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» 2014年11月17日 09時00分 公開

サムスンを縛ったFRAND宣言とスマートフォンOSの覇権争い知財専門家が見る「アップルVSサムスン特許訴訟」(2)(2/3 ページ)

[藤野仁三/東京理科大学院 知的財産戦略専攻 教授,MONOist]

スマートフォン基本ソフトの覇権争い

シンビアンの時代

 スマートフォンの売り出し当初、基本ソフト(OS)の主役は「シンビアン(Symbian)」でした。このOSは、英国のシンビアン社が携帯PC用OSとして開発したものをフィンランドのノキア(Nokia)がスマートフォン用ユーザーインタフェースに改変したものです。2007年にはサムスン、LGなどの携帯端末にも搭載され、広く普及しました。シンビアンベースのOSの1つに「シンビアンUIQ」があります。このOSは、モトローラ、ソニー・エリクソン製のスマートフォンに搭載されていました。

 2007年上期に販売されたスマートフォンの搭載ソフトの中では、シンビアンが圧倒的なシェアを握っていました。2007年の第2四半期(4〜6月)ではその市場シェアは72%となっていました。それが2008年には5割を切り、2009年の第2四半期には35%にまで後退したのです。結局、ノキアは2011年にシンビアンからの撤退を決めました。

 ノキアのシンビアンが急速に地盤沈下した背景には、当時、業界が直面していた基本ソフトのライセンス料の問題があります。シンビアンを搭載する場合、一台当たり5ドルのロイヤルティーが求められており、それがスマートフォン市場拡大の足かせとなっていました。この状況から、スマートフォンOSの無償ソフトの開発が活発になりました。この動きの背景に、ノキアによる市場独占への反発もあったことはいうまでもありません。

アンドロイドの登場

 米国グーグル(Google)、サムスン、韓国LGエレクトロニクス(以下、LG)、モトローラ、台湾HTC、米国クアルコム(Qualcomm)、米国Tモバイル(T-Mobile)、米国スプリント(Sprint)、NTTドコモ、中国移動通信(チャイナ・モバイル)など34社は2007年、標準策定のためのフォーラム「オープン・ハンドセット・アライアンス」(Open Handset Alliance:OHA)を設立して、携帯端末の基本ソフト「アンドロイド(Android)」の開発に着手しました。OHAの活動はグーグル主導で進められました。アンドロイドはリナックスをベースにして開発され、無償で提供されたのです。アンドロイドの無償提供を契機に、他の基本ソフトも足並みをそろえてソフトの無償化に踏み切りました。

 このような流れの中で、ノキアも「シンビアン」の無償化を迫られ、結局それに追随せざるを得なくなります。そして、それが後のシンビアン撤退の遠因となります。ノキアのシンビアン撤退の理由については、さまざまな報道があります。興味深いのが、無償化後のシンビアンの品質に問題があったという指摘です。従来、高いロイヤルティーを受け取ることでシンビアンの品質は保証されていたようですが、オープンソース化によってその質の維持が困難となり、結局はユーザー離れを起こしたというのです。これはオープン・ソース・ソフトウェア(OSS)のもつ脆弱性を示す好例ともいえましょう。

アンドロイドの知財権問題

 アンドロイドは、シンビアンと入れ替わるようにスマートフォン市場でそのシェアを伸ばしていきます。シェアが拡大した理由の1つは、アンドロイドをスマートフォンのプラットフォームとして利用できるため、携帯端末メーカーは独自のデバイスやソフトウェア、ユーザーインタフェースなどを付加して、メーカー独自の機能を付加することができるという柔軟性があるためです。

 しかし、アンドロイドは特許クリアランスという面で脆弱性がありました。Java関連の著作権訴訟が米国で提起されると、アンドロイド陣営に少なからぬ不安感が生まれました。Java特許はそもそも米国サン・マイクロシステムズ(Sun Microsystems)が保有していたものです。サンはグーグルとの間の既存のライセンス関係に満足し、訴訟提起は控えていました。しかしこれは米国オラクル(Oracle)による2010年のサンの買収で状況が急変します。オラクルがJavaプラットフォームの著作権・特許権侵害を理由にグーグルを訴えたからです。オラクルのサン買収の目的の1つは、急速に拡大するアンドロイド市場を知財権ロイヤルティーのさらなる収入源とすることにあったのでしょう。

 一般にはこのような特許権者の攻勢に対して、企業はクロスライセンスで対応しようとします。グーグルもその例に漏れず、同様の対応を取ろうとしました。しかし新興企業であるグーグルにはクロスライセンスするための保有特許件数が少ないため、対等な立場での交渉が難しかったのです。

 ちなみに、2010年末での米国特許の保有件数を比較すると、マイクロソフトが1万5000件超、アップルが約2800件、グーグルは約500件であるのに対して、モトローラは1万6800件でした。そのために、無線通信分野に強い企業を傘下に収める動きを展開したのです。最初にカナダのNortel Networks社に触手を伸ばしたのですが、アップル連合に敗れたことは第1回で触れています。

 その後、グーグルはモトローラ・モビリティを125億ドルという破格の値段で買収して保有特許を増強しました。モトローラは1万件を超える特許を保有しており、それらの特許群を手中に収めたことは今後の交渉力を引き上げる上で重要であったのでしょう。買収発表時に、グーグルのCEOは「モトローラの製造部門を引き継ぐことはない」と明言し、2014年1月にモトローラのスマートフォンやタブレット事業をレノボに売却しました。ただし、グーグルは、モトローラの特許は保有していることから、買収の目的はモトローラの特許にあったことは明らかです。

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