被災地の思いを乗せて飛ばなきゃ――鳥人間王者・Windnautsの秘密(前編)鳥人間コンテスト インタビュー(1/3 ページ)

琵琶湖の夏の風物詩として知られる鳥人間コンテスト。この大会に、東北大震災で被災しながらも出場して優勝を成し遂げたチームがあった。その活躍の裏にどんなドラマがあったのか。

» 2014年12月03日 08時00分 公開
[加藤まどみMONOist]

 鳥人間コンテスト選手権大会は、毎年7月に滋賀県の琵琶湖を舞台に開催される人力飛行機の競技会だ。この大会で東北大学の人力飛行機サークル「Windnauts」は、2011年、2012年と連覇を成し遂げた。

 この時の機体が復元され、2014年11月29日からスリーエム仙台市科学館で展示されている。Windnautsの強さの秘密や製作工程、そして震災から連覇までの話を、当時のサークルのメンバーと同科学館に聞いた。

2011年度の機体「Riih」のテスト飛行の様子(以下、表記のないものは東北大学Windnauts提供)

東北の科学館としてできることは何か

 鳥人間コンテストは1977年から続く、読売テレビ主催のテレビ番組である。モノづくりに関する競技会としては一般に広く知られているものの1つと言っていい。出場者は大学生をはじめ、高専の学生、社会人、また海外からの参戦もあるなどバラエティ豊かだ。現在は、人力プロペラ機で飛距離を競う「人力プロペラ機ディスタンス部門(以下、ディスタンス部門)」と、一定条件下で達成時間を競う「人力プロペラ機タイムトライアル部門」、そして人力を使わない滑空機で飛距離を競う「滑空機部門」がある。

 東北大のWindnautsは、今年(2014年)で22年を迎える鳥人間コンテスト出場のために結成されたサークルだ。1997年に初出場、2006年に初優勝を果たして以来、ディスタンス部門の強豪の一角を占める。2008年大会では、当日のコースの最大距離36kmを飛び切った。コースが延長された今もこの記録は破られていない。普段飛び立つと戻ってこない機体が、折り返して応援席の目の前に着水した様子は感動的だったという。

 スリーエム仙台市科学館(以下、科学館)で優勝機体を展示しようという話は、連覇を成し遂げた2012年の冬に始まった。当時科学館では、被災地の復興のために館として何ができるのかを考えていたという。そんな中、目に留まったのが「Windnautsの連覇」というニュースだった。震災の年にモノづくりに取り組んだ学生たちを展示を通して紹介することによって、復興に役立てるのではないかと考えたという。

 2011年のチーム代表を務めた白畑太樹さん(現在は現在東北大学大学院工学研究科に所属)をはじめとする当時のチームメンバーは、機体の復元展示を打診されたとき、すぐに引き受けたという。鳥人間コンテストは関西で行われる上に、機体は着水、改修の際に破損するため、地元東北の人たちが目にできる機会はほとんどなかった。

 「今までの活動は自分たちの優勝という目的をもって完結していました。ですが震災の時にたくさんの人にメッセージをもらい、活動を見てくれている人もたくさんいることを実感しました。今回の話はそんな人たちに実機を見てもらえるよい機会だと思いました」(白畑さん)。スリーエム仙台市科学館 主任指導主事の中澤堅一郎氏は「この1年間、機体の復元作業を館内で一般公開しましたが、当時のフライトを覚えていらっしゃる方も多くいます。地震で中断した期間もあり、大変な思いをして出場した年だったと思います。当日のフライトもトラブルに見舞われながらも優勝するなどドラマチックでした。そんなこともあって記憶に残っているのでしょう」と反響を語る。

スリーエム仙台市科学館の新展示「人力飛行機」設置イメージモデル(スリーエム仙台市科学館提供)
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