モノづくりとICTが融合した先には何があるのか?モノづくり最前線レポート(2/2 ページ)

» 2015年02月24日 15時00分 公開
[三島一孝,MONOist]
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“つながる”ことが付加価値を生む

 一方、西岡氏は「つながることが付加価値を生む」と強調する。西岡氏は、生産スケジューリング技術の標準化団体であるPSLXコンソーシアムを設立し、現在も、日本機械学会生産システム部門長として「つながる工場」研究分科会を主査する他、NPO法人ものづくりAPS推進機構副理事長などを務め、工場の連携や進化に継続的に取り組んできた。


photo 法政大学 デザイン工学部 教授の西岡靖之氏

 「メイカーズムーブメントなどで、ビット(情報技術・ICTの世界)とアトム(物質・モノの世界)との境界線が低くなっているということが話題となったが、このためにモノづくりの世界も大きく仕組みが変わろうとしている。ICTと同様にサービス化、オープン化、モジュール化の動きが本格的に始まっている」と西岡氏は述べる。

 また「高度な日本のモノづくりはいずれ海外に流出する。工場がある種のネットワークで“つながる”仕組みが作れていない場合、その付加価値を守る手段はない。流出するだけになってしまう。工場やサプライチェーンがつながっている場合は、海外のモノづくりで得られる付加価値を日本国内に還元する仕組みも作れる。知財戦略で考えた場合でも利点がある」と語る。

photo B-EN-G 取締役でプロダクト事業本部長の羽田雅一氏

 一方、ICTシステムを見た場合、現状ではモノづくりを管理するSCM(Supply Chain Management)は、企業の財務や受発注などを支えるERP(Enterprise Resource Planning)システムの一部である場合が多く、この領域しかカバーしていなかった。実際にモノを作っている現場までの間にはさらにいくつかのシステムが存在する。例えば、SCMの下にはMES(Manufacturing Execution System)や産業制御システムであるSCADA(Supervisory Control And Data Acquisition)、さらに装置そのものを制御するPLC(Programmable Logic Controller)などがあり、製造情報の入出力が行われている。

 羽田氏は「一貫したシステムとして垂直に統合できることで、製造に関する一連の情報を一元管理できることになる。製造現場で発する情報に対し、すぐに生産管理の領域に取り込んで、部材調達などに反映できるようになる他、これらのデータを基に状況が変化した際に、現場にすぐにフィードバックが行えるようになる。またデータをクラウドに保持できるようになることで、負担を少なくビッグデータ分析などの処理を行えるようになり、新たな知見を生み出すことにもつながる」と述べている。

photo ITアーキテクチャ面でのつながる効果 ※出典:B-EN-G

つながることを阻む要因

 しかし、モノづくりの現場を結ぶ、縦と横の連携を実現するのは容易なことではない。川野氏は「つながらない現状」に対する問題点として以下の4つの問題点を挙げる。

  • 基幹系の通信はAPIがベンダー固有
  • 制御系の通信はカオスの状況
  • 「オープン規格」は多いものの「統一規格」ではない
  • 現行のスマートファクトリーは局所最適化されたスタンドアロン型(その工場でしか実現できない高い生産性)で全体最適とはいえない

 「インダストリー4.0では装置間や基幹系との通信はOPC-UAが推奨とされており、これらを利用することを検討することも重要だ。また装置ごとのリファレンスモデルや装置プロファイルの合意形成を目指し、APIの標準化で『競争領域』と『協調領域』を切り分けていくことを考えるべきだ」と川野氏は語っている。

日本はどうすべきか

 これらの障壁を抱えながら「日本はどうすべきか」という点については、川野氏は「現状の局所最適が合う部分と、全体最適を求めなければならない部分がある」と指摘する。「現状規格が独自で国内市場が脅かされない製品分野であれば、局所最適化された工場で問題ない。しかしグローバル化する中で、海外展開も含めた製品であれば、ある種の標準化と全体最適化が必要になる」(川野氏)。

 また、今後の日本の取り組みについて川野氏は「どういう形が最適なのかは言い難いが『日本版インダストリー4.0』を国策とし、後発の遅れを挽回することが必要になる。そのためには標準システムアーキテクチャを国際標準規格化しなければならない。またグローバル化した国内大手企業の利害不一致による調整も必要になる」と述べる。

 加えて「ドイツと同様の立場にある日本は、製造立国としての競争力を保つために協力し合えるところも多いはず。メカトロニクスというフィジカルレイヤーを共に押さえることで成長できる。競争力の面で懸念する動きもあるが、外部とつながる外側は標準規格で対応し、製品の中身は独自仕様で差別化を図ればいい。標準化に対しては、議論に加わってもよいし、標準規格として決まったものを実装する立場にたってもいいだろう」と川野氏は語っている。



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