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» 2014年11月25日 09時00分 公開

ものづくり白書2014を読み解く(後編):デジタル技術は日本の製造業に何をもたらしたか? (5/5)

[田橋風太郎,MONOist]
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利益率向上に向けた施策とは

 現在、自律走行車(自動運転車)が話題となり、その中でも「日本メーカーがどこまでITを使いこなせるのか」といったところが懸念点として聞こえてくる。まだまだ分野として確立したわけではないが、この分野で先進的な技術開発を進めているのは米国Googleだ。Googleでは、大手自動車メーカーと協業し、シリコンバレーで頻繁に走行試験を繰り返している。

 こうした状況の中、日本でも総合科学技術・イノベーション会議の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)において、自動走行システムを1つのテーマに掲げ、官民一体で研究開発に取り組む方向にある。また、こうした取り組みを通じて、自動運転車の社会での受け入れ方から検討し、国際的な協調を図りながら、制度(保険なども含む)を整備していくという。

 Googleの野望は、膨大な知識ベースを持つ人工知能で、世界のあらゆるモノにアクセスできることにあるといわれている。仮にそうだとすると、Googleから見れば、自動走行車もスマートフォンと同じくGoogle端末の1つで、Googleの頭脳を賢くする手足といえる。こうなってくると、メーカー側のこの部分での差別のポイントは、スマートフォンとほぼ同じになるだろう。その時には、自動車におけるITの部分は成熟が進み、差別化のポイントにはなっていないことが想定される。

 それでも、今後あらゆる分野でICTの活用が当たり前になる中、自社の「IT活用の力量とセンス」に対して、本当に疑念や不安を抱いているのなら、M&Aで米国の優秀なIT企業・ベンチャーを吸収してしまうという手もある。業界は違うが、世界最大手の小売企業ウォルマートは、ここ3年で15社ものIT企業を買収したという。理由は、アマゾン(Amazon)に代表されるeコマース企業に対抗する能力を磨くためだ。

 ものづくり白書によると、日本の製造各社のM&Aは、リーマンショックの影響で一時落ち込んだが、近年は再び増加傾向に転じているという(図12)。

photo 図12:わが国におけるM&A実績の推移(出典:レコフ社のデータベースより経済産業省作成)(クリックで拡大)

 ただし、これらM&Aの主目的は「同一・類似事業の規模拡大」にあり、「次なる事業の開発・相乗効果」や「新規事業への投資」を狙ったM&Aは相対的に少ないようだ。

利益率アップに向けたビジネスモデル転換

 本稿の前編「国力低下が製造業の土台を揺るがす!? ――日の丸製造業の現在地」でも(アップルなどの例を基に)少し触れたが、日本の製造企業は全般的に利益率が低い。その利益率と、売上高シェアをベースに、北米・欧州・アジアの製造企業と日本の製造企業の競争力を比較すると、日本の製造企業は「製造段階の競争力」はトップの北米企業に次いで高いものの、「総合段階の競争力」は、4地域中最下位であるという。要するに、製造・販売を通じて最終的な利益を得るための能力が低いということだ(図13)。

photo 図13:製造段階の競争力指数(左)と総合段階の競争力指数(右)(出典:日本機械輸出組合「日米欧アジア機械産業の国際競争力分析」)(クリックで拡大)

 ものづくり白書では、この「総合段階の競争力」強化には、「加工・組み立て」の優位性に力点を置くばかりではなく、上流の「開発・設計」や下流の「販売」の改革が必須との見解を示している。こうした上流・下流の改革におけるポイントは、以下の通りである。

上流:製品の高付加価値化

  • 設計・開発プロセスの改革を通じた市場ニーズ・技術シーズの取り込み
  • 新技術の取り込みによる製品の高度化
  • 設計・デザインの工夫による機能の高度化

下流:売り方の改革による高付加価値化

  • 製品・サービスが融合した新たなプラットフォームの提供
  • ユーザーデータ分析などのサービスを提供するプラットフォームの提供
  • 顧客戦略の強化による新規顧客層の開拓、販売形態の改革、ブランド力のアップ

 これらのポイントは、ある意味で、業績を伸ばしている製造企業のビジネスモデルのポイントを集約したもので、背後には、情報共有・活用の高度化やビッグデータや「Internet of Things(IoT)」、クラウドの利活用といった方向性も見える。言い換えれば、「総合段階の競争力」を高めるカギは、ITでどうビジネスモデル改革を推進していくかにあるともいえるということだ。

 IT/デジタル技術は、モノや人の機能をデジタル化することで、さまざまな変革のうねりを巻き起こしてきた。例えば、それまで重要と思われていた人の役割・技能を不要にしたり、その逆に、人の潜在能力を引き出したり、旧来型のビジネスモデルを破壊したり、企業の優位性を弱点に変容させたり、市場での強者を弱者に転落させたり、その逆を起こしたりといった具合だ。デジタル技術の革新が誰を利することになるかは分からない。だが、少なくとも、自社・自組織を利するに仕向ける努力は続けるべきかもしれない。

Profile

田橋風太郎(たばし ふうたろう)

フリーランスライター。IT系および経営系の雑誌編集長などを経て、2014年に独立してフリーに。ITと経営、製造業の運営、などをテーマに、雑誌やWebサイトで執筆活動を行う。




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