押さえておきたい交渉術の勘どころ(その2)レイコ先生の「明日から使える! コミュニケーションスキル」(8)(2/2 ページ)

» 2014年10月24日 12時00分 公開
[小山新太/MPA所属 中小企業診断士,MONOist]
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攻撃的なタイプには耳を傾けることで「戦闘モード」を解除する

 では、攻撃的な相手には、どのようにして冷静に対応すればよいのでしょう。そのポイントは「まずは自分が相手の話に耳を傾ける」ということです。こちらがいくら理性的に対応しても、相手が「戦闘モード」に入ったままでは話は伝わりません。戦闘モードに入っている相手は自分が100%正しく、相手が間違っていると思い込んでいるので、こちらの話には耳を貸さない状態となっています。そんな相手の戦闘モードを解除して、自分の話を聞いてもらうためには、まずは自分が相手の話に耳を傾けなければなりません。

 相手の話に耳を傾けることは、ただでさえ忍耐力を必要とするので、まして、けんか腰の相手に歩み寄って話を聞くなんて全然やる気がしないと感じるでしょう。しかし、人間は誰もが「他人に理解されたい」という欲求を心の奥底に持っています。「好意には好意で報いる」「相手が譲歩してくれたから自分も譲歩する」といった「返報性の法則」という人間心理があります。前回の記事で解説した「ドア・イン・ザ・フェイス」もこの心理に基づいています。相手の話に耳を傾けることは、自分ができる最も簡単な譲歩の1つなのです。他人に理解されたいという相手の欲求をかなえてあげることで、相手の戦闘モードを解除して、交渉を円滑に進められるようになります。

 相手の話に耳を傾けることができたら、次に「私はあなたの話をしっかり聞きましたよ」ということを相手に知らせることが必要です。そのためのポイントは「要約して言い換える」です。要約して言い換えるとは、以下の例のように相手が言った内容を要約して自分の言葉で繰り返すことです。

顧客: 「先月、御社に発注した商品だけど、もともとの発注(商品Aを100個)の後、商品Aを50個、商品Bを50個に変更したはずなのに、今日、商品Aが100個納品されたよ。どうなっているんだ!! 明後日には、商品Bが50個、絶対に必要なんだぞ。今すぐ商品Bを手配してくれ。あと、迷惑料として当然値引きもしてくれるんだろうね?」

営業担当: 「まず、お客さまがお話された内容を、私が正しく理解できているかどうか確認させてください。先月の発注後に発注内容を商品A50個、商品B50個に変更したのに、変更前の発注内容である商品A100個が納品された。そして、この件の迷惑料として値引きをしてほしい、ということで間違いありませんか?」

顧客: 「そうだ。そのとおりだよ」

営業担当: 「申し訳ありませんでした。すぐに対応案を検討いたします」

 相手の話の要約することは、決して相手の言い分に同意するということでありません。上記の会話では、顧客は迷惑料として値引きも要求していますが、もし、営業担当が最初の返答で「商品Bの手配はすぐにいたしますが、値引きは難しいと思います」と言ったとすると、おそらく顧客は「納品を間違っておいて、その言い分はなんだ! どれだけ迷惑していると思っているんだ!!」といったように火に油を注ぐ形となってしまうでしょう。戦闘モードの相手には、ただいたずらに論争を挑むのは得策ではありません。相手の言い分を要約して伝えることで「あなたのおっしゃることはよく分かります」というメッセージを相手に送ることができ、戦闘モードを解除できるようになります。

何でも否定のタイプには「ポジティブ解釈」と「“もし”話法」

 「何でも否定する人」は、同じ職場にいても精神衛生上よくありませんが、そのようなタイプと交渉する場合、まずは、自分の気持ちをポジティブに保つようにしなければなりません。こちらの投げたボール(発言)に対して、相手が否定的なボール(発言)を返してきても、「ナイスボール」とポジティブに受け取るようにするということです。例えば「この機能の必要性を感じないんだよね」と顧客に言われた場合に、「機能のメリットをもっとしっかり説明してほしいということだな」とポジティブに解釈するようにするのです。そして、自分がポジティブになったら、以下の会話例のように「“もし”話法」で相手の思考をポジティブにしていくようにします。否定的なコメントの中に相手がこちらの提案を「肯定する条件」が隠れているという風にポジティブに捉えることが大切です。

