマンショックの影響で一時落ち込んだものの、その後は回復基調に乗り、2013年には16兆5000億円と2007年と同水準に戻している。これは、製造業を含めた日本企業の海外投資、あるいは拠点設立が依然として活発に行われていることを意味するものだ。

 また、経済パワーが旧来の先進国(あるいは、米国)中心型から、新興国を含む多極型へとシフトする中、製造業を含む日本企業の「稼ぐポイント」も変化している。その変化を経常収支の観点からとらえたデータとして、ものづくり白書では以下の図を示す。

photo 図12:日本の経常収支の地域別推移(出典:財務省・日本銀行「国際収支統計」)(クリックで拡大)

 この図にある主な地域(北米、アジア、欧州)に対する日本の経常収支のトレンドをまとめると以下の通りとなる。

photo 図13:主要地域における日本の経常収支のトレンド(「ものづくり白書 2014年版」の記述を基に編集部で作成)(クリックで拡大)

 図13のように、製造業を中心にした日本の企業は、海外への投資を積極的に行い、所得収支の黒字拡大に寄与している。だが、それでも貿易赤字の増加分を埋めるには至らず、結果、経常収支の黒字縮小に歯止めがかかっていないのが現状だ。

米国の製造業の労働生産性は日本の1.5倍

 そのため、日本の製造業には、海外で稼ぐ力と、輸出力の双方を高めることが求められている。

 もちろん、輸出力の向上には、国内の生産力・生産効率の向上が不可欠だ。ものづくり白書でも「他産業に比べて労働生産性の高い日本の製造業は一層生産性を高め、付加価値の高い製品を生産するべし」といった一文が記されている。

 日本の製造業における労働生産性水準は、日本の中で見ると相対的に高い。例えば、公益財団法人・日本生産性本部『日本の生産性の動向 2013年度版』によれば、国民一人当たりの労働生産性の世界順位は、米国(4位)やシンガポール(7位)はおろか、ギリシャよりも低い27位(世界銀行などのデータによる労働生産性順位)だ。だが、製造業の労働生産性順位(2011年)は、経済協力開発機構(OECD)加盟の24カ国中7位だという。ただし、この日本の順位は、1995年は1位で2000年時点でも2位だったことを考えると大きく低下してきていることが分かる。さらに2011年の生産性水準は2位の米国が日本を1.5倍近く上回っており、差が開いていることが読み取れる。

 加えて、日本は少子高齢化の先進国だ。人口に占める65歳以上の高齢者の割合(高齢化率)は2013年時点で25.1%に達し、2025年には30%を超えるという。また、2013年に8000万人を割り込んだとされる日本の生産人口(15歳〜64歳の人口)は2025年におよそ7000万人になると見られている。労働力人口(15歳以上の就労人口・完全失業者の合計)はさらに少なく、2013年で6577万人。2030年には5683万人にまで落ち込むとも見られている。この他、インフラ・コストも総じて高く、産業用の電気料金も米国の2倍強(電力中央研究所)、人件費にしてもアジア諸国と日本との差は(国や地域によっては)10倍近くある。

photo 図14:アジア各国の人件費比較(出典:日本貿易振興機構)(クリックで拡大)

ロボットや人工知能による抜本的な生産性の改革

 このような環境の中で、生産力を高め、かつ、世界的に競争力のある製品を作っていくのは、従来路線の延長線上では既に難しくなっている。そのため、抜本的な改革や革新的なアイデアが求められているのが現状だ。ものづくり白書は、人と最新鋭ロボットがコラボする新たな自動化設備や製造プロセスの開発が必要と指摘している。確かに、これらの取り組みがない限りは、絶対的なリソース不足を補うだけの生産性向上やコスト競争力のアップは至難だろう。

 また、人口減少・少子高齢化が進む中で、日本の経済力やGDPを維持し、社会保障制度を支えていくには、労働者1人当たりの生産性を劇的に向上することが求められる。これらのことを考慮すれば、ロボットや人工知能などの先端技術で人の能力を補う以外に方法はない。

 ものづくり白書ではこの他、成長分野への参入や、製造ベンチャーの躍進なども、日本の製造産業の発展に不可欠な要素として掲げており、その最新動向も詳しく解説している。この辺りについては、また次の機会にまとめてみたい。(後編に続く

Profile

田橋風太郎(たばし ふうたろう)

フリーランスライター。IT系および経営系の雑誌編集長などを経て、2014年に独立してフリーに。ITと経営、製造業の運営、などをテーマに、雑誌やWebサイトで執筆活動を行う。




海外進出だけが能じゃない! 今こそ光るニッポンのモノづくり:「メイドインジャパンの逆襲」コーナーへ

「メイドインジャパンの逆襲」コーナー ,/mn/subtop/features/madeinjapan/index.html

「国内市場の縮小」「生産による差別化要素の減少」「国内コストの高止まり」などから、日本の生産拠点は厳しい環境に置かれている。しかし、日本のモノづくり力はいまだに世界で高く評価されている。一方、生産技術のさらなる進歩は、モノづくりのコストの考え方を変えつつある。安い人権費を求めて流転し続けるのか、それとも国内で世界最高のモノづくりを追求するのか。今メイドインジャパンの逆襲が始まる。「メイドインジャパンの逆襲」コーナーでは、ニッポンのモノづくりの最新情報をお伝えしています。併せてご覧ください。


前のページへ 1|2|3|4       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.