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» 2014年10月23日 10時00分 公開

再生請負人が見る製造業(4):開く世界基準との収益性の差、日系化学メーカーが未来を切り開くのに必要なこと (3/3)

[大久保潤二/アリックスパートナーズ・アジア ディレクター,MONOist]
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買収先が赤字を続けたA社の事例

 A社は新規参入した事業領域において、自社新製品αの米国市場展開を狙って現地企業B社を買収した。しかしB社の業績は買収後3年間、当初計画に対して大幅未達成が続き、ついに赤字転落となった。そのため、抜本的な事業体制の見直しを筆者たちが支援することになった。

 この再建プロジェクトは2段階で実施した。最初のフェーズは短期的な収益改善策の策定、営業政策・組織の再構築、事業計画の見直しである。そもそもB社が持つ従来製品の市場は縮小傾向にありα導入は両社にメリットがあるはずだった。しかし買収直後の環境変化でαに対してB社が懐疑的になり、従来製品中心の営業を行った。そのためにαの売り上げがさらに減少するという悪循環に陥っていた。プロジェクトではαの事業性を客観的に再評価し、その可能性を最大化するため、営業体制を再編成した。同時に高コストが定常化していたSG&A(販売費および一般管理費)に切り込み、それらの施策を反映した事業計画を策定した。

 次のフェーズでは経営体制の再構築を行った。プロジェクト開始直後、A社とB社の両経営陣の間には想像以上の断絶があった。B社経営陣は確信犯的に従来の自社製品中心の戦略を継続し、SG&A削減などの収益改善に着手しなかった。A社も状況は理解していたが、有効な手が打てないまま時間が経過していた。筆者たちはまず、前フェーズで策定したαの事業性とB社の収益改善可能性を提示しながら現地経営陣と議論を重ね、2社の真の統合がもたらす事業機会の大きさについてコンセンサスを醸成していった。その後、事業戦略の再確認、全社収益改善プロジェクトの実行、経営指標と意思決定プロセスの見直しなどを短期間に進めて行った。これらの諸施策の結果、プロジェクトの翌年からαの売上高を回復軌道に戻すことができ、B社は最終的に黒字化を実現した。

悪ければ直接手を下すべし

 A社の事例が示唆するのは、投資先企業の経営への直接的な介入のインパクトの大きさである。よく言われるように日系企業は買収した海外企業を現地経営陣に委任し、何年もかけてゆっくりと統合を進めようとする傾向がある。途中で為替や規制、主要顧客の方針変更など、予期せぬ環境変化で投資先の事業が急激に悪化することがあっても、良くも悪くも鷹揚(おうよう)に構え、結果的に事態を深刻化させることが少なくない。

 原因が慢性的であれ、急性的であれ、再生が必要な場合には迷わずに直接介入し、変革を自らリードすることが必要だ。もし自社にそのようなノウハウや人材がない場合や、投資先経営陣を動かすには客観的な判断材料が必要だ、というような判断であれば、A社のように外部からの支援を活用することも有効な手段になるだろう。

 2013年にBASFは新たな事業戦略を発表した。「2020年までにアジア太平洋地域に100億ユーロを投資し、売上高を2012年実績の2倍の250億ユーロに拡大する」という宣言だ。その後を追う欧米企業や、中東、アジアの新興勢力も次々と野心的な計画を発表している。成長市場での事業機会をいかに素早く自社の企業価値に結実させるか、その競争は収束する気配を見せていない。

化学産業や日系企業の得意技が生かせる時代に

 激しい業界再編が続く世界の化学業界だが、日系総合化学企業にも勝ち残るチャンスはある。そもそもM&A活用によるハイスピードな成長を持続するのは、日系企業のみならず多くのグローバル競合企業にとっても決して簡単な作業ではない。実際、化学産業の現代史において、英国のICIやドイツのヘキストなどM&Aを繰り返しながら最終的には自社が消滅してしまった大手企業も複数存在する。

 その一方で、日系企業の得意領域が生かせる場面が今後増えてくる可能性もある。例えば、海外で高度化・多様化する顧客ニーズに対する高次元での擦り合わせと高付加価値品の開発などがそうだ。また製造やサプライチェーンでのボトムアップ型の優れたオペレーションの確立と継続的強化などもその候補である。類似する強みを背景に確固たる地位を維持しているBASFの例は、日系企業の可能性を示唆する心強い事例でもある。

 日系企業の強みを最大限に活用していくためにもM&Aによる総合力強化は避けて通れないテーマだ。総合力強化には、既に投資した海外事業の再生に注力し、その知見を次に活用することが1つの柱になる。不振に喘ぐ投資先に入り込み、業績低迷に至った真の理由を咀嚼(そしゃく)し、再生への手法を自社のものとする。それをすかさず次の企業買収に反映していく。この循環を確立できれば、日系化学企業が勝ち残るための頼れる道具として、M&Aをよりしたたかに使いこなすことができるようになるはずである。

次回に続く

筆者プロフィル

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大久保潤二(おおくぼ じゅんじ)アリックスパートナーズ ディレクター

新日本製鉄、ベインアンドカンパニー、モニターグループを経て、アリックスパートナーズに入社。コスト削減、M&A・事業統合、企業変革などで多くの実績を残している。




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