顧客: 「この機能の必要性を感じないんだよね」

営業担当: 「なるほど、分かりました。ということは、もし、機能の必要性を感じたら前向きに検討いただけるということでよろしいでしょうか」

沈黙タイプには自ら譲歩しないように気を付ける

 「沈黙は金」ではありませんが、交渉での口数が極端に少なく、会話のキャッチボールが成立しないタイプも存在します。そんな時は、まず、沈黙から来る不安により、以下の会話例のように自ら譲歩案を出さないようにしなければなりません。

営業担当: 「提出させていただいた見積もりはいかがでしたでしょうか?」

顧客: 「…………(沈黙して首を傾げる)」

営業担当: 「(不安になり)想定されていた金額よりも高かったでしょうか。若干でしたら値下げすることも可能ですが、いかがでしょうか」

顧客: 「お願いします」

 相手の反応がなかったり、極端に少なかったりすると、誰でもとても不安な気持ちになります。そして、その不安からネガティブな思考となり、上記の会話のように自ら好条件や譲歩案をしゃべってしまうのです。相手に沈黙している場合は、1つの戦法かもしれないと冷静に状況を判断することが大切です。

口達者なタイプには「間」を取って流れを変える

 こちらの発言に対して10倍ぐらいしゃべり続ける交渉相手も存在します。そんな口達者な相手のペースに任せていると、思ったように交渉が進められず形成が不利なってしまうことがあります。そのような時は、まず、「間」を取るということが大切です。野球の試合では、ピンチになると守備側がタイムと取ってマウンドに集まります。この行為は「間」をおいて、嫌な流れを断ち切るためです。これと同じで、「口達者な相手のペースになっているな」と感じたら、話題を変えたり、電話が入った振りをして席を外したりして「間」を取るとよいでしょう。

 口達者な相手の話を聞いていると、あまりに情報が多く、頭の中が混乱してよく分からなくなることがあります。その状態でなんとなく、相手の提案に合意してしまうのは、それこそ口達者な交渉相手の思うツボです。そういった事態に陥らないために頭が混乱してきた場合は、“そもそも”話法で状況をいったん整理するとよいでしょう。具体的には、以下のような質問を相手にすることで、相手のペースをいったん止めて、状況を整理するのです。

  • 「そもそも、本日の交渉で御社にとって一番重要なことは何でしょうか?」
  • 「そもそも、私たちが、今、話し合わなければならないことはなんでしょうか?」

 今回は、やっかいな交渉相手とどう対応するのかを解説しました。交渉には全く同じという交渉は1つとしてないため、やはり場数を踏むということは大切になります。しかし、何も考えずに取りあえず場数だけを踏んでいくのはよくありません。交渉相手や場面を事前のシミュレーション(準備)をすることで、1つ1つの経験がより質の高いものへと変わっていくのです。

 次回は「プレゼンテーションスキル」について解説します。

参考文献

  • 「戦略的交渉入門」(田村次郎・隅田浩司 著 日経文庫)
  • 「ハーバード流 交渉術」(フィッシャー&ユーリー 著 知的生きかた文庫)
  • 「ビジュアル解説 交渉額入門」(田村次郎・一色正彦・隅田浩司 著 日本経済新聞出版社)
  • 「【決定版】ハーバード流“NO”と言わせない交渉術」(ウィリアム・ユーリー著 知的生きかた文庫)
  • 「弁護士が教える 気弱なあたなの交渉術」(谷原誠 著 日本実業出版社)

Profile

小山新太(こやまあらた)

MPA所属 中小企業診断士。販売促進やマーケティング、コミュニケーションスキルを専門とし、中小企業支援やセミナー講師などを行っている。



MPAについて

「MPA」は総勢70人以上の中小企業診断士の集団です。MPAとは、Mission(使命感を持って)・Passion(情熱的に)・Action(行動する)の頭文字を取ったもので、理念をそのまま名称にしています。「中小零細企業を元気にする!」という強い使命感を持ったメンバーが、中小零細企業とその社長、社員のために情熱を持って接し、しっかりコミュニケーションを取りながら実際に行動しています。

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