デジタルツインを実現するCAEの真価

スパコン性能、2020年以降は伸びずに頭打ち!? ――これから何をするべきかCAEイベントリポート(1/2 ページ)

スパコンが登場してから40年間、計算能力は順調に「10年に1000倍」の速度で向上し続けてきた。だがこの伸びは2020年には近い将来に止まるという。その時CFDでは何ができるだろうか。東京大学 生産技術研究所の加藤千幸氏が講演した。

» 2014年10月31日 10時00分 公開
[加藤まどみMONOist]

 2014年10月9〜10日に東京都港区で開催されたヴァイナスのユーザーカンファレンスにおいて、東京大学生産技術研究所の加藤千幸教授が登壇し、「大規模流体解析の産業応用〜現状と今後の展望〜」のタイトルで講演した。

 スーパーコンピュータ(スパコン)の性能向上が限界を迎えることを指摘した上で、この先、産業界で使えるスパコンの規模や、それをCFDでどのように活用するか例を示した。

 CFDの発達は、コンピュータが順調に進化してきたことによるところが大きい。スパコンが本格的に使われだして以来、その性能は、1990年代にGFLOPS(ギガフロップス)、2000年代にTFLOPS(テラフロップス)、2010年代にPFLOPS(ペタフロップス)と、「10年に1000倍」(または「3年に10倍」)のペースで着々と向上してきた。だが「このまま増えればハッピーだが、実はそうではない」と加藤氏は言う。

東京大学生産技術研究所 加藤千幸教授

 2012年に共用を開始した富士通のスパコン「京」は、スパコンの性能ランキング「TOP500」で2011年内の2期の間トップだった。その京の後継機となる富士通の「Post-FX10」が2015年には稼働する予定だ。京のピーク性能である10PFLOPSに対して、Post-FX10は10倍の100PFLOPSになる。このままのペースで処理能力が伸長すると、この3年後にピーク性能はEFLOPS(エクサフロップス)の段階になるはずだ。だが国家プロジェクトでも議論されている通り、エクサスケールになるのは2020年になると予測されている。「2015年ごろまでは今までのペースをキープするが、それ以降は陰りが出てくる」(加藤氏)という。

 2020年以降の世界では、10年間でせいぜい多くて数十倍、少なければ4倍程度しか処理性能が伸びない時代が始まるという。半導体の集積度は限界になり、何か革新的なことが起きない限りは、産業界が実質使える性能は数〜10PFLOPSにしかならないということだ。2020年ごろには、「1つラックを買ってくれば今の京の10分の1程度のパフォーマンスが得られる」という。価格は5千万〜1億円と見ており、産業応用するときに最大のコンピュータ投資価格を仮に5億円とすれば、一番楽観的な予測で、5千万円×10台購入して今の京と同じことができるということだ。

限りが見えてきたスパコンで何を行うか

 CFDの発展には2つの方向がある。1つはとにかく大規模な計算への取り組みだ。これは実験の完全な置き換えを目指すものと、今まで分からなかった流れの現象の本質的な理解を目指すものとがある。もう1つの方向は、とにかく多くのケースを一度に計算すること、すなわち最適な設計のパラメータを探すことである。間もなくスパコンのパフォーマンスに限界が訪れるわけだが、「見方を変えれば、今後何をやるか考える良いチャンスではないか」と加藤氏は言う。

 楽観的な仮定では、100PFLOPSのピーク性能の10%、10PFLOPSの性能を持続的に引き出すことができ、タイムステップで格子当たり5000の演算カウント、最大シミュレーションで10万タイムステップ、24時間で答えが出るという条件で見積もると、シミュレーションの最大サイズは1兆格子、最大計算数は40万ケースが限界になるだろうと加藤氏は話す。

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